第6話 タレント事務所――フォーチュン
渋屋駅前――フォーチュンビル。
まずはフォーチュンの事務所で用事を済ませてから、最後に対策室だな。
悪魔たちに占拠されて廃墟と化した土地に建てた二十階のビル。
この一等地だし、これ、いくらするんだ? 鬼沼、マジで恐るべし。
「アキトさん、久しぶり!!」
俺に飛びついてハグしてくる和葉に、隣にいたそばかすの少年が複雑な顔をした。
あー、そういうことね。あまり、邪魔しちゃ悪いな。
あの悪魔との戦争で世界的に有名になった二人は、和月として現在、大ブレイク中。テレビを付ければ、どこかの局は必ず特集を組んでいる状態。当然、相当忙しい。今もレコードの収録か何かだったんだろう。
「おう。忍はいるか?」
「うん! 案内するね」
「忍がいるのは社長室だろう? お前らも忙しいようだし、また今度頼む。それに今日は別件なんだ」
俺の傍で縮こまる園寿へ視線を向けると、がっくりと肩を落として、
「なーんだ。お仕事か。てっきり私に会いに来てくれたのとばかり……」
トボトボと去っていく。ドナドナとふらつきながら歩く和葉の姿は、まるで売られていく子牛のようだ。
「今度、みんなで飯でも食おう!」
「うん!」
振り返り、ブンブン腕を振る。ホント、単純な奴。まあ、いい傾向なんだろうな。
「いくぞ」
「……」
無言でうなずく園寿の手を引いていく。
「相当、疲れてそうだな?」
「えー、信じられないくらいに」
力ない笑みを浮かべて、珈琲に砂糖とミルクを入れると、俺達の前のテーブルに置く。
あれから半年で、イノセンスは飛躍した。いや、その表現はもはや適切ではないな。鬼沼が無茶苦茶したせいで、様々な事業を飲み込む巨大グループ企業へと変貌しつつある。
その代表取締役社長が忍だ。気苦労はもちろんするだろうし、多分、責任感の強いこいつのことだ。碌に寝てないんだと思われる。
「あまり無理はするな。倒れたら元も子もないぞ」
「ええ、お気遣い感謝いたします。それで、その子の件ですね?」
「ああ、園寿を雇って映像やネット系の会社を立ち上げたい……らしいぞ。
親御さんには了解をもらっているが、いいか?」
「ええ、イノセンスのサイトの脆弱さは重々承知しておりますし、願ってもない申し出です」
イノセンスの急躍進は世界中からの注目の的。情報の価値は極めて高い。そのせいか、幾度となくハッカーに狙われ、重要情報を抜き取られてしまったらしい。
「もちろん、園寿、あとはお前次第だ」
「オイラ、次第?」
「そうだ。お前はこの件を受けてもいいし、他にやりたいことがあるなら、それをすればいい。それを俺達は全力で支援する」
それがこの件を引き受ける際の園寿の両親との約束だしな。
園寿は俺をボンヤリと見上げていたが、
「アキトっていつも同じこというんだぞ」
そうぶっきらぼうに呟くと口を堅く閉ざしてしまった。
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