第8話 虫唾が走るゲームの開始
フェニックスの死とそのあとのバアルの説得により、第三師団は俺に服従した。
そして、50万ともいわれる帝都の下位悪魔と中位悪魔の避難誘導を約束させる。
現在、十朱、雪乃、銀二はその避難誘導を手伝うべく第三師団とともに行動を起こしている。
現在、雨宮がいるバベルに向けてメインストリートを闊歩している最中だ。バアルを連れてきたのは第二師団の連中の説得のため。
ところで、なぜ直ぐに向かわないかというと、大人の事情があるからだ。
仮にも相手は六道王。俺も全力を出さざるを得ない。そうなれば、この帝都は火の海となる危険性がある。俺がいくら薄情でも50万もの無辜の市民を巻き添えで殺すつもりはさらさらない。
雨宮がゲートに取り込まれるまで丸二日ある。あと数時間程度ならばまだまだ余裕があるのである。
「変なのである」
「そうだな。兵士がいなさすぎる」
俺達が既に侵入している。しかも第三師団は裏切り、低位悪魔たちを逃がしているのだ。帝都中で戦闘が行われてしかるべきだ。なのに、誰からも戦線が開かれたとの報告を聞かない。
妙な胸騒ぎがするな。そして、それは見事に的中する。
地面の真ん中に立つ立て札。そこには――。
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★ゲームしよ:低位悪魔狩りゲーム。
・帝都の500か所に低位悪魔の子供と母親の処刑場を設置。処刑場には第二師団がその守護にあたり、一定の順序と間隔で処刑を開始する。あーと、三大将もいて、突然、襲ってくるかもよ。注意してね。
・クリア条件:5時間内に子供を助けること。
・勝利報酬:捕虜の下位悪魔一万人の居場所教えてあげるぅ。
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つまり、5時間以内に低位悪魔の子供と母親を殺すから、助けて見せろ。そう言いたいんだろう。
悪魔はお前の支配する民じゃないのか? それをこんな遊びに使いやがって。どこまでも虫唾が走る奴だ。絶望王、お前には必ず惨めったらしい死をくれてやる。
「三大将の強さは、アスタロトとかいう奴と比較してどうなんだ?」
まさに悪鬼が相応しい形相で立て札を凝視するバアルに尋ねる。
「三大将は、吾輩と同格である。アスタロト元帥閣下は、元々戦闘に特化した将ではなかった故――」
「格が違うってか」
「その通りである」
だとすると、十朱とバアル以外が遭遇すれば、文字通り命懸けとなるな。しかも、突然襲ってくるとの予告。つまり、土地勘のない十朱には避難誘導している奴らの保護を任せるのが適切だろう。
事実上、バアルと俺でこの戦いの処理をするしかないわけだ。
しかし、バアルがもし三大将との戦闘でもたつくなら、完璧にタイムアップとなる。
ただでさえ、この虫唾が走るゲームのプレイヤーは俺達二人しかいないんだし、ここでバアルが三大将との戦闘に時間を奪われるなど言語道断だ。
手っ取り早くバアルの強化を図るのが吉なわけだが、やっぱり、眷属化しかないな。十朱達もとんでもなく強くなってたし、もし眷属化すれば、バアルとの通信も可能となり、この帝都での捜索を円滑に進めることもできる。うん。一石二鳥じゃないか。
口約束だがもはやバアルは俺の子分だ。眷属化してもかまうまい。それでいこう。
本人にごねられても面倒だし、どうせそれしか手がないから、こちらで勝手にさせもらおう。
「バアル、一応謝っておくぜ」
俺は指を操作し、バアルをパーティーに加えたのだった。
まいったな。パーティーに加えたら、バアルが急にぶっ倒れてしまった。
十朱達が倒れなかったのは、パーティーからの眷属への移行だったからなのかもな。
今は一刻も早く動きたいんだが、このままこの敵地のど真ん中に放置しておくわけにもいくまい。さてどうするか?
『お困りのようでやんすね』
頭の中に響くあくどい声。
ああ、そうさ。お困りだよ。でもなぜ、お前がそれを知っている? しかもこの絶妙なタイミングでだ。
「ああ、気味の悪いくらいに丁度今困っているよ」
『それは大変だぁ。直ぐにそちらに向かわせやす』
「向かわせるって、お前――」
言いかけるが、
《阿修羅王サイドから眷属増援の権利の行使の申請………………受理されました。指定された眷属の魔界への転移を開始いたします》
運営側の通告が頭の中に反芻する。
そして次々に俺の前に転移してくる五右衛門を始めとする蟲の軍団。奴らは、俺の前で跪くと、
「我ら蟲軍団ただいま参上なり。殿、お命じ候へ」
仰々しくも宣いやがった。
「いや、しかしだな……」
言いにくいが、ここは六道王の直轄領。バアル並みの強さの奴が、三体もいるときている。五右衛門では少々、荷が重いと言わざるを得ない。こんな下らん戦争で俺は、仲間を死なすのだけはまっぴらごめんなんだ。
『ご心配には及びやせん。この戦のために、五右衛門を始め、虫軍の眷属たちは旦那にお役に立つために、【無限廻廊】に潜り修行を繰り返していたんでさぁ。十分な戦力となるはずでさぁ。どうぞご確認を!』
いや、だから、そんなレベルじゃないんだって。それに確認って言ったって、あれだけ強くなった十朱達でさえも鑑定ができなかったんだ。こいつらにできるはずが……。
キラキラとした期待の籠った目で俺を見上げる五右衛門に俺は深いため息を吐くと、五右衛門たちを鑑定しようとする。
「あれ、できぃ……た?」
そして――。
「な、な、な、な、なんじゃこりゃーーーーー!!!?」
その到底信じがたい内容に天へと咆哮したのだった。
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