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異端者ですが、ナニか?  作者: 星時 雨黒
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第2話 気持ちのいいおっちゃん

 この世界には『悪魔』が実在する。

 人々は人ならざる力を持つ悪魔を(ねた)み、嫉妬(しっと)し、そして恐怖した。

 悪魔は殺せ。見つけ次第殺せ。探し出して殺せ。

 殺して殺して殺しつくせ。

 世界から悪魔と悪魔に組する異端者共を駆逐すべく『教会』はある制度を設けた。


 それが――異端審問である。



「はぁ――!?」


 周囲の視線がこちらに集まる。


「バカ、大声だすんじゃねぇ。司教に聞かれたらどーすんだ!?」


 小声で怒鳴られた。


「わ、悪い。つか、それ本当かよ?」


「ああ、嘘じゃねぇ。今日だって……これから一件控えてんだ」


 妙な空きがあった。視線の動き、力を込める拳。それだけで今日行われる異端審問は、少なくとも彼の知り合いの誰かなのだろうということはわかる。

 でもまぁ、これ以上余計な詮索(せんさく)はしないが吉だ。もちろん店主のためにも、俺自身のためにも。

 それよりもまず聞くべきは、異例な回数の『異端審問』についてである。


「町の人間は誰もおかしいとは思わないのか?」


「それを司教に言いに行った奴が数人いた」


 "いる"じゃなくて"いた"、ね。それだけでなんとなく察しはつくが、一応聞いておく。


「それで、どうなった?」


 苦笑を浮かべ、店主は首筋にトンと手を当てて、


全員(・・)『異端者』と見なされ首チョンパよ」


 想像どおりの答えに、ため息の1つもでてこない。


「たかがそんな理由でか。異端審問は普通、民衆の多数決によって有罪無罪が決まるんだよな?」


「そうだ」


「なら、なんだって全員有罪になる。1人くらい、無罪になってもいいだろうに」


 審問を取り仕切るのは司教だが、異端審問は基本民衆による多数決での有罪無罪が義務付けられている。――と言っても、異端者や悪魔を恐れるあまり、異端審問にて無罪になるのは10人中1人か2人なのだが。

 しかしそれでも1割は助かる。なのに店主は全員(・・)有罪判決になったと言い切った。


「審問で反対派に手を上げた奴を、司教のクソ野郎が異端者を助ける異端者だと言い張り審問にかける。それがこの町の司教のやり方だからなぁ」


「……」


 あれ、おかしいなと俺は額を抑えた。なんだろう、なんなんだろうこの感じ。まるで他人事とは思えないこの感じ――。


「民衆は司教にビビって反対派に手を上げられやしねぇんだ。手を上げた奴だけならまだしも、終いにゃソイツの家族や友人までもが異端者と疑われちまって審問にかけられたケースも実際にある……」


 店主の言葉は俺の耳には届いてこない。


 もしかしたら、もしかしたらいるかもしれない。『奴』がこの町に――。


「って、おい。聞いてるか坊主? おーい」


「……ん?」


「ん? じゃねぇ。ま、坊主も気をつけろよって話だ。あんまし人前で変なことはしねぇこった。できれば明日には、いや今日中にこの町を出てった方が身のためだぜ?」


 これから知り合い(多分)が審問にかけられるっていうのに、他人の心配とは人が良すぎる。


「アンタ、見かけによらず気持ちのいいおっちゃんだな」


「ったりめぇよ。――って言いてぇところだが」


 店主は一旦言葉を区切り、俺の右手にある食べかけのパンを見てニカッと笑う。


「坊主はベルリアン・シェリルを"うまい"っつってくれた初めての客だかんな!」


「や、うまいとは言ってないぞ? 一言も」


 つか、うまいって言った初めての客っておい。いつから商品の列に並んだのかは知らんが、不評なら売るなよおっちゃん。


「何言ってやがんだ。あんなにべた褒めだったじゃねぇか?」


 ガッハッハッハと嬉しそうに笑う店主の顔を見て、俺は開きかけた口を閉じた。事実がどうであれ、このおっちゃんがそう思っているのなら、俺が無理に否定する理由はどこにもない。おっちゃんが良ければいいのさ、この場合。


「それにコイツぁ――ベルリアン・シェリルは7日前から誰も買ってくんなかったやつだしな!」


 更にバカ笑いしだす店主。周囲の人々が怪訝(けげん)そうな目でこちらを――


「――ってヲイ。7日前っておい。そんなモン客に出したのかよアンタ!?」


 おっちゃんが良くても駄目だ、この場合。


(わり)(わり)ぃ。てか、誰も買いやしねぇと思ってたんだよこっちは。それなのにこの坊主ときたら、まぢで買っちまうんだもんなぁ。こっちは内心ヒヤヒヤしてたんだぜ?」


「あー、そりゃ申し訳ないことを――してねぇよっ!? 腹壊したらどうすんだこの野郎!?」


 細けえこたぁ気にすんなガッハッハッハと豪快に笑い出す店主。ひとしきり笑った後、店主が言った。


「っにしても、最後の客が、坊主みてぇな坊主で良かったぜほんと」


「坊主みてぇな坊主ってただの坊主じゃねぇか。つか、今日はもう店じまいなのかよ?」


 最後の客、という言葉が(みょう)に引っかかった。


「いや、今日で畳んぢまうのさ。この店は」


「そりゃ、この町を出るってことか?」


「ま、そんなとこだ。っと、そろそろ支度せにゃ不味い時間だ」


 はっきり町を出ると言わずに言葉を(にご)す辺り、この気持ちのいいおっちゃんのことだ、これから異端審問にかけられる知り合い(多分)を助けにでも行くのかもしれない。しれないだ、確証はどこにもない。


「そうか。なら邪魔しちゃ悪いし、俺はそろそろ行くぜ」


 このおっちゃんのことなら助けてやりたいと思う気持ちもあるにはあるのだが、流石におっちゃんの知り合いまで助けてやろうと思えるほど、俺はお人好しではないのである。

 自ら危険を侵してまで、他人を助ける教養など持ち合わせてはいない。

 こんな俺を情が薄い奴だとか、冷めた男だとか言うやつは勝手に言ってればいいさ。別にいーし俺気にしねーし。

 そんな俺の心境など知る由もない店主は、


「おうよ、達者でな!」


 などと笑顔で俺の良心をグサグサ(えぐ)ってきやがる。

 余計な感情を押し殺し、立ち去る直前にふと思い出した。


「そうだ、まだ金払ってなかったな。いくらなんだ?」


 腰のポーチの中にある金銭袋から貨幣(かへい)を取り出そうとする俺に、店主は片手を開げてピシャリと言い放つ。


「バカ野郎。最後の客から代金とるアホウがどこにいやがる。いつかまた会った時に酒の一杯でも奢ってくれりゃあそれでいい」


 そういうもんなのか、と俺は貨幣を金銭袋に戻す。旅人である俺には、そういった常識は(うと)い方なのだ。

 店主の毎度ありぃ!という言葉を背に受けながら、俺は大通りの人混みに混ざって歩き出す。そしてふと気づいた。


「ん、それって逆に高くないか?」

 5話までは読んでほしい。つか5話を読んでほしい

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