第1話 陰謀の契機
そこは既に廃墟と化した仲野区内にある高層ビル内の一室。その豪奢な内装の部屋の窓際で、全身を覆う濃厚な赤のコスチュームにマント、同じく赤のヘルメットを被った男が、豪奢な椅子に腰を掛け、デスクの上に置いてあるPCに映し出されている二つ目の区――豊嶋区における人類勝利の動画を視聴していた。
「イエローが負けましたか。中途半端な遊びで付け込まれて潰された。大方そんなところでしょう。実に愚かだ」
そう独り言ちた。
「遊びは全て勝たなければ意味はない。第一、あれと真っ向からやり合うなど愚の極致。何より勝負とは、始める前に勝つものなのです」
テーブルの上に置いてあったスマホを操作し、ある場所へと電話をかける。
『久我! 貴様久我か!?』
スマホから漏れる野太い声。
「ええ、久我信勝ですよ。先生」
『貴様、どこで油を売っていた!?』
「不運にも今世間を賑わせている事件に巻き込まれましてね。今は動けぬ状況です」
『今、追い込んだはずのホッピーがヒーローの真似事をしておる。その動画のせいで大層面倒な事態になっておるのだ!』
久我の安否よりも、自己の保身にしか関心がない。気持ち良いほどのクズ。悪魔と融合する前の以前の久我なら吐き気がしていたことだろう。だが、無駄な倫理観が吹き飛んだ今、この醜悪な獣の外道さがこの上なく心地よい。
「あのイノセンスの記事ですね?」
『そうだ! あの記事のせいで、ひっきりなしに儂の事務所や自宅にあの記事の真偽の電話がかかりっぱなしだ。しかも、例の事件の実行犯も逮捕されたと聞く。もし、その実行犯が自白でもすれば儂は、お終いだ!』
「生憎、私は今ここから動けません。ですので、どうぞ私の助言通りに行動してください。藤村秋人の評価を再度地に落とし、先生の評価を確たるものとして見せましょう」
『そうか! なら早く話せ!』
馬鹿な人間だ。バアル様に対抗し得る力を持つ人間など藤村秋人くらいだろう。それはあの動画を一目見れば明らかだろうに。
今回、藤村秋人にバアル様が勝利すればウォー・ゲームの勝者として、人界制圧の足掛かりが得られる可能性が高い。
そもそも、この【カオス・ヴェルト】というゲームの本質は、六道王という超越種同士のバトルロイヤルであり、そのプレイヤーに人類という種は含まれていない。
ただ、人界を制圧した後でしか他の種族へ戦争が仕掛けられない仕組みなだけなのだ。つまり、【カオス・ヴェルト】で勝利するには人界を制圧することが必須となっている。
もし、この戦いで藤村秋人が勝利すれば様子見を決め込んでいた他の六道王の勢力も人類に接触することになるだろう。人類に好意的な勢力ならば、かなりの好条件での人類の生存が可能となるかもしれない。
しかし、絶望王陛下は違う。軟弱で罪深い人間という種を道端の石ほどの価値も見出してはいない。悪魔による人類の支配はまさに家畜以下に対するものとなる。
つまり、悪魔側のこのウォー・ゲームの勝利は、人類の悪魔に対する永劫の隷属のトリガーになりえるということ。
自己保身のために、人類すらも売り飛ばす。なんとも醜悪で救いようのない外道。これぞ純粋な悪! いい! 最高だ。やはり人とはこうであらねばならぬ!
「ではお話しいたします」
レッド・ノブカツは、悪魔のごとき計略を口にし始めた。
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