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障壁魔法師の受難  作者: シロナガスクジラ
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8.御前試合と東條真守の逸話



「明日の訓練、国王様が直々に訓練場に出向いてくださるそうだ!」

「「「え!?」」」


いつものようにペアがいない俺は、一人寂しく剣の型の素振りをしていると、突然近衛騎士団団長、テトラ・バードがそんなことを宣った。

その発言の内容に皆、驚きを隠せないでいる中、クラスの代表として勇者である比島がバードに聞いてみた。


「え、えーと……その、国王様がここにいらっしゃる、ってことですか?」

「ああ、その通りだ。国王様は貴殿ら勇者方の進捗状況が気になったらしく……。ご自身でみると言ってきかんのだよ……」


はぁー、とあからさまな溜息をして見せるバード。

どうやら近衛騎士団の団長として色々気苦労が絶えないようだ。


「まぁ、とにかくそういうわけだから、勇者様方から代表で二人、こちらの近衛騎士団と対戦してもらうことになる」

「二人……ですか?」

「ああ、既にこちらで決めてある。勇者ケンジ様と、落ちこぼれ魔法使いマモル、だ」


勇者ケンジ様と、落ちこぼれ魔法使いマモル……か。

ここまで態度に出ていると逆に清々しいな……。

そんな俺の内心の不満を打ち消すかのように比島が咳払いをすると、対戦相手について尋ねた。


「ああ、勇者様の方は気にしなくてもそんなに強い相手ではないぞ。マトルという新入りだ。何、いつも通りにしてくれれば問題はないさ」

「はあ、そうですか……。それで、東條の相手は?」

「マモルの相手は俺だ!」

「ええ!?団長がするんですか!?」

「ああ、問題ない。きっちり国王様の前で赤っ恥かかせてやるさ」


バードがガッハッハ、と愉快げに笑っている中、クラスメイト達は明るいバードとは対照的に空気が沈んでいた。

皆一様に青白い顔をして震えている。

中には地面にへたり込んでいるものまでいた。

……しかし、御前試合か。

俺自体、魔力量向上の訓練を始めてから既に三ヶ月が経ったのだ。

初期の頃に比べて大分強くなっている……ような気がする。

いや、正直なところそんなに強くなった気もしないが……。

まぁ、それでも自分がどのくらい強くなったのか気になるにはなる。

それを今回は御前試合とはいえ、近衛騎士団で一番強いであろう、バードで試すことができるのだ。

少しばかり胸が踊るというものだ。

……どうせだし今日はこの辺で訓練を切り上げて、明日の試合に向けてイメトレでもしておくべきか?

そう思った俺はバードに聞いてみた。


「バード団長!俺、明日の御前試合で無様な姿を晒さないよう、早めに部屋に戻って休んでいてもいいですか?」

「む?もちろんいいぞ!むふふ、国王様の御前なのだ……あまり汚い様を晒すなよ?」


俺の下手に出た言い方が功を制したのか、バードはにやにやと笑いながらもあっさりと許可を出す。


「バード団長の寛大な許可に敬礼!」

「ふはははっ、そうであろう、そうであろう?」


俺がふざけてしてみた敬礼にもきっちりと乗ってきたバード。

これは明日が楽しみだなぁ……。

思わず口角がつり上がってしまう俺だった。






御前試合当日ーーー。

勇者比島の試合は順調に進行していた。


「『光槍ライトニングスピア』!!」

「ぐああっ!?」


見習い騎士さんは派手に地面に横たわった。

見る人が見ればやらせだとすぐにわかるだろう。

少しばかり倒れる役が未熟だったようだ。

案の定国王様はやらせだとわかっているらしく、「下がれ……」と一言言うだけだった。

しかし、周りで見ていた貴族達の目は節穴だったらしく勇者に向かって歓声を上げている。


「えー、続きましては我が近衛騎士団団長、テトラ・バードと、クズ魔法使いマモルのエキシビジョンマッチを開催します!」


勇者の御目通りがある程度済んだところで俺とバードの御前試合が開始された。

勇者の時とは違い、俺には全く声援が上がらない。

むしろバードの方に声援が上がるぐらいだ。

……やれやれ、全くもって悲しい限りだぜ。


「ふぅー……さて、これから俺がお前を叩きのめしてしまうわけだが……。何かリクエストでもあるか?」


クラスメイト達には貴殿、俺にはお前……。

もう少し隠そうという気概はないのか?


