第22話 ミノタウロスの屈服
豪風をまとったハンマーが俺の頭部を爆砕せんと高速で迫る。それを鼻先で避けつつも、解析をする。
『ミノタウロスクラウン――ミノタウロスの王』――平均ステータス1200。名前は真面目だし、あの人を小馬鹿にしたかのような設定はない。強さも今の俺にとっては雑魚キャラに等しい。これはこのクソッタレなゲーム盤の上でのことではなくグリムの言うあの人ってのが差し向けた刺客ってところだろう。
もういい。こいつの強さは分かった。俺の敵とはなりえない以上、とっととこの茶番を終わらせて、カドクシ電子に謝罪に向かうとしよう。
俺の左の横っ面に振るわれるハンマーを左手で掴む。
「BMO?」
僅かに首を傾げるミノタウロスクラウンに、俺は右拳をその腹に突き上げる。
数メートル上空に持ちあがる奴の身体。間髪入れずに上空に跳躍していた俺はその奴の身体に踵を叩きつける。
高速で地面に落下し、建物を大きく揺らす。そしてクレーターの中心にいる奴のその全身に拳の雨を降らせる。
「BMO……」
片膝をつき地面に血反吐を吐くが、決して闘志を失わないミノタウロスクラウンに自然に口端が上がるのがわかる。殺そうかと思ったが少し気が変わったぞ。こいつの愚直な感じが気に入った。
「おい、俺はお前よりも圧倒的に強い。わかるな?」
「BMO」
小さく頷く黒牛人。どうやら人語を理解できるようだな。おまけに素直ときたか。正直、あのグリムとかいう馬鹿よりよほど救う価値がある。
さて、この黒牛人を差し向けた奴は臆病だ。しかも病的に。だとすれば、口封じの仕掛けが為されてしかるべきだ。
千里眼でこの黒牛人の身体の各パーツを特定し解析を掛ける。すると、心臓に突き刺さる杭のようなものが発見できた。これがこの黒牛人を縛っているものの正体か。
俺は地面を蹴り黒牛人に接近すると、右の掌をその杭のある胸部へ押し付けて、千里眼で場所を特定し、【チュウチュウドレイン】によりドレインする。突如、俺の右手に生じる【隷属の釘】という新規アイテム。ぶっつけ本番だったが、どうやら【チュウチュウドレイン】についての実験は成功だ。
【チュウチュウドレイン】は特定の物、生物から成分を分離する能力。座標を指定する必要があるから、千里眼により視界が確保されていなければ不可能だが、こんな使い方もあるわけか。
さて、考察はここまで。アイテムボックスに杭を収納し、
「肯定だったら首を縦に、異なっていたら首を左右に触れ。できるな?」
黒牛人に尋ねると、
「……」
戸惑いつつも小さく頷く黒牛人。
「クサレ外道によるお前への枷は解いた。もうお前は自由だ」
「BMO?」
パタパタと全身を叩いていたが、カッと目を見開き、
「BMOO!! MO!」
何言っているかは、まったくわからんが、俺に敵対的な態度は読み取れないからきっと喜んでいるんじゃないのかと思う。
「ではそれを踏まえて質問だ。今のお前は人を傷つけるような存在か?」
「BMO‼ BMOO!」
首を左右に勢いよく振る。
「人を傷つけたいと思うか?」
「BMO!」
再度首を左右に勢いよく振る。
「あいつ以外で人を傷つけたことはあるか?」
首を左右に横に振る。
「なら話は早い。当面、あいつらに協力してくれねぇか? 近いうち、迎えにいく」
「MO――!」
頷きながらドスンドスンと飛び上がる黒牛人。多分、喜んでいるんだよな。
俺は今も呆然と俺達を眺めているスキンヘッドの男に視線を固定し、
「もうこの黒牛人に一切の危険はない。お前らに預ける。お前ら警察の指示に従うように命じて置いた。俺が迎えにいくまであいつら馬鹿どもの摘発にでも使ってやってくれ」
そう叫ぶ。あのグリムとかいう糞餓鬼も、一応あれでしっかり生きている。多分、あの黒牛人が手加減でもしたんだろうが、マジで生命力だけはゴキブリ並みだよな。なら、黒牛人が裁かれる理由は何もない。
「わ、わかった」
スキンヘッドの男が頷くのを確認しほっと胸をなでおろす。あのスキンヘッドの男は損得勘定くらいありそうだ。あの戦闘後に俺とドンパチはやりたくはなかろう。黒牛人の安全は状況が急変しない限り保たれるとみてよい。
「ホッピー!」
「すごい、すごいよ、ママ、ホッピー、あの牛のお化け、仲間にしちゃった!」
立ち上がり両手を握りしめ、観戦していた子供達が一斉に歓声を上げる。他の客たちも興奮気味に話し込み始める。
あとはあのクソガキの処理だな。俺は奴をあのままにしておくほどお人好しじゃない。
地面を蹴ってグリムの傍まで到達すると、奴の全身を千里眼で隅々まで鑑定する。
「ビンゴだ」
案の定、小さな杭が心臓内にあった。その杭を【チュウチュウドレイン】により奪い取り、詳しく鑑定する。
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【隷属の釘】:一定の条件の元、強制的に相手を隷属させる釘。ただし、発動者の魔力が相手の耐魔力の5倍を超えなければ効果はない。
〇アイテムランク:高級(3/7)
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俺は釘を奴の胸に触れて、【他者に害を加えようとしたら即座に約1日、虚脱した状態で七転八倒の痛みが続く】の条件を念じながら、魔力を込める。杭はスーと光の粒子となり、グリムに吸い込まれていった。これで奴は他者に一切の危害を加えられなくなった。より正確には危害を加えれば地獄の苦しみを受ける。あとは奴次第だろうさ。
わざわざこの悪質極まりない条件を教えてやるほど俺はお人好しではない。精々、一度、地獄を見るがいいさ。
面倒なことになる前に、そろそろとんずらしよう。
俺に近づいてくる気配に振り返ると、
「ご協力、感謝します。いくつか聞きたい事がありますのでこの後、お話を伺えないでしょうか?」
隊長らしき年配の男が丁寧に俺に同行を求めてきた。この状況、前にもあったよな。俺もまったく成長しないということなのかも。
「……」
返答すらせずに、以前と同様、床を蹴り上階へと跳躍しモールの屋上へ向かう。そして、狐の仮面をアイテムボックスへと仕舞い、非常階段から悠々とショッピングモールを後にしたのだった。
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