Ⅰ
中学3年の7月頃、
僕は、友人の彼氏にレイプをされ男性恐怖症、人間不信になっていた。
母子家庭で、身一つで僕を育ててくれた母にはどうしても話すことができず、部屋に閉じ籠った。
母は次第に弱っていく僕を見かねて、山奥の田舎に住んでいる祖母の家に連れていってくれた。
祖母の家でもあまり外に出ず、活動範囲は家から少し離れたごみ捨て場までだった。
ある日の朝、いつも通り人がいない4時頃にごみを捨てに外へ行くと、蹲って苦しそうにしている女の人がいた。
僕は祖母を呼ぼうか迷ったが、ふらつく彼女を放っては置けず、駆け寄った。
"大丈夫ですか"と声をかけた、はずだった。
しかし、僕の喉から音は鳴らなかった。
声が出なくなっていたのだ。
母とも、祖母とも会話をしていないせいで気が付かなかった。
いや、気が付いていたのだ。現実を見るのが怖かっただけなんだ。
あの忌々しい日、僕の上に乗る男は僕の首を絞めた。
声を出してはいけない、暴れてはいけない、抵抗をしてはいけない。
すべてを体に染み込ませられていた。
その事に気が付いた僕はショックでその場に立ち尽くした。
人の気配を感じたのだろう、彼女が僕の方を見た。
手を、伸ばしてきたのだ。
自分の方が辛いはずなのに、泣きそうになっている僕に微笑んだ。
「どうしたの、泣かないで」
僕は思わず彼女の手をとり、抱き締めた。
なんて細い身体なのだと驚いた。
少し力を入れすぎたら折れてしまうのではないかと、怖くなった。
彼女の体は酷く冷えきっていて、震えていた。
僕は彼女を抱えて、祖母の家に戻った。
ごみはちゃんと捨てた。
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