第14話 二度目のクエスト攻略の開始
生徒たちに【鍛錬するする君】を与えて三週間が経過する。
そろそろ、あのクエストクリアの下地くらいはついたはずだ。第一クエストクリアの期限は後二週間ある。挑むのに早ければギリギリまで修行させるだけだしな。
修行地である帝都大付近の郊外に購入した少し年季の入った屋敷へと向かい、全員を居間のテーブルに座らせてステータスを確認する。
「お前らマジで強くなったなぁ」
別に世辞ではなく自然に口から出ていた。
「はい! 頑張りました!」
浅井七海が喜色たっぷりな顔でそう元気よく返答する。
喜んでいるところ悪いが、これは賛辞というより呆れに近い。全員平均ステータス150オーバー。俺が【社畜の鑑】の称号を与えていない以上、こいつらは普通に睡眠をとる必要があったはず。なのに、この上昇率。成長率をMaxに近くしたことを鑑みてもほぼ生活の全てを修行に当てたとみてよい。
「明日、クエストに挑戦してもらう」
全員スキルも充実しているようだし、クエストをクリアしていれば、あの教科書群もいくつか獲得しているはずだ。おまけに、七海たちのこのステータス。仮に、正面からぶつかってもあの魔物どもといい勝負ができるだろうさ。
「い、いきなりあれですか?」
顔を見合せる生徒たち。全員の瞳の奥には濃厚な不安が張り付いていた。
再度、あんなキモイ魔物どもと闘えと言われれば、それはそうだろうな。
第二のアスクはまだ指定されていないが、初っ端からこの無茶ぶりだ。どうせ碌なもんじゃない。こんなもので安心してもらってはあとで地獄を見るぞ。
「そうだ。不服か?」
浅井七海は生唾を飲み込むと全員の顔を眺めて、
「いえ、やらせていただきます!」
そう俺が丁度望んだ言葉を叫ぶ。
「じゃあ、一か月前同様、明日の朝8時に東京駅に集合だ。そこから全員で現地に向かう。今日だけは、しっかり睡眠はとっておけよ!」
端的に伝えると俺は自宅へ帰宅する。
次の日、生徒たちを連れて現地へ向かう。
どうも様子が変だな。自衛隊の車両が慌ただしく行き来しているし、妙に空気がピリピリしてやがる。また、面倒ごとの勃発か。
混乱の極致にある自衛隊の隊員たちに近づくと、
「止まれ! 現在ここは通行止めだ!」
車両の前で一斉に取り囲まれる。
んー、以前応対してくれた俺達にやけに好意的だった自衛隊の隊員の姿が見えない。まさかと思うが……。
「冒険者機構からこのアスクを再来週までにクリアするよう指示されたFランクの冒険者の藤村秋人です。どうかしましたか?」
比較的話が通じそうな中年の自衛官に冒険者カードを示し、この現状の理由を尋ねる。
俺が冒険者だと知り、自衛隊たちから緊張が僅かにほぐれる。
「これは失礼しました。本官は陸自の二等陸尉の白須です。民間人が潜り込み、応援の到着を待たずに自衛官数人が、その保護に向かってしまったのです」
クソっ! 大方、素人どもが長期に自衛隊が封鎖している場所を面白がって探索でもしようとしたんだろう。
自業自得の民間人はともかく、自衛官だけでも救い出さねばな。いざとなったら、こんな茶番、俺が終わらせてやるさ。
神眼を発動すると、丁度忍びの格好をした三匹の人面犬から民間人の餓鬼どもを庇うように二人の自衛官が銃を構えているを認識する。
まったく、本当に危機一髪。こんな火事場のような状況は金輪際にして欲しいものだ。
予めポケットにしこたま入れておいた百円玉を取り出すと、今にも飛び掛かろうとしている人面犬の前の地面を指定して【皆殺死】を発動した上で親指により弾く。百円玉は弾丸のような速度で空を疾駆し、人面犬どもの踏みしめる地面を爆砕する。吹き飛ばされる人面犬どもに俺は続けざまにコインを親指で弾き、追い立てて自衛官たちから遠ざける。また、あの自衛官たちが襲われそうになったら助ければいい。
俺は民間人と自衛官たちのいる方角に人差し指を向けて、
「さーて、生徒諸君。授業の時間だ。民間人と自衛官を保護し、ここの化物共を全て駆逐せよ。心配するな。死んだら骨は拾ってやる」
ま、実際に死にそうになったら、敵を皆殺しにするがね。神眼でここの領域は全て特定している以上、俺が本気になればこのコイン一枚で本来十分なわけだしな。
「き、君が対処するんじゃないのかっ!?」
中年の自衛官白須二尉が血相を変えて突っかかってくる。
「心配いりませんよ。既に敵は全て特定している。民間人と貴方の部下は俺が責任をもって助けましょう」
「そういう問題じゃないっ! こんな危険な行為を女子供に投げるのかっ!? 本官はそう聞いているっ!」
白須といったか。この自衛官、本当にいい奴だな。
「こいつらは女子供ではなく、冒険者の卵。魔物を殺す以上、己が死ぬ覚悟もできていてしかるべきだ」
己が傷つく覚悟のないものにこの職業は務まらない。本来、冒険者とは己の命を対価に金銭を得る狂った大馬鹿野郎がなる職業だしな。
「先生、俺はやるぜ。俺は震えて何もできなかった以前の俺じゃねぇ! せっかくリベンジできるんだしなぁ!」
「あーしも!」
絵図と相良恵子の二人が叫ぶ。
「皆、フォーメーション忘れないでっ!」
リーダー役の浅井七海の指示に他の生徒たちは頷くと森の中へ駆けていく。
「待ちたまえ!」
呼び止めようとする白須に、
「彼らに任せましょう」
「君は――」
「まあ、悪いようにはなりませんよ」
強がりではなく真実だ。俺はあいつらがこのクエストを処理できる。そう考えたからこのクエストを任せたのだから。
もっとも、このクエストのボスは相当てこずるだろうがな。
俺は生徒たちのクエスト攻略の観察を開始した。
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