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第22話 想いを継ぎし者


「俺の勝ちだ」


 右拳を振り上げて俺が勝利を宣言すると、


「ああ、吾輩の負けである」


 にぃと口角を吊り上げて、バアルも己の敗北を口にした。


《バアル将軍の敗北宣言を確認。藤村秋人の勝利!

運営からのウォー・ゲーム勝者へ特別ボーナスが与えらます。経験値とSK(スキルポイント)を獲得します》


《LvUP。藤村秋人のラストバンパイアのレベルは99になりました。負った傷は回復します》


《人類と悪魔のウォー・ゲームは、人類が勝利いたしました。新塾区は人類に永久に解放されます》


 天から降ってくる音調の欠片もない女による人類勝利宣言。

 俺の頭の中で、女は通告を続ける。


《ウォー・ゲームの勝利により、人類側代表、藤村秋人に【侵略権】カードが与えらます。

 【侵略権】カードの獲得により、【因果外至(いんががいし)】の概念解放がなされました。

藤村秋人が【因果外至(いんががいし)】の【第一条件――六道王の領域強度】、【第三条件――世界破滅的危機の解決】、【第四条件――六道王とのウォー・ゲームでの勝利】の条件を満たしました。肉体をより適切な状態へと強制進化させます。

 クロノの封呪の第三段階が解放されました。神器――クロノの封印は、完全解放されます。

 藤村秋人の称号【ヒーロー】は、【悪魔殺しの英雄】へと変化いたします。

 ウォー・ゲーム敗者【絶望王】から勝者人類代表、藤村秋人へ魔剣【グラム】が移譲されます。

人類侵攻中のバアル将軍及びその配下の悪魔に対する生殺与奪の権利が、絶望王から人類代表、藤村秋人に移譲されます》

 

 天の声を聴きながらも、俺も既に更地と化した赤茶けた地面に仰向けに倒れる。

 まいったな。傷自体は修復されたが、玉金の位置を直す力すらも残っちゃいないようだ。

 魔力と体力が尽きてガス欠状態になったということだろうか? それとも他に理由があるのか? まあ、動けないのは確かだし、こんな状態では雨宮を助け出せるはずもない。いずれにせよ休むしかないか。


「これで、お前は俺の子分だ。いいな?」

「敗者は勝者に従うのみである」


 当面は俺に従うってことで理解していいよな。バアルには尋ねたいことが山ほどあるが、こいつ、どことなく爺ちゃんに似ている。必要な事項以外、決して口にすることはないだろう

 だから――。


「リリスとの生活。楽しかったか?」

 

 もっとも聞きたいことだけ尋ねる事にした。

 バアルは一呼吸を置くと、


「吾輩にとって、至福の時であったよ」


 そう断言する。そこには偽りを挟む余地は一切なかった。


「柄にもねぇな?」

「ぶははっ! まったくである」


 まるで吹っ切れたかのように笑うとバアルは、


「娘を頼むのである!」


 そう叫ぶとバアルはボロボロな身体で立ち上がり一点を凝視する。バアルの視線の先には、全身黒の拘束具で覆われた男が佇んでいた。


『敗者ニハ死ヲ』

「やってみるのである」


 バアルは獣のように目をギラ付かせながらも、その全身から黒色の魔力を放出する。

そのバアルの瞳の中にある炎は、心当たりがある。


「馬鹿野郎、やめろ!」


 それは――あのとき俺を守ろうと立ち上がった母さんの瞳そのものだった。

 ざわつく心が、俺に絶対に許せぬ顛末を強く、強く主張する。


(くそがっ!)


 指一つ動かせないが、能力を使えばこんな雑魚――。

 チュウチュウドレインを使用しようとするがまったく発動すらしない。それどころか、【ラストバンパイア】の種族特性である血化もできない。俺、どうしちまったんだ?


「バアル――」


 俺が口を開いたのと黒色拘束具が開き全身から無数の毒々しい触手がバアルに向けて放たれたのは同時だった。あの鉄壁だったバアルは、嘘のように全身を貫かれてしまう。


『我ノ棘ハ絶望陛下ノ猛毒ノ牙ナリ。待ツノハ死ノミ』


 吐血するバアル。こいつが次にしようとしていることの予想くらいできている。

 だが、させねえ。させねぇよ。バアルは、璃夜の育ての親。ここで殺すわけにはいかんのだ。そう。もう二度と、母さんと同じ瞳の奴を死なせやしない。

 俺は、アイツに会うため意識を深層に潜りこませた。


 目の前に広がる闇の中にくっきりと浮かび上がる紅の檻。ぼやけていた男の輪郭も今や克明に判断することができている。

 檻の中の中心で胡坐(あぐら)をかいている経文のような文字が書かれた無数の紅の布で雁字搦めになった男。その男を拘束している紅の布は少しずつ崩壊し、塵となっているようだった。

 

