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社畜ですが、種族進化して最強へと至ります  作者: 力水
番外編 第一章 新たな面倒ごと
202/202

第19話 怪物の逆鱗 小測金也


 参議院議員小測(こそく)金也(かねや)はイライラと足裏で床を叩きながらも、右手に持つグラスに継がれた酒を喉に通す。

 冒険者ごとき下級国民崩れが、国会議員である金也の息子を叩いた。

 国会議員とは、この日本の意思決定に関わっている頂点にたつ人間。特に小測(こそく)のように代々の地盤を受け継いできている職業的政治家は、いわば現代の貴族だ。法の番人を気取る警察だろうが、綺麗ごとを宣いたがるマスコミだろうが、暴力しか能のない暴力団どもだろうが平伏させる権力を持っている。それをどこの馬の骨ともわからぬクズにより息子が叩かれたのだった。まさに顔に糞尿をまき散らされたに等しい愚行にして恥辱。そんなこと、到底許せるはずがない。


(冒険者の資格剥奪程度で済むと思うなよ! この日本で生きいけなくなるまで追い込んでやる!)


 既に知り合いの警察官僚とマスコミには働きかけている。時期に一般市民に手を上げた恥知らずな冒険者として奴は糾弾されるはず。


「パパ、あいつこの俺に手を上げたんだし、ちゃんと裁かれるよね?」


 不安そうな息子の疑問に、


「ああ、ちゃんと刑務所にぶち込むよう手は打っている」


 いつものように肯定してやる。


「よかったぁ。流石パパ、あとさ、大学の女、少々やり過ぎちゃってね」


 ペロッと舌をだす息子に大きなため息を吐く。


「お前は将来、この小測(こそく)家の地盤を継がにゃあならん身だ。ほどほどにしとけよ」

「でもぉ、パパも昔色々やんちゃしたんでしょ?」

「今と昔は違う。色々マスコミが五月蠅いんだ。自重はしておけ!」

「わかったよぉ。暫くは大人しくしてるぅ」


 まったく。自分はここまで脇が甘くはなかったのにと内心で愚痴っていたとき、秘書官が部屋の中に飛び込んでくる。


「何事だ?」


 普段冷静な秘書官の慌てふためいた様子に眉を顰めて尋ねると、


「そ、外に大勢のマスコミが詰めかけていますっ!!」


 窓の外に人差し指を向けて裏返った声を上げる。


「マスコミぃ?」


 窓側に近づき二階から見下ろすと、数十人にも及ぶ人で溢れていた。


「な、何だこれはっ!?」


こんな状況になるような間抜けな真似などしちゃいないはずだ。


「坊ちゃんが友達と……その……」

「はっきり言えっ!」 


 口ごもる秘書官に猛烈な悪寒を感じながら強く促すと、


「坊ちゃんが女性を脅迫して、それを議員が揉み消したのだと主張しています!」


 ヤケクソのように大声で叫ぶ。

 確かに、週刊誌の一社、二社なら漏れてもおかしくはない。だが、この報道陣の数は疑惑レベルじゃない。既に事実が公になってしまった時のものだ。


「何がどうなって――っ!!」


 家の前で声を張り上げているマスコミの関係者の右腕の腕章を一目見て、この事態のことの顛末を明確に理解した。


「あ、あの腕章、あの野郎、裏切ったのかっ!!」


 あの腕章は大手のテレビ局――東在テレビ。東在テレビの社長とは知り合いであり、この件は取り上げないでもらうよう頼んでいたのだ。

 グツグツと煮えたぎるような怒りを全力で抑えながらも、奴の携帯に電話を掛ける。


「貴様、どういうつもりだっ!?」

『ご覧になっている通りです』

「儂を裏切ればどうなるかわかっているのか?」


 過去に奴の子息が起こした無免許障害事故を揉み消すのに手を貸したのだ。以来、この男は小測のマリオネットとなっている。


『ええ、でも流石に私の勝手な保身のために会社全体を犠牲にするわけにはいきません。私には守らねばならない社員がいますから』

「会社全体を犠牲だと? あの件をばらせばお前の会社も少なからずダメージを負うんだぞっ!?」

『貴方は……触れたんだ』

「あ!?」


 低い声で聴き返すが、


『あんたは怪物の逆鱗に触れた! やり過ぎたんだ! もう、終わりなんだよっ!』


 金切り声を最後に東在テレビの社長は電話を切ってしまう。

 くそっ! あの馬鹿社長の処遇はあとだ。この状況を乗り切らねばならない。

 マスコミは、所詮疑惑で動いているにすぎん。こちらが警察を押さえている以上、疑惑がはれればすぐに収まるはず。

 

