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第15話 救出


 周囲は濃密な黒色の霧の海。梓はこの場所を知っている。そして梓の前に佇むこの女性のことも今は誰なのかはっきり理解できていた。


「やあ、秀樹の件はボクを守ってくれてありがとう」

「ううん、いいよ。わたしも母様と一緒にいられたし、父様(ととさま)にほんの少しだけ触れ合えた。役得はあったんだよ」


 小袿(こうちぎ)を着ている女神のごとく美しい黒髪の女性は片目を瞑って、親指を立ててくる。

 恰好と比較し随分現代っぽい人だ。


「それで今日はどうしたんだい?」

「うん、今日はね、挨拶にきたの」

「挨拶?」

「そう。分離していた私とリリスは完全に同化し、記憶は完全に、そして矛盾なく接続された。それはいいよね?」

「うん。そのようだね」


今の梓には雨宮梓の時の記憶とリリスの時の記憶、そして安部璃夜(あべのりよ)として生きた記憶が混在してしまっている。だが、それでいてまったく違和感がない。そんな不思議な感覚。


「これから私、安部璃夜(あべのりよ)の記憶を閉じようと思っているの」

 

 あー、そういことか。確かに、安部璃夜(あべのりよ)ならそうするだろうと思っていた。


「不要だよ」

「で、でも、そうしなきゃ君が――」


 即答した梓はいたずらっ子のような笑みを浮かべて、


「君はボクを甘く見過ぎだ。ボクは記憶の有無にかかわらず、雨宮梓さ。そして雨宮梓と藤村秋人に血のつながりなどない。そうボクにとって藤村秋人は大好きなアキト先輩であって、父、芦屋道満じゃない」

「それは……詭弁だよ。わたしがあの人を父様(ととさま)とみなしている以上、君もあの人を芦屋道満とみなしてしまうはず」


 自分自身だもの安部璃夜(あべのりよ)の気持ちくらい、嫌というほど理解できてしまう。


「うーん、ボクがうんぬんよりも君は純粋に娘として芦屋道満に甘えたいんだね?」

「……」


無言で真っ赤に赤面して俯いてしまう璃夜に、大きくため息を吐く。


「わかったよ。でも、記憶を完全に閉ざすのはだめ。君が好きなときに記憶を戻して甘えたらいいさ」

「そ、そんなことできるの?」

「何言っているのさ。君はボク、ボクは君。ほかならぬ君が言った言葉だよ?」


 璃夜は暫し上を向いていたが、


「できちゃうんだ」

「うん、できるさ。ボクらの進化した天種の力ならね」

「でも、その力に馴染むまで時間がかかるみたい。だいたい一年くらい?」

「そう。それまで君は少しの間お休みさ。そうしたらたっぷり甘えるといいよ」

「うん、そうする!」


 快活に璃夜は顎を引く。

 濃密な黒色の霧の天井から光が仕込んできた。


「そろそろ、ボクは起きるみたい。じゃあ、一年後」

「うん、一年後」


 暫しの別れの言葉を最後に梓の意識は天の光へと吸い込まれていく。


 

            ◇◆◇◆◇◆



 ――バベル53層、祭儀場。


 雨宮の居場所は、既にファルファルから得たファイルにより、知っていた。

 祭儀場の中心には、カプセルのような容器に入り、黒服を着た雨宮。


(よかった。無事だ……)


 胸がかすかに上下に動いているのを確認し、闇夜にともし火を得た思いからかその場に崩れ落ちる。

 深呼吸して【神眼】により雨宮の体内とカプセルのような装置を精査する。

 どうやら、絶望王が雨宮を人質に逃亡するため、装置を強制停止しようとしていたから、既にかなり分離されている。これなら何の障害もなく分離できるはずだ。

 俺はチュウチュウドレインで分離し、【天国と地獄の咆哮】を発動し、全快させる。

 少しの間、頬を叩いていると、ようやく雨宮は瞼を開ける。


「アキト先輩だぁ……」


 眠たい目をさらに眠たそうにしながら、甘えた声で俺に抱き着くと両手で俺の顔を抑えて、唇を軽く押しつけてくる。

 呆気に取られて完璧にフリーズしている俺から唇を放すと、その頬をぺちぺちと叩き、


「あれ、妙にこの夢、やけに生々しいような。まっいいか」


 そういうと、俺の胸に顔を押しつけて寝息を立ててしまった。


(雨宮、お前な……)


 クロノ、全て終わったよ。安心してくれ、璃夜は無事保護したぜ。

 俺はそうあいつに報告すると、数回雨宮の後頭部をそっと撫でる。そして雨宮をお姫様抱っこすると、その場所を後にした。



お読みいただきありがとうございます。


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