第11話 俺の迷宮三分クッキング
無限廻廊に籠って一日中魔物退治に精を出す。
理由は定かではないが、ランクCを超えてから途端に上がりにくくなる。それでも、やはり、獲得経験値が膨大なせいだろう。着々と種族進化は進む。
肝心要の種族進化の内容だが、俺は徹底的に迷宮開発系の種族を選択した。
結果、次のように種族進化が進む。
迷宮開発者(Eランク)→迷宮支配人(Dランク)→迷宮王(Cランク)→
迷宮を統べる者(Bランク)→迷宮神(Aランク)→惑星改造マン(ランクS)
迷宮開発を極めた種族が、【惑星改造マン】というのは相変わらずゲーム管理者のセンスを疑う。というか、仮にも神の名を持つんだし、【迷宮神】の方が【惑星改造マン】よりも上位にくるが通常だろう。
もしかしたら、ゲーム管理者にとってこの【惑星改造マン】は超レア種族的扱いなのかもな。なにせ、【迷宮開発者】から【迷宮神】までで獲得した全称号はもちろん、スキルまでも、【惑星改造マン】へ進化した途端、吸収されてしまったし。
そして【惑星改造マン】のレベルが99となり、【惑星改造の理】の称号を獲得する。
【惑星改造の理】の称号は、宇宙に存在する惑星を選択し、迷宮として改造するというシンプルな称号。ただし、今までの種族の集大成であることもあり、迷宮作成という点ではほぼできないことはない。さらに、転移装置を称号ホルダーの意思一つで自在につなげる事ができるという便利称号だ。今回の目的にガッチリ合致する。
もっとも、この非常識な称号をもってしても、生徒たちの成長速度の上昇やダメージの処理などのセーフティネットの効果だけは付与する事ができなかった。
そこで、改めてランクEの【GTA】の種族へ戻り、今度は教師系の種族を極める事にした。
この教師系の系統樹はなぜかスキルを全く覚えなかった。今までの傾向からスキルを獲得しないときは、超レアであることが多かった。今回も種族特性の希少さや特殊性などが影響したんだと思う。
そして、進化する度に下位の称号はより上位の種族の称号へと吸収され、【無限廻廊】に籠ってから約一週間後、Sランクの天種、【神師】へと至る。
このレベル99の称号、【岩戸修練所】を用いれば、今回の俺の目的は達成できる。
さてでは、実際の訓練所の作成だ。
【惑星改造の理】の称号を発動し、地球と同様の生態系のある惑星を探索すると、お隣の銀河に無人の惑星があったのでそこを使用することにする。
【惑星改造の理】により、この惑星を登録すると、タブレットのような機械が出現する。
ほほう。このタブレットによりこの星の全貌が一望できるわけか。
大海に浮かぶ六つの大陸。その大陸には密林、砂漠、草原、山脈など様々な環境があり、生物も多数生息しているようだ。
とりあえず、ここから本格的な改造だ。目的はダンジョンの開発。相応しいように地形を改造し、いくつかのアトラクションを設置しなくてはな。
次が肝心要の生徒たちの成長ブーストと大怪我防止のためのセーフティネットの効力の付与だ。これは【岩戸修練所】の称号を使えばいい。
この称号の保有する成長ブーストの効果は、称号ホルダーの有する成長速度の限度で指定した区域に成長ブーストを付けることができるというもの。まさに、今回の目的につき、うってつけだ。
惑星全体を思い描いて【岩戸修練所】を発動すると、青色の被膜に惑星が包まれる。これで成長ブーストの効果がかかった。生徒たちの大怪我防止のためのセーフティネットの効果は、最後の仕上げの際に付与すればいい。
あとは、魔物の存在だよな。これがなくては修行にはならない。
魔物は【惑星改造の理】の能力の一つである【生類創るの令】でまかなおう。材料には魂が必要だが、その点、魂の顕出である魔石はしこたまある。あんな胸糞の悪い無限廻廊ではなく、俺の好みの中二心を刺激する魔物を作成してやる。
あとは、ゲームのようにエリアボスなども設置してやろう。さらに、それを討伐すると、特殊な特典を獲得できるようにするのもいいんじゃないか? そうだな。その特典は修行に結び付くようなものがいいな。それを、小規模クエストでも得られるようにする。
【岩戸修練所】は、いわば教師系の極致の称号。教え導く事には特化している。これを使えば、上手く生徒たちの実力アップも図れそうだ。
くはッ! 面白くなってきたぞ。
我ながら気色悪い声で高笑いしながら、俺は修練所作成を開始した。
「できた……」
生徒たちの修行場という最低限の目標を確保しつつ、幾多のゲーム的要素も織り交ぜている。実益とアミューズメントを兼ねそなえた最高の施設。
んー、この一週間、徹夜したかいがあるというものだ。この充実感。これを味わいたくて長年オタクやっているんだ。
この最高の成果を誰かに披露すべきだ。いや、見せたくて仕方ない。これはきっと最高プラモを作ったマニアの心境だろうさ。
もっとも、流石に新たな惑星だと知られれば相当面倒なことになるのは目に見えてる。見ても動揺しそうもない鬼沼とバアルを招待すべきだろう。奴らも大層驚くはずだ。
この惑星に降り立つとバアルは汗腺がぶっ壊れたように滝のような汗を垂れ流しつつも、
「……これは何であるか?」
たった今説明した事実を尋ねてくる。
「だから、餓鬼どもの修行場ってさっき言ったろ?」
「いや、そう言う事ではなくであるな……」
遂に頭を抱えて蹲って唸り声を上げてしまうバアルに、無言でプルプルと震える鬼沼。
うん? どうしたんだ? どうにも予測したリアクションとは違うんだがね。
「ぐひっ! ぐははははははっ!」
突如、顔を右手で覆って噴飯する鬼沼。
「おう!?」
ビクッと身構え後退ると、
「面白い! 実に面白いぃ! 流石は我が主! 貴方はやはり素晴らしいぃぃっーーー! 遂にあのいけ好かぬ超常者気取りの管理者の領域に足を踏み入れなされたかぁッ!!」
狂ったように鬼沼は笑い続ける。もはや言葉遣いすら変わっているし、どうも普段以上に狂気じみている。というか、正直関わりたくない。人選誤ったか?
「我がマスターの御心のままに」
ドン引きする俺などお構いなしに散々笑うと、鬼沼は胸に右手を当てるとただそう告げたのだった。
俺達の事実上のナンバー2鬼沼のバックアップは貰った。
あとは、扉をどこにとりつけるかだ。当初は餓鬼どもの寮内に取り付けるのが安上がりかと思っていたが、あの普段非常識な二人の異様な様子からもそれは止めておいた方がよさそうだ。
だとすると、帝都大の近くの空き家でも借りるのが手っ取り早いが、契約終了後に原状復帰させねばならないのが面倒か。なにせ扉を取り付けなければならんわけだし。
それにあの施設は何かと使える。これっきりにするのはあまりにもったいない。何せ俺の最高傑作だしな。今後も似たようなことがあった際に使用できるよう購入するか。
この三年間、金を貯めまくったせいで20億はある。数億の拠出は確かに痛いが、金はまた貯めればいいし、当面の生活費に苦慮するわけでもない。オタク道を貫くためなら、多少の出費も構わんさ。
確かイノセンスって不動産にも手を出していたよな。この件につき忍にでも相談してみるか。
俺は携帯のアドレス帳から忍の電話番号を呼び出したのだった。
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