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異端者ですが、ナニか?  作者: 星時 雨黒
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第7話 地下牢

 異端者の疑いがかけられた者は、6日間の拘留期間の後、異端審問にかけられる。


 衛兵に拘束された俺は、あの後すぐ地下牢に連れてこられた。

 殺風景で殺伐としている石造りの地下牢。そしてその暗くて湿っぽい檻の中にあるのは薄っぺらい毛布一枚だけで、他には何もない。何一つない。


 時計はおろか窓一つない地下牢では、今がいったい何時なのか正確な時間を把握することは難しい。――が、1日3回朝昼晩と出される飯の回数で大まかな時間に当たりをつけることは可能だ。

 俺がここに連れてこられたのが昼の3時頃。そしてさっき4度目の食事が出されたことから、地下牢生活2日目の夜である。

 硬くてひんやり冷たい石床に手足を放る。


「あー、暇だ。まぢやることねぇ」

 

 人生は有限だ。人が1日に活動できる時間は限られているのに、何もせずただぼーっとして過ごす、それは時間の無駄である。人生の無駄である。

 無駄は無駄でしかなく、無駄以外の何物でもない。

 なんて。カッコイイことを言ってはいるが、これは父さんの受け売りであって俺の言葉ではない。

俺は生まれつき、何もせずジッとしていることが耐えられない(たち)なだけなのだ。

 無駄と言えば、俺より時間を無駄にしてしてる奴があそこにもいる。

 ここから私を出せやら、貴様ら全員異端者にしてやるとか、腹が減ったって、飯は1日3回カッサカサでカッチカチのパン1つとコップ1杯分の飲水だけなのに。そりゃ一日中叫んでたら腹も空くだろう喉も渇くだろう。


 ――ざまぁみろ。


 石床が硬くて身体はあちこち痛いし、腹も減っているが、気分だけは最高に良かった。

 あの悪魔(しきょう)が恐怖に怯えているのが笑えてくる。叫んでなけりゃあ自我を保てないのだ。人は大声を出すことにより他人より優位に立っていると認識する哀れな生き物なのだ。可哀想に。

 ほんと、ざまぁみやがれクソ野郎。

 しかし最初は心地良かった叫び声も、今ではただただキンキンうるさい。


「あー暇だ。暇すぎて死にそう」


 筋トレでもしてみるか、と思ってみたり。時間を有効活用するにはもってこいだが、どうせ残り2日の命なんだ。身体を鍛えたところで意味がない。

 しかし残り2日の命と考えると、大抵のことは無駄になってしまう気がしてくる。

 なら何をしようか。どうせ全てが無駄として終わるのだから、何をしても同じなわけだけど、何かしないと身体がムズムズする。ムズムズと言う擬音はあまり個人的に好きではないので、身体が疼いて仕方ない、と訂正をいれておこう。

 そうだ。頭を使ってみるのはどうだろう。妄想を膨らませてみるのはどうだろう。

 そう言えば、あの女の子はあれからどうなったのだろうか。

 確かシェイラと言ったか。司教マルクスの独裁審判はなくなった。ちゃんと無罪になれただろうか。そうだったら嬉しい。

 マルクスを断罪するという目的と一緒に、可愛い女の子を助けて死ねると思うと、俺の人生もそこまで悪くはなかったんじゃないかと思えてくる。そう、思って死ねる。


 ふと、コツコツと誰かの足音が聞こえてきた。飯はさっき出されたばかりだし、見回りの時間にはまだ早い。看守に頼んだトランプを持ってきてくれたとも思えないし。――と言うか、まず第一看守の足音ではないのだ。