「パパ?」

「五月蠅い! 少し黙ってろ!!」


 馬鹿な息子を怒鳴りつけると、廣井警視に電話を掛けようとするが、その前に着信がなる。

 番号は浅井幹事長からだった。当時文部大臣であった浅井幹事長は、あの悪魔襲来の事件で当初から現総理である維駿河(いするが)総理の支持を表明。氏原陰常の失脚により、党内での地位を不動なものへとし、今や党の幹事長まで上り詰めている。浅井氏は、今や雨宮財務相と並び、次期総理に近い人物とも言っても過言ではない。

 あの頭の固い男のことだ。大方、この騒動の真偽でも聞いたのだろう。


「これは浅井さん、これらは根の歯もない――」

『いや、説明は不要だ。大まかな事情は娘から聞いて知っている』

「む、娘さんですか?」


 悪寒がする。これは政治に身を置いてきた金也の勘だ。途轍もなく良くない空気が立ち込めている。


『ああ、東京育学に通っている私の娘が体験実習で君の息子に大層、世話になったそうじゃないか?』


 その温かみのない声を聴き、馬鹿息子が誰にちょっかいを出したのかに気が付いた。

 浅井議員といえば、現雨宮財務相と双璧を成す子煩悩な政治家。もしこの馬鹿息子が手を出せば金也など中堅議員など破滅は免れない。


(この役立たずがッ! こんなことなら産まねばよかったわっ!)


 そう息子に罵声を浴びせたいのを全力で抑えながらも、


「わが愚息がお嬢様に何か無礼を働きましたのでしょうか?」

 

 恐る恐る尋ねる。


『彼のお陰で娘が大事に至ったわけではない。何より、娘たちももう大人だ。子供のした罪を親に問うのは筋違い。そう考えてはいたんだ』

 

 どうやら最悪の事態は回避していたとホッと胸を撫でおろし、


「息子にはきつく教育しておきます。後でお嬢様には謝罪しに行かせます。だから――」

『だから、何だね? 許せというのかね? 君の馬鹿息子の罪を隠蔽するために、彼に責任を押し付けようとした君をッ!? 笑わせるなぁーーーっ!!』


 電話越しからの劈くような怒号に、思わず身を竦ませる。


「お、お待ち下さい。これは誤解で――」

『もういい! 言い訳は、獄中でしたまえ! 君はね。もう終わりなんだよ!!』


 東在テレビの社長と同様の捨て台詞とともに、電話はぷっつりと切れる。

 しばし、脳が上手く働かず硬直していると、窓の外が騒がしくなる。

 咄嗟に下を眺めると、段ボール箱を持った幾人もの背広の男たちが門の前で列を作っていた。

 そして鳴らされる呼び鈴。秘書が咄嗟にTV電話のボタンを押すと、


『東京地検特捜部のものです。貴方には贈収賄容疑で捜索差押許可状が出ています。直ぐにここを開けてください!』


 捜査官のリーダーと思しき背広の男は、一枚の紙を示しそんな破滅の言葉を告げたのだった。


あと一話で番外編の序章が終了となります。ようやく本編ですのでお楽しみに!


【読者様へのご報告】

 2020年11月25日に、この『社畜ですが、種族進化して最強へと至ります』が発売となりました。

 書き下ろしも結構なボリュウームでありますし、内容も個人的にはよく書けたと思っています! イラストもとても魅力的です。是非、ご検討いただければ嬉しいです! 


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社畜ですが、種族進化して最強へと至りますの表紙
・ダッシュエックス文庫様から11月25日に発売予定。 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
おもろかった 更新停止されてるのは悲しいが幸せな時間に感謝
[気になる点] はじめまして、この作品を知ったのは今月はじめ頃です。 一応最後の投稿まで、一気に読ませて頂きました。 個人的な感想として、かなり楽しく面白いと思いました。 先に魔物が登場する所から始ま…
[一言] 是非続きを~
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