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第1話 陰謀の契機



 ――湊区(みなとく)


「ターゲットが悪龍兵団と交戦状態に突入しました」

 

 焦燥たっぷりの配下の報告に、


「随分好き勝手放題やってくれちゃってるよね」


 そう呟くホワイト・マグンは微笑んでいたものの、目は全く笑ってはおらず、周囲の配下の悪魔たちはゴクリと喉を鳴らす。

 人類が渋屋区を解放したとの運営側の報告を耳にしてからというもの、ホワイト・マグンは終始苛立っている。

 それもそうだろう。渋屋区を守護していたのは、あの魔王マーラ。性格にやや難があり扱いにくくはあったが、仮にも魔王だ。その実力だけは誰しも認めるものであった。つまり、これは全て想定外の事項なのだ。


「いずれにせよ、これ以上の侵攻は絶望王陛下のご尊顔に泥を塗る結果となる。

残念ながら、私の力はマーラとそう大差ない。ブラック、藤村秋人の処分は君に任せる。君なら可能だろ?」

「ん」


 ブラックは軽く顎を引き、椅子から立ち上がると部屋の唯一の扉へ歩き出すが、


「一ついいかな」


 ホワイトに呼び止められ、


「なに?」


 ピタリと足を止めて振り返らず尋ねる。


「藤村秋人への執着は、その身体の持ち主の意思かい? それともリリス、君自身の意思?」

「今のボクはアズサであり、リリス。その問いに何の意味が?」

「いや、純然たる私の好奇心さ。悪魔でも有数の男嫌いとされる君が、よりにもよってあんな凶悪な顔の人間の男に熱を上げているんだ。当然の疑問だろう?」


 さも可笑しそうにケタケタ笑うホワイトに、ブラックは初めて顔を向けると、


「あの人を侮辱するな」


 射殺すような視線をむけつつも、両手をゴキリと鳴らす。


「冗談! 冗談だって! 君のその変わりようだ。誰だって疑問くらいわくさ」


 慌てたように、両手を振るホワイトに、


「もう二度とボクの前であの人を侮蔑するな。次は殺す」


 そう吐き捨てるブラックに、


「はいはい。了解ですよ」


何度も頷くホワイト。


「……」


 無言で退出しようと、再度出口へ向けて歩き出すブラックの小さな背中に、


「他の三匹は私が責任を持って受けもとう」


 ホワイトが言葉を投げかけるが、


「好きにすればいい。ボクはあの人を手に入れる。それだけ」


そう宣言し、退出してしまう。


 ブラックが退出したとき、


『ヒカエヨ』


 抑揚のない男の声が鼓膜を震わせる。声の方へ眼球を動かすと、丁度扉の前には頭から爪先まで全身を拘束具で覆った男が佇んでいた。そして男の胸のペンダントに刻まれた独特な星の紋章。それは、仮にも悪魔ならば知らぬものはない。

 咄嗟に片膝をつき、首を垂れる。


『絶望王陛下カラ賜ッタ御言葉ヲ伝エル』


 黒色拘束具の男は、絶望王陛下の使者。口を開くことすら不敬に値する。滅せられても文句は言えないのだ。

 跪き、静まりかえる室内で黒の拘束具の男は大きく息を吸い込み、


『コレヲ用イテ、フジムラ・アキトヲをトラエヨ』


 黒拘束具の男のマスクがパカッと開き、その口から正四面体の赤色の箱を吐きだす。


「この箱は?」

『パンドラ、囚ワレタモノノ一切ノ力ヲ奪ウ神具ナリ』


 そんな都合の良いアイテムが何の制限もなしに使用できるなら世話はないし、何より、なぜバアル様ではなくホワイトに命じるのかが不明だ。裏があるとみてよかろう。


「使用に制限でもあるのですか?」

『サシテナイ。シイテイエバ、発動者ノ魂ヲモ封ジルダケダ』


 ようはアキトを殺すために、あの化物ともども封じられろ。そういうことか? 冗談じゃない。いくら崇敬する絶望王陛下の命でもそれは聞けぬ話だ。それだけは何としてでも回避しなくては――。


「絶望王陛下のお目にかなって光栄ではありますが、私は――」

『リリスニ発動サセヨ』


 さも当然に最高の答えを口にしてくれた。


「心は痛みますが、拝命いたしました」


 ホワイト・マグンの言葉に、


『失敗ハ許サン。必ズヤリ遂ゲヨ』


相変わらずイントネーションのない声で静かに厳命すると、まるで端から存在していなかったかのように、その姿を消失させる。

 人間ごときに仮にも同じ戦隊の同胞の犠牲を強いる点で、やり方はスマートではない。だが、フジムラ・アキトは、異常なのだ。こと奴に関しては下手な悪魔のプライドなど害悪にしかならない。むしろ、幹部とはいえ女一柱でこの戦争が終わる。そう考えるべきなのだろう。


