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第10話 追憶① 芦屋道満



 西暦945年 延喜42年――安部家屋敷


「芦屋、引き受けてくれぬだろうか?」


 狩衣を着こなす美青年が俺に頭を下げる。


「あのな、護衛なら他にも適任者が腐るほどいるだろうが」


 少なくとも陰陽寮でも評判が最悪な俺に実の妹の護衛を任せるなど、正気の沙汰ではない。


「お前ほどの術師は外には知らぬ。咲夜(さくや)が敵の手に落ちれば、この日の本、いや、我ら人間という存在が終わる。頼むこの通りだ」

「お前の妹が悪鬼の軍が通る門の鍵ね。それってどこの情報だよ? そんな荒唐無稽で眉唾物の話、だれが――」

「オイラでおじゃる」


 振り返ると、透明の羽を生やした文官束帯姿の二十歳程の女が扇子で口を隠しながら、佇んでいた。


「あー、桜の婆さんか」

「ば、婆さんだと、まさかとは思うが、それはオイラのことかね?」


 ピキッと蟀谷に青筋を立てて、扇子で肩を叩く。


「まあ、軽く100年も生きてれば十分ババアだろ?」

「阿呆! ヌシら人間の基準で考えるなよ! 我ら妖精にとって100年などまだまだ若造だい――でおじゃる」

「そうかよ」


 この芝居がかった、口調に一貫性のない女は桜、自称妖精とかいう大陸の(あやかし)だ。もっとも、実際に物の怪とみなすと烈火のごとく怒るというとびっきり面倒な奴だったりする。

 だが参った。こいつが言うとなると俄然、真実味がましてくるぞ。


「その悪鬼とやらは強いのか?」

「強い。相手はかの六道王の一柱――絶望王の眷属でおじゃる。かの六道王に抗えるのは、同じ六道王のみ。かの王の眷属でもなければ抗うすべなどない」

「絶望王、御伽噺に出てくる悪鬼の神様か。途端に胡散臭くなったな」

「むしろ、オイラは仮にも陰陽師のヌシが信じぬことに驚愕だがね」

「そうかよ。なら、詳しく話を聞かせろ」

「では!」


 暗い顔をパッと輝かせる清明に、大きく息を吐きだすと、


「勘違いするなよ。話を聞くだけだ」


 毅然とした態度で宣言した。



「胡散臭いのじゃ」


 訝しげに形の良い眉を顰めてくる十二単を着た黒髪の美しい女。

 長い黒髪に目鼻立ちが完璧な位置と形で存在する美しい容姿に、小柄だが女性らしい体つき。確かに都で噂になるだけのことはあるな。


咲夜(さくや)!」


 清明に(とが)められるも、¨だって本当なんじゃもん¨と呟くと、口を尖らせてそっぽを向く。


「別に構わん。一々、(わらべ)の言動に動揺するほど若くはない」


 なにせ、いつものように言われているしな。


「わ、(わらべ)ぇ? 妾はもう15じゃぞ!」

「餓鬼じゃねぇか」

「ぐぬぬっ! 兄様、こんな無礼な奴との共同生活など妾は絶対に御免じゃ!」


 立ち上がり、俺を指さして声を張り上げる。


「俺もごめんだね」


 うむ、実に都合がいいぞ。これで俺もお役御免だ。


「駄目さ。咲夜(さくや)、これは当主としての私の命。従いなさい」


 清明に笑みを向けられ、黒髪の女、咲夜(さくや)は頬を膨らませたまま、そっぽを向く。やっぱり餓鬼じゃねぇか。


「芦屋、君も一度引き受けるといったんだ。漢に二言はないんだろ?」

「いやいや、引き受けるもなにも、俺の借金まで引っ張り出して来て脅迫してきたんだろうが!?」

「やりなさい」


 笑顔で命じてくる清明に、


「「はい」」


 俺と咲夜が即答する。

 どうにも、清明は昔からやりにくいんだよ。

 いいさ。どの道、やることなどないんだ。


「よろしくな」

「……」


 そっぽを向いたまま咲夜は渋々、小さく頷いたんだ。


 …… 

 …………

 ………………


「わっちの主様(あるじさま)に、くっつくなっ!」


 咲夜(さくや)を、縞模様の耳としっぽを生やした少女が押しのけて両腕を広げてフーと威嚇する。こいつは小虎。山で瀕死の重傷を負っていた化け虎の子供を気まぐれで育てていたら、あら不思議、こんな娘の姿になっちまった。この都を中心とする主要都市部では妖や物の怪は、式神契約をしてないと滞在が許されていない。だから、小虎はかなり前から俺の式神だ。


「だ、誰がそんな唐変木にくっついた! 道満が妾にくっついていたんじゃ!」

「よ、よりにもよって、あ、主様がお前なんかに――」


 ヒステリックな声を上げて、取っ組み合いを始める小虎と咲夜(さくや)

 相変わらず、刀を抱えて壁に寄りかかっている鬼の青年に助けの視線を求めるが、ガン無視される。


「おーい、酒呑くーん」


 必死の形相で両手を合わせると、鬼は大きく息を吐きだし、


「小虎、食料調達にいくぞ」


 立ち上がると、小虎の後ろ襟首を掴むと引きずっていく。

 あいつは、酒呑童子。都の南の廃墟一体を根城にしていた鬼の頭領だ。清明に討伐を依頼されて出向いて何度か死合った。互いに数度瀕死の重傷を負った後、負けた方が家来になるという賭けをして俺が勝利し、俺の式となったってわけだ。


「なあ、道満?」

「ん?」

「もしその門が開かぬとわかったら、道満はここをでていくのか?」


 咲夜(さくや)がこいつらしくない真剣な表情で尋ねてくる。


「そうなるだろうな。俺がこの屋敷にいるのはお前の護衛だ。護衛をする必要がなくなればでていくさ」


 まるで自身に言い聞かせるような台詞を吐きだす。


「そうか……」


 咲夜は俯き気味に胸を握りしめていたが、顔を上げると、


「早くそうなればいいな」


 にこやかに微笑みながら、そう口にした。


 


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