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異端者ですが、ナニか?  作者: 星時 雨黒
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第21話 語られる真相

 断頭台へと続く階段を登り終えると、銀の鎧を纏った騎士、ユリウス・レイヴスが俺を待っていた。

 階段を登り終えたとき、風が吹いた。爽やかで涼しい風だ。気持ちいい。


「審問台よかいい眺めだな、断頭台(ここ)


 後ろを振り返り、俺はそう呟く。

 断頭台は審問台より高い場所にあるため、そのぶん遠くを見渡せた。


「ふふっ」


 突然ユリウスが笑った。


「ん、どうかしたか?」


 微笑を浮かべるユリウスが、笑みを崩さぬまま小さく首を左右に振る。


「いえ。死を前にして、ここまで落ち着きはらっている者を見るのは初めてでして。しかも死刑場(ここ)がいい眺めとは……貴方は変わっている」


「そりゃどうも」


 周りと変わっているという自覚はあったが、面と向かって言われるのは初めてだ。


「この場で言うのも何ですが、貴方には感謝しているのですよ、レイル・カーター」


「ほう。感謝してんなら無罪にしてくれてもいいんじゃねぇの?」


「それはできません。『自らを悪魔と称した愚か者に死を――』これは教会の判断です」


「まぁ、そんなとこだろうな」


 眼で見た感じ、ユリウスは悪い奴には見えなかった。

 強く、気高く、凛々しい。

 その若さで聖騎士に着いただけはある。騎士の中の騎士という雰囲気が滲み出ている。

 そして。コイツには俺と似たモノを感じたのだ。それは多分、あの笑顔。微笑の裏には影があり、なんともまぁ寂しい笑顔(かお)をするものだ。俺もこんな顔で笑っていたのだろうか。

 こういう奴には決まって不幸な過去がある。俺はそれをよく知っている。

 だからコイツは、どうしても悪い奴には見えなかったのかもしれない。


「教会は、司教マルクス・セイクリッドの独裁者ぶりに困り果てていましてね。お清めなどとふざけた法を作り、若い娘を弄んでいたことも教会は知っていました」


「ほう」知っていながら、見過ごしていたと。


「彼はこの街に配属される以前、村をまるごと消しているんです」


「……ほう。村、ね」聞き捨てがたい、単語だ。


「マルクスが司教になり初めてついた村です。彼の報告によれば、村は異端者の巣窟であったとのことで、そのとき司祭も一人殺されています」


 ――まて。待て待て待て待て。


「ですが。マルクスと同じく当初その村についていた司祭を問い質したところ、マルクスの証言とは食い違った部分がいくつかありまして」


 心臓が大きく揺れる。ちょっと待ってくれ。

 ここから先は、俺も知らないことだ。

 6年前。村に戻った俺を待っていたのは、ただの廃墟だった。

 村は焼け焦がれ、ところどころに白骨化した死体が転がっている始末。

 てっきり俺はマルクスが村人を皆殺しにした、そう結論を出し疑わなかった。いや違うな、疑いたくなかったのだと思う。

 俺が村を出た6年のうちに、いったい何があったのか。その6年を俺は知らない。知りたくなかった。

 だがその6年間が、唐突に今明らかにされようとしている。


 止めようと思い、俺は押し留まった。


 村の生き残りとして、今聞かなかったら俺は真実を一生知る機会はないだろう。

 俺には義務がある。聞く義務が――。


 俺の葛藤を知らぬユリウスは、遠くを見つめながら語りだした。


「その村には、若い夫婦がいたそうです。司教マルクスは女性の方にお清めを強要しましたが断られ、それが原因で異端審問を開き見せしめに夫婦を殺したと。

 結果。その1年後村人はマルクスに反旗を翻し、命からがら逃走している最中、村人に捕まった司祭が殺され、どうにか近くの街に逃げ込んだマルクスは、街の司教に助けを乞い討伐軍を編成し、女子供かまわず村を焼きはらった――」


 聞き終え、俺は大きく息を吐いた。


 ああ、そうだったのか。村の人は、戦ったのか。


 きっと、後悔していたんだろう。あのとき立ち上がらなったことを。俺と同じように……。


 心が少し、救われた気がした。

 村の人を許すつもりはないが、もうこれ以上憎む必要もないのだから。


 それからユリウスはこう付け加えた。


「そして。この街にも数え切れない被害者を出してしまった」


「なら、もっと早くマルクスを裁けばよかったろ……」


 む、待てよ。俺は考える。教会がマルクスの所業を知っていたのなら、いづれマルクスは断罪されていたことになる。ということは、


「つまりなにか? 俺が司教(アイツ)をハメなくとも、教会はアイツの処分を決めてたってわけか?」


 そうなると、俺がここに立ったことがまったくの無駄となる。

 俺の問いに対し、ユリウスはまたもや首を左右に振った。


「いいえ。腐っても司教。そんな簡単に敗訴などできようはずがない。ですから、貴方には感謝していると言ったではないですか」


 ああ、確かに、言っていたなそんなこと。


「私としてもあのような下賤な老害、殺さず逃がすようなことだけはしたくなかった」


 ユリウスの眼が細まり、些細な殺気が彼から滲み出る。


「少し、長くなってしまいましたね」


 それを隠すように、ユリウスは言った。


「最後に、何か言い残すことはありますか?」


 最後、か。

 正直死んでもいいと思っていた。俺は後悔という名の過去に生きてきた。マルクスを断罪した今、俺には生きる目的がなくなったからだ。

 しかし。

 俺はシェイラに出会ってしまった。

 俺は村の真実を知ってしまった。

 そうしてようやく、俺の中で決心がついた。


 俺はユリウスの紫苑の瞳を正面から見つめ返し、


「俺は本物の悪魔だぜ?」


 そう、ケラケラと笑ってみせた。

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