第9話 原点回帰
あの依頼の悪質さを目の当たりにして、お通夜のようになってしまった生徒たちを連れて、東京へと戻る。一先ず数日は待機を命じた。
あの依頼の難易度はそれなりだ。なにせ平均ステータスは大したことがないが、敵のあのよくわからん術。敵の練度はそれなりにあるといっていい。
もちろん、俺が手を貸せばワンパンで終わるが、それは今回の実習の趣旨に反する。というか、それをした時点で失格となるよな、きっと。
つまり、当該依頼クリアは生徒たち自身の手によりなさねばならないということ。
今の俺は想いを継ぎし者の全てを受け継いでいる。凡そ人が考案した戦闘技術なら教えられるのだ。ま、芦屋道満の記憶の承継から、法術や陰陽術、呪術が得意ではあるがね。
だが、いくら戦闘技術を教えても基礎となる身体能力に差があり過ぎる。まずは一定レベルまで強さを引き上げねばお話にすらならん。
当然だが、あいつらを眷属化するのは駄目だ。
国連が課した俺への制限の一つが、新たな眷属化をする際の国連総会での承認だ。
特に眷属化について日本と米国のみに認められたことへの不公平を唱える国が続出したこともあり、俺に対する最大級の制限の要請といっても過言ではない。もし破るなら、世界と反目する覚悟が必要だが、今の生活が気に入っている俺としてはとれぬ選択だな。
この制限の発端は俺の眷属化の情報漏洩にあるわけだが、実のところ、それをした奴には心当たりがある。おそらく、シン・ラストだ。理由は簡単。これ以上、真の超越者が現れないようにするため。これは別に奴が俺に敵対しているわけではあるまい。逆に奴は俺自身がドン引きするほどの忠誠を俺に向けてきているしな。
鬼沼の曰く、あくまで眷属内の主導権争いのようなものらしい。非常に面倒だが、俺としても妖怪どもの国取りゲームに興味など微塵もないし。
そんなこんなで、【系統進化の導き手】は今や俺の眷属に吸収されてしまっている。この方法により、成長スピードを上げるのは駄目だ。
だが、チンタラやっていたら時間切れでタイムオーバーとなる。
うーん。完全に八方塞がりだ。少し情報を整理しよう。
まず、目的は生徒たちの短期間のレベルアップ。無限廻廊に連れて行っても成長スピードが遅いままなら大して意味はない。かといって眷属化は使えないから、この方法で成長スピードを上昇させるのは不可能。
要は眷属化以外の方法で他者の成長を促す方法を見つけるしかないわけか。
だが、少なくとも今の俺にそんな都合の良い能力はない。というか、運営がいう最強になっちまってから種族を全く進化させてなかった。どうせ六道王の称号は獲得しているんだし、この際だ。種族を振り出しに戻すときなのかも。
そしてその解は既に俺の中にある。
俺は視界の隅にあるコマンドを操作し、スキル――【進化の系統樹】を精査する。
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進化の系統樹:未選択の分岐の基礎となる種族へ回帰することができる。ただし、一度未選択の種族に戻った場合、現在の系統樹には二度と戻れない。
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この進化の系統樹は、【系統進化の導き手】が眷属化に吸収した結果、新たに生じたスキルだ。これを使って未選択の分岐の基礎となる種族へ回帰する。既に最高のランクまで到達している以上、もうこの系統樹に留まる意味はないしな。
さて、どこに戻ろうかね。生徒たちの能力アップに必要不可欠な種族か。
視界一杯に生じた系統樹を右手でスクロールしていく。
戻るとしたら、最高位までランクアップした不死種以外の系統樹だな。
ランクGが、ホブゴブリン(鬼種)と平社員(人間種)。
ランクFが、幽鬼ホスト(鬼種)とトラブルハンター(人間種)
ランクEが、ハーレム王(人間種)とラッキースケベキング(人間種)。
いやいや、マジで碌なのねぇな。
比較的まともなのは、幽鬼ホストとトラブルハンターだが、生憎にこの二つは、戦闘種族。今更戦闘に特化しても意味はない。むしろ、今欲しいのは生産関連の種族特性やスキルだ。
だとすると、当てはまりそうなのは平社員とハーレム王か。
この点、ハーレム王は、パーティー関連種族であり、阿修羅王の眷属化を超えるとは思えない。何より、今回は他者に能力を与えるようなものではなく、その者自身で能力を向上するようなものでなければ意味はない。
やっぱり、平社員だよな。まあ、社員は社畜だった俺にとっては一番馴染みがあるし、ランクは選択し得る中で最も低いランクのG。丁度いいかもしれん。
俺は迷いなく平社員をタップした。
さて、あとは無限廻廊でランクをひたすら上げるだけだ。
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