 足音はだんだんと近づいてくる。そして、俺の檻の前でぴたりと止まった。


「……ちゃんと生きてますか?」


 聞き覚えのある声だった。今一番聞きたかった声でもあり、今一番聞きたくなかった声でもある。


「暇すぎて死にそうだけど、いちおー生きてる」


 檻の外から屈んでこちらを見下ろす深い藍緑色の瞳。ちょうど今想像していた少女が目の前に現れたという事実に、俺の心は不思議と落ち着いていた。


「思ったより元気そうで良かった」


 この態勢のどこを見て元気そうだと認識したのか全くの謎である。


「この空間に耐えられなくなって、泣いたり発狂したりする人もいるみたいだから」


 ああ、なるほど。そういうことね。納得し、身体を起こしながらシェイラに言葉を投げる。


「それで、こんな陰気な場所に何か忘れもんかい?」


 石の壁に背をつけながら、今のはだいぶ気の利いた冗談(ジョーク)だったと自画自賛。

 シェイラは軽く微笑んでから、


「どうしてわたしを助けてくれたんですか?」


「言ったろ? きみが悪魔じゃないからさ」


 流石に司教を罠にはめるためにきみを利用した、なんて言えなかった。そう言えば俺の気持も少しは晴れるかもしれないけれど、逆に少女を傷つけてしまうかもしれない。

 これは俺の罪だ。これは俺が墓場まで隠し通さなければならない、罪なのだ。


「わたしが言いたいのはそうじゃなくて……だってそれであなたが異端者の疑いを……」


 すごく真面目な子なのだと思う。すごく真っ直ぐな子なのだと思う。

 色で表すなら正に、純粋で何色にも染まっていない汚れなき白。うむ、下着の色も白だとみた。


「気にするこたねーさ。そんな深く考えんなって」


 俺は全く気にしてないと意思表示を込め、あえて気楽に受け流したつもりだったのだが……逆効果だった。


「気に、するにきまってるじゃないですか。気にしないほうがおかしい。だってまず、あなたが私を助ける理由がないもの」


 そりゃそうだ。だって俺は、この子を助けるために声を上げたんじゃないわけだし。

 俺は司教を審問にかけるという最終目的の過程で、この子を利用しただけであって、助けようと思って助けたわけじゃない。たまたまその場にきみがいて、結果的に助けたように見えてしまっただけなのだから。


「理由がなけりゃ、助けちゃだめなのか?」


 考えるより先に、口から勝手に言葉が出てきた。


「目の前で女の子が殺されようとしてて、その子を助けたいって思うことに理由が必要なのか?」


 人生で言ってみたい台詞ベスト4。


「きみの言いたいこともわかるし、きみが納得できないってこともわかるよ。でも、あんまり深く考えすぎないほうがいい。俺はきみを助けた。その結果がありゃ、過程なんてさほど重要なことじゃねーだろ」


 女の子にこんな台詞言えたらカッコイイだろうなーって、旅をしながら考えた台詞が役にたった。

 まさかこんな形で、こんな気持ちで言うことになるとは思わなかったけれど。

 ここで諦めて帰ってくれれば……、なんて思った俺が甘かった。


「……それなら。わたしがあなたに命を救われたという結果があるのなら。わたしにその結果を与えてくれたあなたに対し、わたしは何をすればいいんですか?」


 ゴン、と壁に頭をぶつける。


「そーくるか」


「そうきます」


 少し考え、


「なら。俺には関わるな」


「それはイヤ」


「それが俺の……って、え、今なんて?」


「それはイヤです」


「え、イヤ?」


「私はあなたに恩を返したいんです。どうしても」


 うわぁ真面目かよ、と心中ため息。


「どのみち遅かれ早かれ俺は死ぬ運命だったわけで。それがちょびっと早くなったってわけで。そもそも恩返しとか求めてないわけで……」


 俺の独り言を聞いて、そう言えばとシェイラが尋ねてきた。


「あなたが悪魔っていうのは、本当なんですか?」


「おん。正真正銘俺は悪魔だよ」


 シェイラはじーっと俺を観察してから、


「わたしには、……そんなふうに見えない」


「眼で見たことだけが、全て真実とは限らないからな」


「どういうことですか?」


「外見がまともに見えても、中身は別もんかもしれねぇって話さ」


 シェイラは首をひねり、


「そうなんですか?」


「そうなんです」


 ん〜、とわかってなさそうなので。


「じゃあアイツはどう見える?」


 と俺は牢屋越しに、今現在呪文のように独り言を呟いている司教の方に目線を送った。

 シェイラは再び「んー」と唸り、


「あなたよりは、悪魔っぽい?」


 ぽいって発言が予想以上に可愛すぎた。意識しなければ勝手に口元が緩んでしまうほど、俺の心を揺らしてくる。やめてくれ。


「アイツはただの悪魔だよ」


 軽笑しながら、俺は続けた。


「まぁ、俺らが人のふりした悪魔なら、アイツは人の皮を被った悪魔ってとこだ」


「やっぱりあなたが悪魔なんて、わたしにはそうは見えないもん」


「んー、」


 納得のいってなさそうなシェイラに、俺は指先でコンコンと檻を叩いてみせた。


「そりゃ(コイツ)に囚われてるからな。コイツがなけりゃきみみたいな可愛い子ちゃんペロっと一口で食べちまうぜ?」


 がおーっと両手を掲げて野獣(ライオン)のポーズ。

 しかしシェイラは怖がる様子もなく、ぼそりと。


「……それで恩が返せるのなら」


「へ?」


 胸元に手を当て、視線を横にずらし、


「あなたになら、食べられてもいいです」


 仄かに頬を赤らめ、そう言った。

 SAO、ノゲノラ、六花の勇者、リゼロと色々読んだけど、個人的にすかすか書いてる枯野さんの書き方がものすごく好きです

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