第7話 突然の依頼への旅路
藤村秋人教官と学院長の胃が痛くなるような対面の後、学院のベンチ前で突然明日、私達が依頼に挑戦する旨、告げられる。
大慌てで明日の依頼のため走り回って準備をし、現在東京駅への電車に乗っているところだ。
「あのオッサン、マジで大丈夫なのかな?」
ケーコが不信感を隠しもせずに、ボンヤリとそんな私達の共通認識となっている事実を口にする。
「そうだねぇ。私も少し不安かもぉ」
性格的に滅多に他者への不信感を口にしないアーヤンも、ケーコの危惧に同調していた。
小町は人見知りのところがあり、見知らぬ人物には距離を置くのが通例だ。今回も少なくとも消極的には私達の意見に賛同すると思っていた。
しかし――。
「きっと、先生に考えがあるんだよ」
小町は目をキラキラさせつつ、真向からあの信頼性皆無の教官を支持したのだ。
「ねえ、小町って藤村先生と知り合いなの?」
その割にあの教官は小町に対して淡泊で、初対面そのものだった。とてもそうは見えなかったんだけど。
「い、いや、違うよ。知らないよ」
「なぜ、ドモる?」
半眼を向けるケーコに慌てたように、教本に目を通し始める小町。
(ねぇ、あれどう思う?)
耳元で囁くケーコに、
(どうって言われても……でも確実にあの教官と何かあるわよね。ま、見たところ小町の一方的なものなんだろうけどさ)
ボンヤリと返答する。
(何かって? まさか、歳の差恋愛って奴じゃんっ?)
身を乗り出すケーコに大きなため息を吐く。
(ケーコ、あんた、目をキラキラさせて言わないでよ)
(いやいや、何をおっしゃる。ナナミンだって気にはなっているじゃん?)
(そりゃあ、まあ……)
あのお堅い小町が一回り以上離れた男性と交際ね。どうにも想像できないけどさ。
(なになに? どうしたのぉ!?)
声を潜めて話しあう私たちにアーヤンが混ざってきたので、
(アーヤンには少し早い話よ)
(そうだぞ。お子様には早い話だぜ)
二人で的確な返答をすると、
「あー、また子供扱いしてぇ」
アーヤンは頬をリスのように膨らませてそっぽを剥いてしまう。
そんなところが子供だと思うんだけど。苦笑しながら、私達も昨晩調べた当該依頼の情報について目を通す。
東京駅の集合場所まで到着する。
まだ30分前というのに、他の二人も既に到着していた。
あの坊主頭の小柄の少年は、阿備犬蔵君。成績はダントツの最下位で、他の生徒たちから無能との誹りを受けている人物。
犬蔵君は、まだ17歳。東京育学で最年少の高校生。しかも、実家は超有名な高僧の家系。まさに将来を有望視されて入学が認められた人物だった。だが、ふたを開けてみれば成績は思うように伸びなかったから、家柄で入学できたと判断した偽善者どもからネチッこい冷遇を受けることとなる。
同じクラスだったから分かるが、犬蔵君は真面目だ。時間に遅れるような人物ではない。意外なのはあの金髪にピアスといういかにもという外観の青年、絵図悠馬。素行が著しく悪く、授業の遅刻や欠席は当たり前。毎日のように他者とぶつかっている。当然成績は最下位クラスであり、基本劣等扱いの私達のパーティーに押し込められたのだろう。
とにかく、遅刻欠席常習犯がこんなに早く来るなど、まさに異例といってよい。将来、本人が超有名冒険者ギルド【らしょうもん】志望だといっている噂も強ち真実なのかもしれない。
「おい、お前ら遅いぞっ!」
怒鳴る絵図悠馬にケーコが不快に顏を歪めると、
「まさかあんたに集合時間についてとやかく言われるとは思ってもいなかったぜ」
火元にガソリンを放り込むような発言をする。
「んだとっ――」
案の定、ケーコを睥睨する絵図悠馬に、
「なーに、あーしとやろうっての?」
ケーコもファイティングポーズをとる。
「二人ともやめなさい」
大慌てで制止の声を叫ぶ。
まったくこんな公衆の面前で冒険者の卵が喧嘩など冗談じゃない。特に最近、冒険者は現代のヒーローのような扱われ方をしている。そんな冒険者の卵の醜聞は、マスコミの結構の餌なのだ。現に週刊誌で頻繁にすっぱ抜かれているし。
「俺に命令すんなっ!」
「だったら、もっとしっかりしなさい。悪いけど、今の貴方は気に入らないと喚く幼子にしかみえないわっ!」
「てめぇ……」
据わった目で私を睨みつけてくる絵図悠馬に、思わず生唾を飲み込む。私の人生で男の子に睨まれた経験など多くはない。というか初めての経験だ。だが、冒険者の職務は、何も魔物の退治だけではなく、異能犯罪の取り締まりもある。凶悪な異能犯罪者と比べれば絵図悠馬の眼光などまさに子犬のそれに等しい。
「ひ、人目もあるんやし、いがみ合うのは止めまひょ」
意外にも坊主の少年、犬蔵君が泣きそうな顔で私達の間に割って入ってきた。
「軟弱オタク野郎は黙ってろッ!」
歯を剥きだしにして怒号を浴びせる絵図悠馬に、身を竦ませる犬蔵君。
犬蔵君が、アニメグッズを持っていたり、女の子のプリントされたTシャツを着ていることは学院でも有名だ。犬蔵君が馬鹿にされている要因の一つもその濃い趣味にあることは周知の事実。
もちろん私はこのような人の趣味をとやかくいう人たちには心底反吐がでる。第一、私もあるゲームの熱狂的ファンだし、あまり他者のことを言える立場じゃないしね。
反論に口を開きかけると、
「オタクが軟弱というのは心外なステレオタイプだな。お前より根性のあるオタクなど世にはごまんといるぞ」
背後を振り返ると、あの連続殺人犯のような外見の教官が呆れ顏で佇んでいた。
「アキト教官!」
今まで心配そうにオロオロしていた小町がぱっと顔を輝かせる。まるでピンチに現着したヒーローに対するこの小町の態度からいって、彼女とアキト教官は初対面じゃない。
「こんな場所でじゃれてると他の乗客の迷惑になるぞ。さっさと切符を買ってこい」
流れから言って絵図悠馬を叱咤でもするかと思ったが、これ以上責めるつもりはないらしく、軽い調子でそう叫ぶとスマホをいじくり始めてしまう。
絵図悠馬は軽く舌打ちすると切符売り場へ向かう。私達も顏を見合せつつ、切符を買うべく歩き始めた。
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