6.魔法と魔術(IV)
さて、俺は結構ハードな二属性魔法の習得を目指すことにしたわけだが……。
さすがにいくらなんでも同時習得というのは無理があるので、自身の属性である障壁魔法をある程度使い物にできるようにするところから始めることにした。
「というわけで、マモル。あなたはこれから障壁魔法の習得に挑みことになるのですが……。私があれほど散々言っておいてなんですが……。実は障壁魔法というものはそれほどゴミ、というほどゴミというわけではありません」
「うーん……?つまり何が言いたいんだ?」
「そうですね……言い換えれば、これほど尖っている魔法は、習得こそ困難を極めますが、使いこなすことができればある程度の効果は見込める……ということです」
「ほぉ〜……なるほどね。それで?具体的にはどうするのが良いんだ?」
「まずは、障壁魔法の欠点をなくすことから始めましょう」
そう言ってマリルはA4程度の大きさの羊皮紙(この世界には半紙というものがまだ確立されていないようだ……)を俺に見せてくる。
そこには大きく障壁魔法の二つの欠点が書かれていた。
・魔力量の消費が多すぎるために、一人でまともに発動できない。
・形態に攻撃魔法が存在しないこと。
どうやらこの二つが障壁魔法の欠点として一番のネックなようだ。
「まぁ、このくらいならまとめられるまでもなく俺もわかってはいたが……。それにしても改めて見ると、でかいデメリットだなぁ……」
「ええ、確かに……。ですが、ここさえ乗り越えれば相当な実力がつくであろうことは予想できます」
「まぁな……。にしても、こんなデメリット……どうやってなくそう、ってんだ?」
俺の不満気な言葉に、マリルは待ってましたとばかりにもう一枚の紙を取り出した。
解決案
・魔力量を大幅に増やす
・熟練度を上げる
・術式の多様化
・無属性魔法による攻撃魔法の補填
……ふむ。
なるほど。
それしかないな、と思える提案ばかりみたいだが……。
「魔力量を増やすことや、無属性魔法の使い方については俺もなんとなくわかるが……。熟練度の上達と術式の多様化についてはさっぱりわからないんだが……。どういうことなんだ?」
「そうですね……。その二つを知るにはまず熟練度が何なのか、そして術式というのがどういったものなのかを教える必要がありますね。……では、最初に熟練度の方から説明させていただきますが……。良いですか?熟練度というのはーーー」
熟練度。
この言葉は〜猿でもわかる……〜の本でも説明されていたが、やはり初心者向けということもあり、魔法の行使の幅が広がる、という説明だけでは不十分のようだ。
何でも、熟練度というのは一つ一つの魔法に対しての無駄を削り、純粋にその魔法の威力を引き出すことのできる技量のことも表しているらしい。
ランクはA〜Gまでの七段階評価で、アルファベット順に技量が高くなっていくらしい。
さらにその上にはSとかSSとかがあるらしいが……。
そこらへんは今は関係ないので、割愛させてもらおう。
底辺と頂上では相当に差があるらしく、熟練度Gの人が放つ『光球』の魔力消費量が10だとすると、熟練度Aでは0.5ほどしかないことになるそうだ。
確かに熟練度の高さは、魔法を使って戦う俺たちにとって相当重要な案件なようだ。
「まぁ、ここまででしたらほとんどの方が知っているだろう、常識の範疇に入るわけですが……。これから私が話す術式に関しては、魔法師にとっても発展といった内容になります。本来なら昨日魔力を動かし始めた素人の中でも素人であるマモルに教えるのは、いろいろと問題なのですが……特別ですよ?」
「……お、おう。ありがとな……」
キャルーンッ。
と効果音がつきそうな勢いで片目だけ閉じてウィンクしてみせるマリル。
あざとすぎて少し引いてしまったのは、俺だけの秘密にしておこう……。
「……(昨日のマモルのご学友共はこれでイチコロだったのですが……。うまくいきませんね……)」
少し思案顔なマリルをおいて、俺は術式の勉強に取り掛かることにした。
◆
「さて、あらかた有名な術式は教えることができたと思いますが……。今回マモルに使ってもらう術式は、《節約式》という術式です。この術式の効果はーーー」
術式。
魔法という神の神秘を少しずつ人が手を替え品を替えて、と改良していった魔法の補助といった役割のものだ。
メジャーなものとして、《連射式》《二重式》などが挙げられるが……。
今回俺が習得することになった術式は、《節約式》と呼ばれる一風変わった術式である。
この術式は魔法の威力を多少落とす代わりに、大幅に魔力消費量を下げるという術式である。
本来なら自分の魔法の威力を下げるなど、魔法師としては失格も良いところ。
しかし、俺みたいなハズレ魔法を引き当てた人や、魔力量が生まれつきあまり持っていない人からすればこの術式は結構助かる代物なのだ。
というわけで、早速この術式に取り組んでーーー
「しかしですね……。この《節約式》という術式は、あくまで応急処置のようなものです。もともと術式は魔法に一手間かけなければいけないので、発動に時間がかかってしまいます……。そうなるとやはり、魔法の基礎である魔力量を上げることはマモルのような魔法師には必須というわけです。……わかりますか?」
「ああ……それはわかってはいるが……」
「ということでですね。とりあえず、今は魔力量を上げるのを専決にして、術式は後から鍛え上げます。良いですか?」
「あ、うん……わかった」
マリルの有無を言わせない迫力に押され、俺は半ば強制的に魔力量上げの訓練に突入することになった。
「あ、ちなみに……私たち人類の努力の結晶であるこの術式のことをーーー」
一拍おいてマリルは言う。
「ーーー魔術、と呼んでいます」