おかしいとおもってたんじゃー!
その瞬間、突然わかった。
私は、“ヒロイン”だ。
そして今まさに断罪されようとしている親友が、“この話”における、“悪役”。
いや。いやいやいや。
「ちょぉっと、まったあああああああああ!!!」
***
ジュリアは、唐突に“知ってしまった”ことを整理しながら、目の前の状況にストップをかけた。
たまたま2人で玄関ホールを通りがかっただけなのに、突然親友のユウリが突き飛ばされて床に転び、ジュリアは生徒会長に腰を抱かれて、「今からお前の罪を断罪する!」とか生徒会長が言い出したのだ。
異性の腰を当然のように抱く生徒会長に心底嫌悪感を抱きつつ、ジュリアは体をひねって脱出し、ユウリのそばに駆け寄り座った。
「アルト先輩。この状況、おかしくないですか?なんで私の親友が床に正座させられて、衆人環視のもと悪者扱いされているんですか」
さも当然のようにユウリがやったという悪事をつらつらと述べていた生徒会長ーアルトは、何を今更、と言ったふうに眉をひそめた。
「その女が、君を虐めた、という情報が入っている。聖人と呼ばれるほどの回復魔法を使える君のことを妬んでと聴いてるが?」
ジュリアは確かに虐めを受けていた。
といっても、こんな状況になるような相談をアルトにした覚えもない。
そして、目の前できょとん、と目を見開いている親友、ユウリはその虐めに関与していない。
これは確信を持って言える。
ジュリアははあ、とため息をついた。
「彼女は虐めには関与していません。そして、今まで私を虐めてきた人にはきちんと詫びももらっています。この状況は、私にとって不愉快でしかありません!」
ジュリアの心底軽蔑した眼差しに、生徒会長を始め、ユウリを犯人扱いしていた他の生徒会役員や同級生たちがどよめき始める。
「し、しかし」
「行きましょう、ユウ。アルト先輩、この話はここまでです」
「あっ、ちょ、ジュリア!」
ジュリアはユウリを連れて、ざわつく玄関ホールを後にした。
***
ダンガール魔法学院は、『魔法』が使える子どもを集めた国立学院だ。
この世界での魔法というのは、例えば空を飛べたり、変身できたり、火を出せたり…とにかく普通の人が使えないような能力のことを言う。
ほんの100年ほど前までは、そのような能力を持つものは差別対象だったのだが、先先国王ダンガール=ウィークトンが差別を受けている子どもたちを保護し、教育を施し始めた。それがこの学校のはじまりである。
現在のダンガール魔法学院は、初等部(7歳〜12歳)中等部(12歳〜15歳)高等部(15歳〜18歳)の3つの学部に分かれていて、基本は下の学年からスタートする。しかし、生まれつきではなく中途覚醒で魔法が使えるようになる場合もあり、そうなると、年齢に応じた学年から転入という形をとることになる。ジュリアがそうだった。
17歳で他人の怪我を癒すという能力が顕現し、高等部から転入することになった。
小さな学校でしか学んだことのないジュリアは、魔法の扱いだけでなく、通常の勉学もこの学院の同い年の生徒とは進みが違い、最初はだいぶ苦労した。
基本的に田舎育ちでテーブルマナーもしらないし、それでも持ち前の負けん気で踏ん張っていたのだが、それを支えてくれたのが寮の同室であるユウリだ。
ユウリは生まれつき魔法が顕現しているタイプだったため、7歳からこの学校で過ごしている。彼女の魔法は動物を手懐けること。どんなに獰猛な動物でも『脳』があるものならユウリ曰く人が話しているような言葉ではないが『会話』をすることができるらしい。
とにかく、ユウリはジュリアに学校のこと、マナーやルール、勉強など、様々なことを教えてくれた。
虐めに受けているときだって、犯人見つけるのもプチ仕返しも一緒にしてくれた、ちょっと茶目っ気のあるジュリアの最高の親友なのだ。
(その親友をなんだ。あんな辱めにあわせやがって、あのクソ生徒会長が!)
ジュリアはプリプリしながらユウリの手を引いて寮の自室に戻った。
ジュリアが部屋のドアを締めると、ユウリは申し訳なさそうに、ジュリアに笑った
「なんか、ごめんね?」
「それはこっちのセリフよ、ユウ。私が虐められてたばっかりに、貴方にまでとばっちりが行ってしまった。…てゆーか!なんなのあの生徒会長!私がいつあんたに『いじめられて辛いんですぅ』みたいな態度とったんだっつーの!見てた?ガイ先輩とトトくんなんて、自分がいじめられたかのような悲しげな顔!ああああっ、腹がたつ!」
「じゅ、ジュリア、落ち着いて」
ジュリアは思う。自分がこの話のヒロインであると自覚してみると、なかなか納得が行く部分があった。
自分の容姿が、金髪碧眼の美少女で、他の女子生徒より優れていること。(ナルシストではなく、客観的に見ても整っているのだ)
『回復魔法』という魔法の中でも希少な魔法を扱えること。
やたら美形な先輩後輩同級生たちにモテること。
そして、そのせいで主に女子からやっかみを受けること。
(興味がなくて恋愛っぽいのは全部無視してきていたけど、私はこの話のヒロインなんだわ。だから、ああいうことが起きた)
図書館や本屋さんで、少女が美形男子たちにモテモテになる話なんていうのはよく見かけるけれど、自分がそんな“話のヒロイン”だなんて、笑えない。
ジュリアがはあ、とため息をついた時、「痛っ」とユウリが顔をしかめた。
「! ユウリ、怪我したの!?見せて」
「いや、ちょっと足ひねっただけだから、落ち着いて、落ち着いてジュリア」
「ああああんのクソどもが!!!!」
「口調!口調が怖いよジュリア!大丈夫だから!…あ、魔法、ありがとう」
大変に憤りながらも、ジュリアの回復魔法は優秀で、少し腫れ始めていたユウリの足首は瞬く間に治る。
自分の役回りのせいで、大切な親友が怪我までさせられた。
それが悔しくて、悲しくて。
「ほんと、なんで私がヒロインなんだか…」
思わず独りごちたその言葉に、目を丸くしたのはユウリだった。
連載中の話の息抜きに書いているので、更新頻度はまちまちですが、よろしくお願いします!