「そうか……。じゃあ、一つだけ。あっけない終わり方だけは勘弁だからな?」

「なっ……!?」


俺の挑発に上手くはまったバードは、額に青筋を浮かべながら剣を構える。


「始めっ!!」


審判が始めの合図を出した瞬間、バードが俺に向かって剣を振りかぶってくる。


「っと!?」

「……っ!?」


俺はバードの大振りな剣を右手に持っているボロい剣で流す。

バードは剣に重心を置きすぎたのか、たたらを踏む形になってしまった。

顔が前面に押し出された状態は正しく、俺に蹴り上げてくれ、と言っているようなものだ。

俺はバードの顎を強かに蹴り上げる。


「があっ!?」


顎を蹴られたバードは泥酔したサラリーマンのような足取りで後ろに一歩二歩、と蹌踉めく。

バードの剣の握りが甘いことを確認できた俺は、俺の剣でバードの剣を叩き落とした。


「な、何をっ……!?」

「ほら、チェックメイト」


バードの剣を叩き落とした俺は、喉ががら空きになったバードに剣を突き出して勝利宣言をする。

周りは審判含め誰一人として声を発さない。

そんなに俺みたいな落ちこぼれが勝ったことがおかしかったのか?

しかし、今回の試合は俺が全く魔法を使ってないこともあり、どう考えても相手の力不足だったと言えるだろう。

もういいだろう、と勝手に判断し、剣を喉元から離したその時……。


「……(《中級ミドル》『火属性強化ファイアブースト』)」


ーーー風景が一回転して、壁に体を叩きつけられていた。






落ちこぼれと御前試合をすることになった前日。

勇者様のご学友の方々から警告をいただいた。


「バード団長……」

「うむ?どうしたのだ?」

「いえ、試合で東條と戦うことになったじゃないですか?」

「ああ、あの落ちこぼれか……。それがどうかしたのか?」

「バード団長!気をつけてください!あいつは俺たちとは違う世界で生きてきた人間です。確かにバード団長の言う通り、東條の魔法は攻撃魔法が存在しない、クズ魔法かもしれません。しかし、あいつは学生という立場にありながら、ヤクザやカラーギャング……そういった裏の連中を一人で潰した男だと言われているんです。あいつに普通は通用しない。そう思って挑んでいかないと、バード団長……。殺られますよ?」

「あ、ああ気をつける」


勇者様のご学友の震え方は尋常ではなかった。

まるで虎の尾でも踏んだかのように、顔を真っ白にしていたのだ。

俺もその話を全て信じたわけではない。

ヤクザ(詳しく聞いたところ、闇ギルドみたいなものらしい)というのは相当大きい戦力らしく、騎士団を組んで挑んでも完全に討伐することは不可能だと言わしめていたのだ。

そんな勢力をあのガキ一人で潰す?

そんなのあり得るはずがない。

だが、勇者様のご学友の表情が妙にその話に信憑性を感じさせてしまい、俺は御前試合に万全の準備を済ませることにした。

それなのにーーー


「はあはあはあ、はあはあ……はあ。ど、どうなっているのだ?俺は確かに中級魔法で肉体を強化して殴った。それなのに何故そんな余裕のある顔で立っていられる!?」


中級魔法を使い、落ちこぼれは壁に顔から突っ込んでいった。

これで終わり……。

と、思った矢先、ドガァァンッ!!!という音とともに、起き上がってきた。

しかも無傷で。

落ちこぼれは服についた土ボコリを手で払うと、ゆっくりとこちらに向かってきた。


「ひ、ひぃぃぃ!!!く、くるなぁぁぁ!!!」


いつもの無表情で迫ってくる落ちこぼれの姿に、勇者様のご学友の言葉が思い出される。


『殺られますよ?』


ーーゴンッ!


落ちこぼれの拳が俺の顔を捉えたーーーーーー




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