第20話 二者激突
12月25日(土曜日)午前7時――新塾駅前
タイムリミットまで、1日と11時間。
洗い立てのような太陽の光がアスファルトを照らし、そのスクランブル交差点の中心には、黒で統一されたアメリカンヒーロー姿の大男が泰然と佇んでいた。
「またせたな」
「うむ、心待ちにしていたのである」
バアルが胸の前で自らの両拳を叩きつけるだけで、竜巻のような爆風が吹き荒れ、信号機やら歩道灯を吹き飛ばし、ショーウインドーのガラスが粉々に砕け散る。
「殺し合う前に一ついいか?」
「ふむ、聞くのである」
「俺が勝ったら、俺の子分になれ」
俺の台詞に暫しの沈黙。気まずい静寂の後、背後の悪魔1500名達から雑然たる声が小波のように広がっていく。
「おまえなぁ」
十朱が呆れた果てたように深いため息を吐き、銀二が右の掌で顔を覆って首を左右に振る。雪乃などもう付き合い切れないとでもいうように肩を竦めていた。
バアルも、当初呆気にとられた様な顔で、俺を眺めていたが――。
「バハハハハハハハハハッーーーー!!」
腹を抱えて笑いだす。そしてバアルは顔を凶悪にゆがめ、
「勝者は全てを手に入れる。貴様が勝てば子分でもなんでもなってやるのである!
しかし、小僧、吾輩はそんなに安くはないぞっ!!」
重心を低くし、左腕を前に置き、右肘を引き絞り、奴は空手の正拳突きのような仕草をとる。
俺も両拳を堅く握り、蜘蛛のように地面に身体を張りつかせた。
紅と黒、俺達の魔力が混じり合い、パチパチと大気が破裂し、次の瞬間、俺達は激突した。
衝突する拳。そのたびに、大地は大きく抉れ、空へと巻き上がる。
両者の激突から生じた衝撃波が、同心円状に吹き荒れ、周囲のすべてを灰燼と化していく。
――熱い! 熱い! 熱いッ! どうしょうもないくらい熱すぎるッ!!
身体の芯から湧き出る高揚感。そして、全身を駆け巡る心地よい痛み。それが俺に闘志という熱を生み、さらなる闘争に己を狩りたてていく。
バアルの右拳が俺の左頬にヒットし、頬骨がミシリと軋み音を上げる。俺は同時に重心を左に回転させて、右拳を奴の顎に突き上げる。
ゴシュッという右拳に生じる肉をたち、骨を叩き折る感触。刹那、頭部に悪寒を感じ、左腕を掲げるも、組んだ奴の両手が脳天めがけて振り下ろされる。鈍い音とともに、俺の左腕は明後日の方へ折れ曲がる。
その壊れた左腕で奴の丸太のような右腕を掴むと、身体を独楽のように回転させて、遠心力たっぷりの右回し蹴りを奴にブチかます。
俺の右脛は見事に奴の右腕にクリーンヒットし、凄まじい速度で奴は背後のビルへと飛び込んでいき、大爆発を引き起こす。
俺の折れた左腕は、俺の【ラストバンパイア】により、一瞬にして修復される。
【ラストバンパイア】の種族特性により、俺への通常の攻撃は無効化される。だから、奴の拳はまさに万能属性の攻撃なんだと思う。
「お前いいよ! 最高だ!!」
俺の口から漏れ出す歓喜の言葉。思い返してみれば、本気で殴りあったのは久しぶりだったかもしれない。
いくら殴っても死なない相手とガチンコのドツキ合い。それがこれほど楽しいものだと今日初めて知った。
少なくとも、藤村秋人にはこんなバトルジャンキー的素養などなかった。というかそんな奴らを軽蔑してさえもいた。もしかしたら、これはアキトの中の芦屋道満がそうさせているのかもしれない。
「フジムラ・アキトォォォ!!」
血まみれになりながらもバアルは天へと咆哮し、
「バアーーール!!!」
俺も喉が潰れんばかりの大声を上げて、地面を全力で蹴る。
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