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異端者ですが、ナニか?  作者: 星時 雨黒
24/24

第24話 新たな旅路

 眼を見開き集中すれば自ずと道は見えてくるものである。

 人がごった返していて、抜け場のない魚の群れを泳いでいる気分だ。

 右へ左へ。足を止めず、俺はただひたすらに民衆の合間を駆け抜ける。


 そんなとき、ぎゅっと右手を捕まれた。

 心臓が跳ね、反射的に振り払おうとした直前。


「――こっち」


 鈴の音が俺の鼓膜を揺らした。

 抵抗を止め、俺は声の人物に引っ張られながら人混みを抜けていく。

 身体があちこちぶつかりながらも、俺は右手を離さなかった。

 そうしてようやく、俺達は人通りのない路地裏へと出た。

 ゆるりと、右手が離れていく。

 顔を上げると、こちらを覗く藍緑色の瞳――。シェイラだった。


「ばか。心配したんだから、ほんとにっ!!」

 

 呼吸が荒れていた。

 シェイラの胸が大きく膨らみ萎んでいくのを繰り返す。寄り添ってきたシェイラの身体を通して、温もりと一緒にそれがよく伝わってくる。


「ハハ……わりぃわりぃ」





 それから俺はシェイラに案内されながら路地裏を走り回った。

 街の中でも知られていない裏道なのだろう、その間すれ違う人は一人もいなかった。

 道の途中で立ち止まったシェイラが周囲を軽く確認し、黒塗りの壁を3度ノックする。


「合言葉は?」


 驚いた。壁の中から男の声がした。


「シェイラです。開けて下さい」


「シェイラちゃ――――ンガッ!?」


「うるせぇ静かにしろ、バカルークっ!!」


 壁の中から少年らしき男の悲鳴。しばらくして黒壁に亀裂が入り、暗い路地裏に光が生まれる。どうやら隠し扉になっていたようだ。


「よぉ無事だったかシェイラ。良かった!!」


「アーカスさん。みなさんも無事ですか?」


「ああ、みんな無事だ!」


 赤髪の男がにこりとシェイラに笑いかけて、続いてシェイラの後ろに立つ俺を見た。

 その瞳が細められ、足元から全身を眺めた後、


「レイルくんも怪我はねぇみたいだな!」


 ニカっと笑った。人懐っこい笑み。


「ど、ども……」


「まぁ上がれよ。話は中でしようぜ。ベーグルの旦那がお前を待ってる」


 赤髪の男に背中をポンポンと叩かれ、俺は壁の中へと招き入れられた。





 隠し扉の中には通路があり、それを進んでいくと小さな部屋にでた。

 中はそれほど明るくなく、部屋の中央にあるテーブルを囲むようにして数人の男女が椅子に腰掛けている。


「よぉ坊主。よく生きてたじゃねぇか!!」


 その集団の一人、見覚えのあるスキンヘッドが片手を上げる。それを合図にむさ苦しい男共が俺を囲んだ。


「聖騎士との一戦見てたぜ? すげぇなアンタ!!」「マルクスの件は世話んなった! アンタには礼を言っても足りねぇくらいだ」「きみはこの街の英雄ですね!!」


 それらに苦笑で応じていると、今度はこれまた見覚えのある金髪男が俺の前に立ちはだかった。


「てめぇには言いてぇことだらけだがなぁ」


 男は俺の肩をバシッと叩いた後、


「……まず礼を言う。シェイラのこと、ありがとな」


 深く頭を下げた。


「あ、あぁ」


 シェイラとのこともある。俺は気まずさのあまり、彼から視線を外して素っ気なく言った。

 それから俺は、パン屋の店主であるベーグルのおっちゃんの隣に腰を下ろす。


「んで、坊主。これからどうすんだ?」


 "これから"というのは、俺の今後についての話だろう。


「どうするもねぇよ。これまでと変わらず俺は旅人を続けるさ。顔を隠して生きることには慣れっこだしな。

 これ以上おっちゃんたちに迷惑はかけたくねぇし、今日の夜にでもここを出るさ」


「夜はやめとけ」


 金髪の男、ダリルがぴしゃりと言う。それに続き、ベーグルのおっちゃんも。


「ダリルの言うとおりだ。出てくんなら早朝日の出がベストだ」


 おっちゃんは「それによ、坊主」と、椅子の横にある箱をゴソゴソと手探り、


「お前俺に言ったろ。今度会ったときにゃ酒の1杯でも奢ってくれってよ?」


 酒瓶を取り出し、ニカっと笑った。




 

