第15話 追憶⑥ 安倍晴明
「璃夜が……奴らに攫われた?」
家臣の報告に、安部清明は両膝を床につき、呻き声を上げる。それは命を賭して都を守った親友との約束を守れなかったことを意味するのだから。
「心配いらぬでおじゃる。璃夜にはある術を施している。攫われた方の璃夜だけでは術を完成できぬ」
「桜様、貴方、それはどういう――!」
桜のこの上なく不吉な言葉に、嫌な汗が全身を伝う。
「叔父様!!」
襖を開けて幼子が転がり込んでくると清明へと抱きつき泣き出してしまう。
「璃夜? な、なぜ?」
「いったでおじゃろう? それは紛れもない本物。聡いそなたならオイラの言いたい意味わかるであろう?」
「まさか、術で分けたのか?」
「そうでおじゃる」
気が付くと彼女を殴りつけていた。当然だろう。この女は、大切な妹と親友の忘れ形見にそんなむごい仕打ちをしたのだから。
しかし――。
「え?」
砂のようにボロボロと崩れ落ちる桜の身体を視界に入れ頓狂な声が口から漏れ出る。
「さ、桜様、その御姿は?」
桜様は寂しそうに笑うと、
「【分霊魂】は、オイラの最大にして最後の秘術。贄とするのはオイラの命よ」
最悪の結末を口にする。
「そ、そんな……」
絶望で目の前が真っ暗になる中、
「よいのでおじゃる。道満が死に、オイラにはもうこの世に未練などない。この子だけでも無事でいてくれたのなら。それだけで、オイラは満足じゃ」
桜は肩の荷が下りたような明るい表情で笑うと、ゆっくり立ち上がり、
「さらばじゃ」
別れの挨拶をすると、透き通る美しい翼をはためかせ夜空へ消えていく。
気が狂いそうになるほどの激烈な喪失感に、声を上げそうになるが、
「叔父様?」
不安そうに見上げる幼子を視界に入れてどうにか踏みとどまる。
「大丈夫。もう大丈夫だよ」
誤魔化すように、躊躇いがちに尋ねてくる璃夜を強く抱きしめる。
最愛の妹も、人生でただ一人の親友も、素晴らしい上司も全て失った。残されたのは、この子だけ。
そうだな。とても疲れたし、そろそろ立ち止まってもいいだろう。今後の清明の人生、この子のためだけに費やそう。それが清明の彼女たちに対する義務であり最後の意地だ。
「璃夜、これから君は安部璃夜だ。いいね?」
涙目でコクンと頷く彼女を安心させるべく、精いっぱいの強がりの笑みを浮かべ、彼女の手を引いて歩き出す。
お読みいただきありがとうございます。
もう少しで本編は完結なので可能な限り更新していきたいですが、次回から更新スピードがやや低下するかもしれません。毎日できなければ申し訳ございません。m(__)m
【お願い】
下にある★★★★★をクリックすることで評価ポイントを入れることが出来ます。
本作品を見て面白い!、続きが気になる!、と思われた方、作者にとって最大のモチベーションアップとなりますので評価ポイントをぜひぜひよろしくお願いします。




