第2話 怪物獲得の企み ジェームズ・ナイトハルト
ホワイトハウス・ウエストウイング
米国政府、国防総省、情報局の幹部などそうそうたる面子が会議室に一堂に会し、部屋に備え付けられた巨大スクリーンを瞬きすらもせずに凝視していた。
誰もが惚けたように眺める中、アメリカ合衆国大統領――ジェームズ・ナイトハルトは、一人だけ蝋のように血色が悪くなった人物を目にして大きく驚愕に目を見開く。
「メドゥーサがあんな一方的に? しかもただの撲殺? とても信じられん……」
それは情報局副長官シン・ラスト。いつも、憎たらしいくらい冷静な顔には大粒の汗が付着しその口はプルプルと震えていた。
「シン、君はあの頭から蛇を生やした化物を知っているのか?」
「神話上ででてくる大悪魔ですよ、大統領閣下。ほら、皆さんもメドゥーサの伝説は聞いたことがあるでしょう?」
「ギリシャ神話か。まさか、そんな御伽噺を馬鹿真面目にこの席で話すことになろうとはな……」
国防省の幹部が自嘲気味にこの部屋の誰もが思っている感想を述べる。
「お気持ちはお察しします。ですが、これが現実です。受け入れて対抗策を練らねば、我ら人類はこの世界から根絶する」
「それほどのものなのかね? 私には彼がいればその絶望王なる存在にも十分対抗できると思うんだが?」
「絶望王には勝てませんよ。そして、それは人が神に勝てぬ理由と同じです」
「人が神に勝てぬ理由?」
「ええ、誰もあの空に浮かぶ太陽に勝とうとは思わないでしょう? それと同じ。強いから勝てないではもはやないのです」
「だから、神ってわけか?」
「はい」
「では、日本政府に協力するかね?」
ジェームズの問いに、シンは大きく首を左右に振る。
「御冗談を。相手はあの悪神の軍勢ですよ? 道を少し間違えれば人類抹消となる最悪のデスゲームのプレイヤーなど我が国以外にできやしませんよ」
「どうにも要領がつかめないが、彼の妨害をすべきだ。そう君はいいたいのかね?」
ジェームズは、今もスクリーンに映っている狐仮面の男に視線を固定し尋ねるが、シンは肩を竦めてクビを左右に再度大きく振る。
「それこそあり得ませんね。この戦いは人類が勝利しなければなりません。それは絶対に譲れぬ一線です」
「シン、お前、少し回りくどすぎるぞ。はっきり言え!」
国防総省のトップ――国防長官が両腕を組みつつも、有無を言わせぬ口調で指示を出す。
「当初の予定通り、彼、アキト・フジムラは是が非でも我が国が手に入れる必要があるということです」
「説得できるものかね? 日本政府も今回の件で彼の重要性は重々承知したはずだ。とても手放すとは思えないが?」
仮にジェームズが日本政府の立場ならば、是が非でも確保に動き出すだろう。
「あの国にはいくつか爆弾があります。それを上手く起爆してやれば、効率よく彼に日本政府への不信感を植え付けられる。その状態で、彼の支援を我が国が大々的に表明すればいい」
「そう上手くいくものかね? 下手に姑息な手段に出て、彼に知られたらそれこそ我が国は彼の怒りを買いかねない。そうじゃないかね?」
ジェームズのこの言葉に最悪の事態を想像したのか、国防省の幹部の一人が盛大に頬を引き攣らせて、
「彼と敵対する事態だけは、本当に勘弁願いたいものだ」
実感の籠った言葉を吐き出す。
「ええ、だからこそ我が国は表立って何もしてはいけない。ただ、その起爆のスイッチを持つ者の耳元で囁いてやればいいんです」
心底うんざりした様な顔で、
「なんてだ?」
国防長官が尋ねると、
「それは――」
静かにシン・ラストは口を開く。こうして、様々な思惑を含有しながらも、人類と悪魔とのウォー・ゲームは佳境へと突入する。
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