 あれから数時間がたった。

 酒に酔った男共からの質問攻めもようやく収まり、俺は椅子にだらりと身を放って一息つく。

 

「おつかれ」


 労いの言葉と一緒に、隣に座るおっちゃんが酒の入ったグラスを差し出してきた。

 正直言って、酒はあまり好きではない。

 決して俺が酒に弱いというわけではないのだけれど、あのアルコールの味というのがどうしても好きになれないのだ。

 その点を踏まえると、まだまだ俺はガキだということなのだろう。

 断ろうかと思ったが、その場のノリで受け取った。

 グラスを傾け、酒を喉に通す。アルコールの熱が喉を焼き、反射的に口元が引きつる。

 ああやっぱり、酒は嫌いだ。

 そんな感想を抱きながら、俺の視線は無意識のうちに白金色をした髪の少女に吸い付けられる。

 ダリルとなにか話していて、その顔がとても幸せそうで……見ていられなかった。

 焼けになり、もう一度グラスを傾けたとき。


「惚れたか?」


「ぶふぉ――ッ!!」


 不意打ちを受け、口の中のモノを吹き出した。


「おうおう、大丈夫か坊主?」


「誰のせいだよ、おい」


 口元を服の袖で拭う。それを横目に、グビグビとグラスを空っぽにしてからおっちゃんが呟いた。


「なぁ、坊主」


「ん?」

 

「ここにいる奴らは、全員。異端審問で家族や恋人を失った奴ばかりだ」


 おっちゃんは優しそうな顔で部屋の面々を見渡した。


「俺達はあのとき、坊主が声上げなかったら、司教の野郎をぶちのめそうと思ってたんだぜ? だから、俺達が今こうして笑ってられんのは坊主のおかげだ。ありがとう」


 おっちゃんの言葉は真剣だった。


「なにかしこまってんだよ。おっちゃんにゃあ、パンを奢ってもらった借りがある」


 真面目なのは、あまり好きではないのだ。慣れていない、と言ったほうがいいかもしれないが。

 ぽかんとした後、おっちゃんは笑う。


「はっは。参ったなこりゃあ。うちの娘が惚れんのも仕方ねぇか」


 一瞬聞き逃せぬ言葉を聞いたような気がしたが、それは俺の聞き間違いだとばっさり可能性を切り捨てる……が。


「俺の自慢の娘だ。よろしく頼むぜ」


 2度言われては、流石に聞き逃せない。


「……何言ってんだ、おっちゃん酔ってんのか? シェイラにはダリルがいるじゃねぇかよ」


 俺はそう笑い飛ばした。笑っていなきゃやってられないからだ。無理にでも笑っていなきゃ、胸が引き裂かれそうだからだ。

 そんな俺とは別に、おっちゃんは眉をへの字に曲げて。


「あん? そりゃこっちの台詞だ。ダリルはシェイラの兄貴だぜ?」


「へぇ」


 …………。


「……え。今なんて?」


「だから。ダリルは俺の息子だ」


 衛兵らが慌ただしく街を捜索する中、俺の驚声が夜の街に轟いた。





「うっ……」


 眼が覚めると、顔の前に悪臭を放つどでかい足があった。


「くっさ……」


 のそりと起き上がり、周りを見回す。

 そうだ。パーティーが終わった俺達は、そのままここで寝落ちしてしまったのだ。

 皆疲れきっているのだろう、いびきをかきながら爆睡している。そんな彼らを起こさぬよう、俺はそろり足で寝床を抜け出した。

 部屋を後にしようとしたとき、視界にシェイラの寝顔がはいる。

 どんな夢を見ているのだろう、幸せそうな顔をしている。

 いたずらしてやろうか迷ったが、起こすとまずい。

 

