第17話 同行要求
どうやら俺がメドゥーサを消滅させたときに豊嶋区での人類の勝利と開放が宣言されていたらしい。少なくとも俺とバアルとの決着がつくまでは、ここは安全地帯。もうじき、自衛隊、警官隊及び救助隊が雪崩れ込んでくる。
それ故に、ここにはもう用はない。次の仲野区へと攻略範囲を拡大しようとしたとき――。
「お前たちまで連れてけだぁ?」
鬼津華銀二、明石雪乃、そして相楽十朱が俺の前に集まっていた。
「ああ、お前は危なっかしいからな。俺が付いていく事にしたんだぜ」
要するにさっきみたいに俺が暴走したときのストッパー役ってところだろう。十朱の同行は日本政府直々の指示だから、断るのは――無理だな。
それにステータスを確認したが、こいつはノーマル状態でも非常識に強いから同行しても足手纏いにはならない。問題はあとの二人だ。
「だからってなぜこの二人までついてくるんだよ? こいつなんて女子高生だぞ?」
俺に指を刺されて、雪乃はプクーと頬を膨らます。こいつのこういうところ、朱里や和葉に似ているんだよな。危なっかしいしいという点では、二人以上だ。大人しく友人二人と避難して欲しい。それが率直な俺の本心だ。
「あははっ! 俺はお前と二人旅なんて御免だぜ!」
「んなのは、俺だって御免だ! いやそういう問題じゃなくてだな――」
十朱は急に神妙な顔となる。
「これはただの思い付きじゃない。俺の上司――右近さんの指示だぜ」
「その超常事件対策室の室長ってやつか?」
「そうだぜ。右近さんは陰陽師、形式上六壬神課に指示を出せる立場にある」
「形式上ってことは、実際にそれほど力はねぇってわけか?」
「その通り。だからこそ、今回の六壬神課の元老院の暴走を許してしまった。そう言ってたぜ」
「それと二人が俺達と同行することとどう繋がるんだ?」
「さあ、それは俺にもさっぱり、あの人、基本秘密主義だからな。だが、基本、悪い人ではないし、信用は置けるぜ」
十朱がいうんだ。少なくとも六壬神課の元老院や、刑部一族のようなクズではないんだろう。
国のトップが動いているならこの状況で反目するのは、俺にとっても百害あって一利なしか。
あとは――。
「お前は本当にそれでいいのか? まだここには、家族同然の仲間がいるんだぞ?」
拷問を受けていた銀二の幼馴染は意識を取り戻し、皆の無事を確認すると再び寝落ちしてしまう。素人が拷問を受けたのだ。肉体的な傷は全快しても、精神的な疲労はそうとうなもの。当然だな。
「俺には回復系の能力なんてねぇ。安全地帯となったここに俺がいても大して意味はない。それに、俺の仲間は都心中心に活動していたから、まだ、未開放地区に取り残されている可能性がある。俺は孤児だからよ。仲間は俺の家族だ。だから行かねぇって選択はないのさ」
孤児か……事実上、俺も似たような境遇だから気持ちはわかる。その目的なら俺が拒絶してもきっと自分だけで行くだろう。まだ、近くに置いていた方が安全ってもんだ。
鬼津華銀二は、まだ18歳。社会から守られるべき年。仕方ないか。
「了解だ。で、お前は?」
「なんで、私だけそんなにすごく嫌そうなのぉ?」
案の定、再度、口を尖らせて問いかけてきた。
「仕方ないな。実際に嫌だし」
「ぶー、それって、差別だと思ぅ」
「そうでもないぞ。そもそも論として、お前、悪魔を殺せるのか?」
銀二はあの悪魔共を躊躇なくバラバラにしていた。多分、こいつは人型だろうと悪魔である限り容赦は一切すまい。こいつはきっと俺同様、壊れているんだと思う。
一方で、雪乃は見るからに常識人に見える。此度の俺達の敵には人型の悪魔も相当数いる。人に似ているという理由で、悪魔の殺害を一々、躊躇って心を痛められても困るのだ。
「殺せる。だってあんなひどいことをする奴らだもん。私、躊躇はないよ」
一瞬、雪乃の顔にどす黒い影がさしたように見えたが、直ぐに元の陽気な表情に戻る。
「そ、そうか」
あまりの代わりように薄気味の悪いものを感じながらも相槌を打つ。
最悪、使えないようならすぐに安全地帯に強制送還すればいいか。
とりあえず、パーティーに十朱、銀二、雪乃を追加しておいた。これで、【系統進化の導き手】の効果が享受でき、俺の成長率に三人とも同期する。また、俺はパーティーメンバーに、俺の有する称号を使用させることができるが、このうち、【系統進化の導き手】と称号使用者が選択したことのない種は省かれる。つまり、三人とも俺の不死種系の称号は一切使用できぬということ。ならやっぱり長時間の探索が可能な【社畜の鏡】にすることにした。
「藤村様、知らぬとはいえ結果的に醜悪な事件に加担し、貴方の誇りに傷をつけてしまった。心から謝罪いたします。申し訳ありませんでした」
女の様な顔の黒髪の男――来栖左門が世界の終わりそうな顔で、俺に深く頭を下げてくる。刑部一族の所業の件も知らんようだし、本当に蚊帳の外だったのかもな。
来栖が俺の本名を口にしても、雪乃や銀二は眉一つ動かさない。既に十朱辺りから粗方の事情は聴いたのかもな。
「お前は仕事をしただけだ。気に病む必要はない」
俺に敬語を使うくらいだ。その意気消沈した表情から鑑みても、あの事件の真相をまったく知らされていなかったのは容易に推知できる。正当な仕事をして責められるなら、超常的犯罪が蔓延している現代社会で警察機構は委縮してしまい、市民を守れない。
「そういうわけには行きません。この件には六壬神課の元老院と我らの同胞たる陰陽師の一族が――」
「それは、お前の仲間の右近ってのが動いてるんだろ? だったらそいつに任せろよ」
多分、鬼沼と気が合いそうな陰謀、政争大好きっ子なんだろしな。今頃きっと、水を得た魚のように暗躍していらっしゃると思うぞ。まあ、俺にとっては、あんな妖怪のような奴らには、極力関わりになりたくないわけであるが。
「しかし――」
渋る来栖の肩に手を置くと、
「周りをよく見ろ」
親指を背後の避難民たちに向ける。
「周り……?」
来栖は、その顔を上げて避難民たちに視線を固定する。その避難民たちの顔にあるのは、好奇心でもなく、来栖に対する批難でもない。ただ、心配そうに遠巻きに来栖と俺のやり取りを眺めていた。
「お前のお陰であの避難民たちは五体満足でこうして救助を待つことができている。その功績は、陰陽師とかいうお前のお仲間の失態でなくなる性質のものではないさ」
一言一言噛みしめるように宣言する。
避難民たちの来栖への無条件の信頼は、鈍い俺でも気付くことができた。これは、この男がこの地獄なような状況で避難民たちのために必死にあがいてきた証拠だ。
「そうですよぉ。来栖さんは悪くない。だって、いっぱいいっぱい助けてくれたもん!」
「同感だな」
雪乃と銀二の二人も肯定し、
「すま……ん」
留めなく流れる涙を袖で何度も拭う来栖に背を向けて俺は次の地区へ向けて歩き出す。
お読みいただきありがとうございます。
これで第五章も終了です。やっと終わりが見えてきてほっと一息ついているところです。あとは六章と七章で遂に最終章へと移ります。物語の進行上の疑問点は七章終了までには9割方氷解するのではないかと思います。
それでは、最後までお読みいただければこれほど嬉しい事はありません。
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