『ようやく、取り戻したみたいだね』

「お前が言っていた、二人というのは、俺の中にあった芦屋道満の記憶って意味だったんだな?」

『そうさ。魂に刻まれた記憶は、認識ができなければそれは二つの個に等しい。だが、一方で記憶が繋がれば、それはもはや一つの魂さ。おめでとう。君たちは晴れて一つとなったんだ』

「別に嬉しくねぇよ。お陰でとんでもなく面倒なことになってるしよ」

『だろうね。混乱するのはわかる。でも君は藤村秋人であり、芦屋道満だよ』

「芦屋道満はただの記憶だ。俺は藤村秋人。それ以外のなにものでもない!」

『ただの記憶って……あのね、記憶は心だよ。君は心のない肉の塊に、自我があるとでもいうつもりかい?』


 檻の中の怪物は、さも呆れたというかのように、大げさに肩を竦める。


「そうだ。心がなくてもこの体には経験がある。俺はこの32年間この体で生きてきた藤村秋人だ。俺は藤村祥子(ふじむらしょうこ)の息子であり、藤村泰元(ふじむらたいげん)の孫だ。その事実は誰にも否定はさせない」

『はい、それ、勘違い! そもそも、誰も君が藤村秋人であることは否定していないから』

「はあ? だって、お前は俺を芦屋道満だって――」

『そうさ。藤村秋人と芦屋道満の記憶は矛盾なく完璧に連結されている。それは、ある意味、芦屋道満の君が永い眠りにつき、目が覚めたとき藤村秋人という名前を変えて生きていたのと大差ない。わかるだろ? どう取り繕っても君は藤村秋人であり、芦屋道満なんだ』

「違う……」

『ボクは君のことならこの世で一番知っている。だから、君が認めたくない理由もわかっているよ。それ、彼女たちのことだよね?』

「黙れ……」

『君がもし、芦屋道満だとするなら、君にとってクロノは咲夜であり、雨宮梓は君の娘の璃夜となってしまう。君はそれを認めたくはないんだ』

「黙れっ!」

『だって、藤村秋人の君は雨宮梓が好きで、芦屋道満の君はクロノが好きだから』

「黙れって言ってんだろ!!」

『いや、もしかしたら、そう単純な話でもないのかもしれないね』


 その紅の瞳で怪物は俺をしばし凝視していたが、口端を上げる。


「お前――」

 

 その不躾な視線がまるで俺の心の中を覗き見られているようで、咄嗟に口を開こうとするが、


『第一考えてもみなよ。感情や痛み、皮膚感覚に至るまで、芦屋道満として君のその記憶、君、藤村秋人のものではないと否定できるような生易しいものなのかい?』


 奴は俺が今一番考えるのを忌避していた事実を提示してきた。


「それは……」


 言葉に詰まる。というより、俺にとってあまりにもそれは的を射ていたから、何も反論が浮かばなかった。

 もし、他人の記憶が俺の中に入ったならば、当然覚えるであろう拒絶感や拒否感が全くないのだ。まるでそれは、芦屋道満が藤村秋人としてこの体を生まれながらに使用していたかのような感覚。


『もう、わかっただろ? 他の誰でもない芦屋道満の記憶だからこそ、君は――肉体、精神を含めた君の全ては、それを当然のものとして受け入れてしまっている』

「俺自身が芦屋道満であることを受け入れろと?」

『いんや。さっきも言ったろ。君はすでに藤村秋人にして芦屋道満。その事実を受け入れている。本来、この会話自体不要なものなのさ』

「だったら、なぜこんな話を俺にふった?」

『決まってる。君が悔いない決断をする上で必要だったからさ』

「悔いのない決断だ?」

『うん。君、以前のボクの言葉、覚えているかい?』


 厳粛な声で尋ねてくる。


「以前の言葉? 俺が後悔するっていうあれか?」

『うん。以前の件で同調率は跳ね上がった。既に君は条件の大部分を満たしている。あとはボクが君に渡せば、君はある選択を迫られることになる』

「相変わらず、もったいぶる奴だな。その選択とやらを教えろよ」

『その必要はないさ。だって、既に道は示されているから。さて、そろそろのようだね……』


 奴は己の覆っていた紅の布を引きちぎるとゆっくりと立ち上がる。


「は? え? お、俺?」


 檻の中に佇んでいたのは、幼い頃の姿の俺。


『ボクは【想いを継し者】。()()()に家族や仲間を奪われ、その誇りや尊厳を踏みにじられた者たちの残滓(想い)。そして、それは幼い頃にあいつに大切なものを奪われた君の心でもある。でもよかった。これでようやく、君に渡せる』


 奴は紅の檻に近づく。紅の檻には今まで存在しなかった鍵穴が出現していた。

 そして奴の右手には真っ赤な鍵。奴は右手に持つ鍵を俺に渡してくる。


「これは?」

『それは鍵。君へボクらの想いを渡すためのね』

「ま、待てよ! 意味が分からないぜ!」

『それで鍵を開けてよ。それは君にとって辛く、悲しい選択が待っているけど、この絶望の連鎖を終わらせるには必要なことだ』


 俺にそっくりの顔で奴は微笑む。そのやり遂げたような笑顔に、口から出かかった疑問を飲み込んでしまう。

 

