第3話 最終戦略会議
気が付いて、一杯泣いて、涙が枯れるほど泣いた後、俺は鬼沼を介して仲間たちを鬼沼が経営する中華料理屋に集め、事の経緯を説明した。
「なぜ、クロノを犠牲にしたっ!?」
十朱に横っ面を殴られ吹き飛ばされ背中から壁に叩きつけられた。もちろん、今の俺にはダメージなんて負わなかったけど、俺は短い付き合いのクロノのために涙を流してくれた十朱のこの行為が、このときとても嬉しかったんだ。だから――。
「ありがとう、十朱」
素直に感謝の言葉を述べる。
それを契機に、雪乃が幼児のように声を上げて泣き出し、銀二も目尻を押さえていた。
そうか。クロノの奴、すっかり、こいつらをこんなに狂わせるほど大切な仲間になっていたんだな。
「吾輩の娘のために、すまぬのである」
「すまぬ」
俺が立ち上がると、苦渋の表情でバアルとセバスが頭を下げてくるので、右の掌を掲げて、
「これは話し合ってクロノ自身がした選択だ。だから、お前らが悔いる必要はない」
きっぱりと断言する。これは俺とクロノの二人で決めた選択だ。だからその責任は誰にも譲るつもりはない。
俺は両手を数回打ち鳴らし、今も泣く全員をグルリと見渡す。
「俺は明日の朝7時に、奴らに戦争をしかける。お前ら、俺に手を貸してもらえるか?」
十朱達に視線を向ける。此度、俺はクロノの件を勝手に決めてしまった。こいつらを裏切ってしまった。だから、受け入れるかは半々だと思っている。
「一つだけ条件があるぜ」
十朱は袖で涙を拭くと、俺に睨みつけるほど真剣な目つきで射貫いてくる。
「なんだ?」
「もう一人で悩んで、苦しむな。相談しろよ! 俺達、仲間だろ⁉」
思いがけない言葉に、目頭が熱くなるのを感じながらも、
「そうだな。約束しよう」
大きく頷く。
「じゃあ、作戦会議だね、ねえ、銀二君」
雪乃も涙を拭いて顔を両手で数回打ち鳴らすと、氷水を全身から浴びたかのような引き締まった顔で尋ねてくる。
「ああ、そうだな」
まだ、涙声で頷く銀二に、俺は口端を上げて、
「では、最後のミッションについて話し合うとしよう」
俺は中華料理屋の円卓に座り、両手を組んで両肘をつく。
「とすると、まず優先的に潰す必要があるのは、そのアスタロトか?」
「アスタロト元帥閣下は、悪魔軍の頭脳。閣下が死ねば、軍は司令塔を失い瓦解するのである」
それには異論はない。ならば――。
「ならその混乱の中で、バアル、お前にはやってもらいたいことがある」
「伺うのである」
「民衆と戦意のない兵士を連れて避難しろ。この戦いは全て俺たちが終わらせる」
もう、これ以上、あんな遊びで不幸をまき散らすクサレ外道のために、誰かが犠牲になる必要はない。
それに、セバスから聞いたとこによれば、悪魔の最も多くの割合を占める低位の悪魔は人間とのハーフ。 いわば俺達の同族だ。そんな無辜の民まで、攻め入り虐殺すれば、俺達も絶望王と同じ穴の貉となる。
この戦で、悪魔という種には心底幻滅させられた。一時全てを根絶やしにしてやろう。そう思ってさえいた。だが、バアルやセバスなどの実に人間らしい思考を持つ奴らもいることをしった。全てが心を持たぬ怪物ではないことを知ったのだ。
もちろん、悪魔どもが俺達にしたことをきっと俺は許せないし、それは十朱ら他の人間達も同じはずだ。
だが、此度の地獄は俺達人類の文明発祥から追ってきた問題でもある。
他部族の人民、富、土地を略奪し、誇りや尊厳を踏みにじり、支配する。俺達人類はそれを気の遠くなる昔からうんざりするくらい繰り返し、悲劇と不幸をまき散らした。その悲劇と惨劇に心底うんざりした人々が手を取り合い、今のひと時の平穏を得ているのだ。
俺達にできたことを、悪魔ができない。そう考えるのは、聊か早計というものだろうさ。
もっとも、奴らは、人をずっと美味い家畜程度にしかみてこなかったのだ。分かり合うのは当分無理だろうが、ルールさえ決めておけば無駄な争いは回避できるだろう。
そうだ。何も今すぐ手を取り合って仲良くする必要はない。当面は、互いに侵略しない。その保障さえあれば問題ないのだから。
「絶望王の軍は想像を絶するほど強いのである。ここで戦力を分散するのは得策では――」
「ちがう、ちがう、お前には兵士共を説得して避難民の誘導に動員し、俺達の負担を可能な限り減らしてもらいたいだけだ。
それに絶望王とかいう裏でコソコソ企むようなクズの相手は俺の方が組みやすい。ほら、お前滅茶苦茶、相性悪いだろ? ヒーロー様は、柄にもないことしてねぇで、人助け、いや、悪魔助けでもしておけよ」
反論を口にするバアルに言葉をかぶせて黙らせる。
「俺もアキトに同意するぜ。まあ、鬼畜の相手を非道にさせるっていう、一種の究極的なあれだがな」
おい、銀二、その非道って、俺のことか?
「そうだねぇ。アキトならその絶望王っていう奴の思考、手に取るように読めそうだしぃ」
雪乃、それって暗に俺が奴と同類といっているぞ?
「じゃあ、絶望王の相手は全てアキトに任せるとして、具体的な作戦内容だな」
十朱の言葉に、俺達は顔を突き合わせて、本格的な内容を煮詰めていく。
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