第15話 リベンジクエスト
前衛のケーコが地面を高速で疾駆し、忍者姿の人面犬どもの懐に入り込むとナックルが装着された右拳をその腹部目掛けて振り上げる。ケーコの右拳から生じた竜の形をした光が人面犬の上半身を丸ごと噛み砕き、咀嚼、綺麗さっぱり消滅させる。そして次の瞬間、その全身が弾けて細かな粒子となって魔石化する。
あれは、ケーコが契約した畜生王の眷属――【子竜】であり、第二階梯法術――【竜纏い】。文字通り、竜の力を纏って戦う強化系の術。学院の教科書にはどこにも載っていないから完璧に新種の術なんだと思う。
この小竜は小型犬ほどの青色の竜であり、契約の対価はなんと、ケーコのナデナデ。どうやら、ケーコはあの小竜にやたら懐かれてしまったようで、モジモジとそう主張してきた。もはや対価と呼べるかも怪しいが、本人はすこぶる喜んでいるんだからいいのだろう。
ともかく、効果は、殴ったものを青色の光の竜が食らい尽くすという単純明快なもの。射程距離が短いという欠点があるが、威力は私達の有する術の中でもトップクラスだ。
ちなみに、【購買部】で購入した超基礎術学を読んだところ、術には第一階梯から第七階梯まであり、七階梯は六道王自身との契約で成立するいわゆる禁術と呼ばれるものらしい。
さらに、ケーコがランクアップの際に選択した種族も、【竜人】、【竜軍人】を経て筋力と耐久力、俊敏性が大幅に上昇した。おまけに獲得した称号――【竜超人】により一定時間、ステータスの二項目を一時的に引き上げることが可能となっている。このように防御すらも攻撃と俊敏性に注ぎ込む。超攻撃特化型がケーコの戦闘スタイルだ。
対して絵図君はケーコとは対照的。超防御力特化型の攻撃スタイル。
今も樹木の枝の上から四方八方で絵図君に襲い掛かってくる園児の格好をした猿の魔物。
「グギッ?」
その鋭い牙は絵図君の皮膚に傷一つつけることすら叶わない。その事実に首を傾げる猿共の顔面に左手に持つ短剣を突き付ける。忽ち、炎を上げて燃え上がり、黒色の魔石化する猿の怪物。
絵図君の術もケーコと同様、強化系であり、第二階梯の法術、【超硬化】だ。この術は畜生王の眷属――【亀晶】が根源であり、その外見は亀そのもの。契約の対価は週一の甲羅の掃除。とにかく、耐久力と耐魔力が著しく向上する術だ。これも新種の術らしい。
絵図君の種族は、【打たれ強いマン】というやはり、防御力全振りの種族。
なんでもあの悪魔による東京襲撃の際のホッピーによる蹂躙シーンが彼の原点であるそうだ。
この二人が前衛。そして中衛がアーヤンと小町。
「いくよぉーー」
額に角を生やしたアーヤンがおっとりした声で左手を掲げると、木の枝の上にいる猿の怪物や人面犬どもの動きがピタリと止まる。
アーヤンの足者から出た無数の黒色の縄が怪物どもの全身を雁字搦めに拘束していた。あれは彼女の種族【鬼女】の種族特性――鬼術(下級)の束縛須部だ。
【鬼女】は文字通り、鬼種であり、人間種ではない。なんとなく予想はしていたようで本人は大して動揺していなかった。まあ、外見上の変化は小さな角が一本生えた程度。今のこの常識が裏がえっている世界では、角程度では普通にスルーされてしまう。唯一、気にするのはアーヤンの両親だろうが、包み隠さず事情を説明すればわかってくれるんじゃないかと思う。
ちなみに、アーヤンの種族特性である鬼術は、この上なく強力だ。故に鬼術以外は、試験に必要な基礎的な術のみを獲得している。
小町の黒色の銃から放たれた銃弾が、不自然な軌道を描き次々に怪物どもの眉間を撃ちぬき爆砕、魔石化する。
あの小町の武器は、【必中の爆銃】。その名の通り、強力な命中補正と爆発の効果のある銃だ。
この銃だけは私にもよくわからない。小町は特殊なクエストで、一冊の本と鍵を得た。その本の中身は黒く塗りつぶされており、辛うじて読解できたのがその効果だけだったわけ。
対価すら不明なのだ。当然、皆、こんな怪しげな存在と契約するのを思いとどまるように説得するが、小町は先生が作ったダンジョンだから大丈夫と頑として譲らなかった。
そして契約して顕現されたのがこの銃というわけ。以来、小町は黒銃に【バクちゃん】というファンシーな名前を付けて頬擦りをしている執着ぶりだ。
小町は当初から銃系武器に異様な執着があった。種族も銃系の方がよかったんだろうが、彼女の種族は【座敷童】。あのとき小町は、引き攣った笑みのまま硬直化していた。ただ、あの【座敷童】の種族は人ではなく天種という見たこともない種族。丸一日寝込んだことといい相当なレア種族なんだと思う。
「七海さん、半径500メートルの全魔物の位置を把握しましたので今送ります」
数珠を持っている坊主の男の子――阿備君の叫びにより、頭内に魔物どもの位置と姿が鮮明に映し出される。
あれは阿備君の種族、【鴉天狗】の種族特性の一つ千里眼。それを彼の法術で認識を共有しているのだ。この種族も小町同様、天種。人間種から二人も天種になるとはかなり稀なんじゃないだろうか。
ともあれ、アーヤン同様、己に本来備わった能力だけで法術を使用可能な種族であり、彼も法術以外は基礎的な術を中心に獲得している。
さて、私もそろそろ詠唱が終わる。魔物の姿と位置は既に特定済み。
「白霊炎」
私の口から紡がれた言霊により、魔物どもは真っ白の炎を上げて燃え上がり、一瞬で細かな塵となってしまう。
これは第三階梯の魔術――【白霊炎】。奈落王の眷属――【白霊王】の力で異界から特殊な炎を召喚する術。
この術の対価は私の魔力だ。私の種族【マジカルエルフ】の種族特性により、私が契約した六道王の眷属の対価は全て魔力のみとなる。上位の眷属になるほど、その対価は貴重であり、契約の締結は難しいものとなる。しかし、こと私に限っては魔力の消費を対価として契約を締結することが可能なわけだ。
もっとも、いくら理論上は契約が可能であっても、消費魔力は術の根源となっている存在の強度により決する。従って、六道王の上位の眷属と今の私が実際に契約することは魔力不足で事実上できないわけだが。
「周囲の魔物は粗方駆除したわ。まずは民間人たちの保護を優先させましょう」
私の指示に皆も大きく頷き、小走りに教官が指示した場所へ向かう。
読んでいただいてありがとうございます!
今回は修行のせいかというか、設定的な回でした。次回から物語は動きます。
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