「ブラック、聞こえますか?」

『なに?』


 直ぐに、鬱陶しそうな声が頭の中で反響する。


「バアル様から、今回のフジムラ・アキトの捕縛についてアイテムを預かった。それを以てフジムラ・アキトを捕縛せよ、そう言付かっています」


 周囲の部下たちに動揺が走り、次いで刺すような視線をマグンに向けてくる。

おそらく、マグンがバアル様の名をかたったことへの非難故だろう。

リリスはバアル様しか信用していない。こうでも言わねば、素直に受け取ることなどあり得まい。


『直ぐに戻る』


 案の定素直に了承する。


「あー、少々、野暮用がありますので、あと30分ほど後に来てください」

『了解』


 会話が切断されたのを確認し、マグンは周囲を見回し、


「うーん、どうやら君ら私に何か言いたいことがあるようだね?」

「この件は我らが将の命に係わること。少なくともバアル様への報告は必須でしょう! それをよりにもよってリリス様が敬愛するバアル様の名をかたるとはいったいどういうおつもりですかっ!?」


 白髪に青色の肌の将校が額に太い青筋を張らせながらも、激高する。


「あの命は絶望王陛下の勅命だよ。残念だけど私に抗う術はないさ」


 肩を竦めて悪魔なら誰もが抗えぬ名を出すも、周囲の将校たちから巻き上がるのは耐え難い憤怒。

 これだ。こいつらはマグンとは違う。絶望王陛下にではなく、リリスとバアル様にしか忠誠を誓ってはいない。だから、これでは奴らは止まらない。


「この戦争の指揮権はバアル様にあります。少なくとも報告を差し上げてご判断を仰ぐべきですっ!」


 青年将校が叫ぶと、次々に同意の声が上がる。

 

「だよねぇ。バアル様とリリスの忠実な臣下の君たちなら当然の主張だろうさ。でもね、私は君らとは違い、絶望王陛下の家臣なのさ」

「マズい! 退避せよ!」


 執事服を着た初老の将校が激高した途端、空から無数の純白の羽が舞い落ちてくる。

 そして羽は将校たちに触れると、次々に肉を、骨を、臓物を粉々に弾け飛ばす。

 まさに瞬きをする僅かな間。その部屋にあったのは物を言わぬ肉塊。


「汚しちゃったな」


そう呟いた刹那――


《ご苦労さん。忠実な我の(しもべ)ちゃーん!》


天から聞こえる軽薄な声が頭の中で反響する。


「誰です?」


 すかさず尋ねるとそこには真っ赤な星型が、ぷかぷかとまるで初めから存在していたかのように浮遊していた。


《ボクチンは絶望王、みた、みた、みてたよぉ! ボクチンの可愛い、可愛い下僕(げぼく)ちゃーーん!!》


 咄嗟に跪き、顎を引く。汗腺がぶっ壊れたように流れ、凄まじい緊張で視界が歪む。

 当然だ。絶望王。その名を不用意に語れば、ただでは滅べない。それこそ永久の絶望を味わう事になる。

つまり、この声の持ち主は、敬拝してやまない絶望王陛下ということ。


「へ、陛下におきましてはご機嫌麗しゅう――」

《ノンノンノン、ボクチンと君の仲じゃん。社交儀礼はいらないにゃぁ》 

「も、もったいないお言葉、恐悦至極にございますぅ」


 感動に打ち震えながらも、流れる涙など拭いもせず咽び泣く。


《じゃあ、ボクチンの頼み、聞いてくれるかにゃあ?》

「も、もちろんですっ!! 是非、是非とも!!」

《なら、君が持っているボクチンの勾玉をたべちくりん。そうすれば、ボクチンの悲願が叶うんだい》


 確かにウォー・ゲームの扉を開いたアイテムである勾玉は大切にマグンが保管している。


「ひ、悲願ですか?」

《うんうん、叶えばボクチンら悪魔はこの世の全てを手に入れる。そうさぁ、君は悪魔という種族の礎となるんだよぉ》


 (いしずえ)、それはいわば人柱だ。普段のマグンならそのような自己犠牲、全力で拒否していたことだったろう。なのに、今その時あったのは、号泣するほどのとびっきりの歓喜だった。


「よろこんでぇ!!」


 躊躇いもせずに、マグンは異空間から勾玉を取り出すと、一切躊躇いもせずに飲み込む。

 同時に、マグンの全身が発光し、いくつもの真っ白な光の帯が四方八方に走り抜ける。そして――全てが白色に染め上げられてしまった。


お読みいただきありがとうございます。


【読者様へのお願い】

 未評価の方がもしいらっしゃいましたら、広告下側にある【☆☆☆☆☆】を押していただけると滅茶苦茶嬉しいです。このまま予定通り完結まで爆走しますので、是非ともお力をお貸しください! (^^)/

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