第5話 実家を出る決意 藤村朱里
ベッドに横になりながらも、顔を枕に押し付ける。
「兄さんのお馬鹿……」
世間は突如東京に出現、占領している悪魔とかいう不思議生物で持ち切りだが、藤村朱里にとってはそんなのは些細な事情に過ぎない。というか、兄秋人を貶めるような社会などいっそのこと綺麗さっぱり滅んだ方がすっきりする。
秋人が殺人事件で逮捕されてから始まった、想像を絶するバッシング。当初、藤村家にも報道陣が詰めかけていたが、兄が既に勘当同然で藤村家を出ていることを知るとぱったりと止まる。
もちろん、これは政界財界に顔が利く父の圧力もあったのだと思う。だが、もっとも主要因となったのは、父が報道陣の前で、秋人は藤村家を出ており、赤の他人だと宣言。そして幼少期の兄についてあることないことを被害者面で口汚く罵ったことが最も大きい要因だと思う。
秋人は既に社会人であり、その責任は藤村家にはなくむしろ被害者である。マスコミどもはそう結論付けて、藤村家を苦しめたとされる幼少期の兄の素行の話へと関心を移してしまった。
(もう堪忍袋の緒が切れたわ)
人とは物事を都合よく理解したい生き物だ。だから、両親や兄たちがもう少し真面であって欲しい。そう心の底では思っていたのかもしれない。
だが、自己保身しか測れぬ醜い父や後妻、そして兄たちの醜悪な行為は、朱里にこの藤村家に対する未練のようなものを綺麗さっぱり消失させてしまっていた。
(この家を出て兄さんと一緒に暮らすにしても、最優先は兄さんの無実を証明することよね)
秋人兄さんはあんな外見をしていて誤解を招きやすいが、父や兄たちよりもよほど優しい人だ。朱里も何度秋人兄さんに助けられたかわからない。あの人が女性を猟奇的に殺した? 到底あり得ない話だ。
それにあの事件は私情を交えなくても不自然過ぎる。
まず、あの事件には、警備員というもう一人の犠牲者がいる。もちろん報道では秋人兄さんが証拠隠滅を図って殺害したと断定していたが、秋人兄さんはそもそも阿良々木電子の社員。殺害などしなくても社内外を出入りできる。
秋人兄さんが逮捕されたのは、殺害現場だったらしい。なら警備員を殺して侵入したこととなるが、わざわざ、猟奇殺人をするために警備員を殺害したことになってしまう。
仮に計画的な犯行で証拠隠滅を図るつもりなら、犯行現場に確実に人がいる可能性がある会社を選択したのも不自然だ。というか、犯行は普通に被害者の自宅を選択するだろう。
ほら、まったくピースが噛み合っちゃいないんだ。
(でも、どうしよう。私人脈なんてないし)
朱里一人では、秋人兄さんの無実を晴らすのは不可能。協力者が必要だが、当然朱里には警察に知り合いなどいない。弁護士にでも相談してみるべきだろうか。いや、弁護士を雇えば大金が必要となるが、そんな資金学生の朱里にあるはずがない。
父や兄に借りるのも論外だ。この家を出るためにも、可能な限り借りは作りたくはない。
(でも、一応、相談だけでもしてみるべきかも)
相談だけなら数万でも済むだろうし、朱里にも出すことができる。
ネットで刑事事件の弁護士事務所を検索していると刑事のタグでヒットしたのか、『阿良々木電子の猟奇殺人の容疑者がホッピーだった件について』という題名が目に留まる。
(阿良々木電子の猟奇殺人の容疑者って兄さんのことじゃ?)
首を傾げながらそのサイトをクリックすると――。
『ネットアイドル和月に添付された動画により、阿良々木電子の猟奇殺人の容疑者が脱獄しホッピーとなって東京を救っている姿がリアルタイムで流れている。アドレスはこちら』
上記の記載とホームページのアドレスが添付されていたのだった。
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