「わかった」

 

 俺は託された紅の鍵を鍵穴にはめてゆっくり回す。


『最後に君が悔いのない選択をすることを心の底から願っているよ。じゃあね、バイバイ!』


 静かに手を振ると、俺とそっくりな奴は紅の檻とともに光の粒子となって風化してしまう。同時に俺の中に入ってくる複数の熱いもの。


 ――火の海で幼子を抱きながらも声を張り上げる青年。

 ――恋人を目の前で食い殺されて怨嗟の声を上げる女性。

 ――戦場で物言わぬ屍となる部下を抱きしめながら絶叫する武官。

 ――家族、兄弟が磔になって槍で貫かれていくのを血の涙を流しながらも眺めている少女。

 ――そして、幼い頃、大好きだった母を失い絶望の底で泣いている少年。


 それらは次々に生じ、シャボン玉のように弾けて消えていく。


《【第二条件――《想いを継し者》からの承継】の条件を満たしました》


 天の声とともに、浮かび上がる意識。

 現実に戻る。

 俺はバアルを串刺しにしている黒拘束具の紫の全触手を認識、指定し、内部の血液を全て吸収崩壊させる。同時に、バアルを選択し口から癒せと素早く口ずさみ、【天国と地獄の咆哮】のスキルにより、バアルは瞬時に全快する。

 そして触手の崩壊にもピクリとも反応できずにいる黒拘束具の男の前まで跳躍すると、奴に顔を近づけて、


「初めまして」


 奴に笑顔で挨拶をしてやる。


『なっ!?』


 突如眼前に生じた俺に、奴は驚愕に目を見開く。俺はそんな奴の首を左手で掴むと、高く持ち上げる。


「やれやれ、拷問女に、陰謀グロ映像オタク、寝取りクソ野郎に、今度は触手中二病野郎か。お前ら存外バラエティーに富み過ぎなんだよ」


 さて、こいつどうしてやろうか。

 【想いを継し者】から譲渡を受けて理解した。

 これは、絶望王とかいう抗うことのできぬ超常のクズにより、全てを奪われながらも世代を超えて紡いできた想い。人の結晶たる戦闘技術や知恵を脈々と受け継いできた想い(もの)。いつかきっと絶望王(クサレ外道)を滅ぼせるものが現れると信じて。


『ば、馬鹿な! その牙は絶望王陛下の御業だぞっ!?』


 先ほどのような片言の言葉ではなく強烈な焦燥を含んだ流暢な震え声。

 牙というか、触手だけどな。


「おう? それが素か。その方がよほど雑魚っぽくて自然だぜ」


 悪いがお前のような雑魚にこれ以上、構っている暇などないんだ。

 奴の血液をゆっくり吸い始める。


『ぐお? な、何だこれっ!?』


 裏返った声を張り上げる黒拘束具の男に、


「何って食事さ。まっ、ゲテモノの類ではあるけどよ」


 意気揚々と返答してやる。


『いひっ!』


 少しずつ痺れ、血の気が引いていく己の肉体に、黒拘束具の男は、そのドロドロに溶けた顔を恐怖一色に染め上げる。


「わかってるぜ。お前らは自己の行為に悔いるようなタマじゃねぇ。だから後悔なんぞしなくていい。ただ――」


 俺は右手を奴の顔へと伸ばし、奴の顔面を両手で掴む。


『や、や、やめろぉぉぉぉっ!!』

「命だけ置いていけぇ!!」


 俺の種族特性――ラストバンパイアの能力により、俺の右手から散々吸収した血液を顕現させ、奴の全身を覆いつくす。

 断末魔の叫びの中、奴の肉体が一瞬で溶解、吸収されるのを確認し、俺の意識はストンと失われた。



お読みいただきありがとうございます。

これで7章は終了です。残すところは、最終章のみとなりました。あと30話弱で本編は終了します。ここからはアキトの反撃となります。お楽しみいただければ嬉しいです! (^^)/


【読者様へのお願い】

 未評価の方、もし少しでも面白いとお感じなられましたら広告下側にある【☆☆☆☆☆】を押していただけると嬉しいです。(^^)/

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― 新着の感想 ―
[一言] 玉の位置を直すとかちょっと違うよ? 座り悪くなるのは「竿」であって「玉」では無い。
[一言] 話ごちゃごちゃやな。 よく分からん+話の流れが大分雑になってきてなんかもういいかなって。 アキト34歳って言ってなかったっけ? この話じゃ32歳だけれども。読み返すのもめんどーなんで間違っ…
[気になる点] 作者はこの感想をきっと読まないと思いますが、完結まで作り上げてから投稿しているとおっしゃってますがそれにしては話の流れがぐちゃぐちゃすぎて誰も頭に入ってきません。まるで何も考えずに適当…
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