「じゃあな……」


 柔らかそうなほっぺをツンツンと優しくつつき、シェイラの寝顔を眼に焼き付けて、俺はその場を後にした。



 暗がりの中、月明かりだけを頼りに裏路地を進む。ぐねぐね曲がったりを繰り返す裏路地は、初見ならば確実に迷子になる自信があるが、一度歩いた道だ迷わない。来た道を戻ればいいだけのことである。

 そのまま歩き続けること数分、ようやく路地裏の始まりまで辿り着いた。

 これからまた、俺の旅が始まるのだ。長い長い旅が始まるのだ。

 死ぬ理由を求める旅ではなく、今度は生きる目的を探す旅が始まるのだ――。


「――まだ、日の出には早いよ?」


 背中越しに声をかけられ、俺は立ち止まる。振り返らずとも声でわかる。


「ありゃ、起こしちまったか?」


 想像した通り、そこには白金色の髪をした少女がいた。月明かりに照らされ、少女の髪が銀色に透き通って見える。

 走ってきたのだろう、髪は乱れ息が荒い。

 胸元に手を当て大きく深呼吸して、シェイラの瞳が真っ直ぐ俺を見つめてくる。


「どうしても、行っちゃうの?」


「おん。俺は旅人だからな」


「わかった。なら、わたしも連れてって」


「は?」


「レイルの足手まといにならないようにするから、……お願い!」


 俺は眼を伏せ、そして歩き出した。


「……だめだ」


 俺は指名手配犯だから。


「料理に洗濯だって、なんでもするから……!!」


「だめだ」


 きみを危険にさらすわけにはいかないから。


「だめって言われても、ついてくから!」


 そう言うや否や、シェイラは俺の後ろにピッタリくっつく。


「……そんなに俺に着いて来たいのか?」


 立ち止まって後ろを振り返った。


「うん!」


「お前さっきなんでもするって言ったよな?」


「うん?」


「それってつまり、俺があんなことやこんなことしてもいいってことだよな?」


「うん。でもレイルにはできないよ」


「ほほう? 俺がそんなことしない聖人にでも見えるってか? そりゃ大きなまちが……」


「だってレイルにはそんな度胸ないでしょ?」


 あまりにも的確な返しに、俺は何も言い返せなかった。ぐうの音も出ないとは正にこのことである。

 俺は大きなため息をついた。


「はいはいわかりました、俺の負けです。降参します」


 この女といると調子が狂う。苦手だ。


「ったく。俺は指名手配犯だぞ?」


「うん」


「俺は世界の敵だ。教会の聖騎士や、悪くすりゃ暗殺者(アサシン)に命を狙われることだってあるんだぜ?」


「うん」


「その俺に着いて来るってことは、お前も同罪なんだからな、わかってんのかちゃんと?」


「うん!」


 なぜか満面の笑顔。俺の言葉の意味がわかってるんだか、わかってないんだか……。

 そんな不安を胸に、俺はボリボリと頭を掻きむしる。


 そう、ここから始まったんだ。俺とシェイラの喜怒哀楽が蔓る長き旅路は。


《ピリオド》《聖騎士》《教会》そして《悪魔》――。


 俺達の旅はいったいどんな最後を迎えるのだろう。

 それは誰にもわからない。例え俺の《眼》を以てしても、未来までは見通せない。


 そんな期待と不安を胸に、俺達は新たな旅への一歩を踏み出したのだ――。

 アクセス数伸びなさすぎて続き書くモチベがないので、ここで完結とさせて頂きます(続き読みたいって言ってくれる読者さんがけっこういるなら書くかもしれませんが……)

 まぁ、ズラズラと続き書くよりは、ここで綺麗に締めといたほうがマシかなって笑


 それと全くの別作品となりますが、

『剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語』

 というのも書いているので、宜しければ読んでみてください(一番最初に書き始めた作品なので、途中まで文章力小学生並みデスっ)


 ――と言うことで、約6万文字お付き合い下さりありがとうございましたっ!!

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