5.魔法と魔術(III)
ここ最近説明会的な話が続いていてすいません。
本当は話の中で持ってくるのが良いんでしょうが……。
多分、後一話ぐらいで魔力と魔術の説明は終わると思います……。
魔力のコントロールを大体ものにできたその次の日、俺は今日もあの〜猿でもわかる……〜シリーズを読むために、図書館へと足を運んでいた。
早朝、それもまだ日が昇っていない時間帯ということもあり、昨日に増して人気がない図書館内を歩き、目的の本を手に入れる。
席に着こうとしたところで、後ろから声をかけられる。
……お姫様だった。
「おはようございます、マモル様!」
「……」
太陽のように眩しいお姫様の笑顔は、朝起きたばかりの寝ぼけた俺には少しばかりきつい物がある。
俺が無言なのを不審に思ったのか、顔を覗き込もうと近付くお姫様。
俺は少し後ずさりながら挨拶を返す。
「ああ、おはようございます、お姫様……」
「まぁ、お姫様だなんて……名前で呼んでいただけると嬉しいです」
「……」
なんとも元気なお姫様だ。
第一彼女の自己紹介なんて俺は半分寝ていたので、覚えているはずもない。
しかし、そんなことを言えば王権神授説を謳うこの国のことだ。
無礼だのなんだのと騒ぎ立てて、俺を処刑するかもしれない。
それだけは勘弁だった。
なので、俺は誤魔化すようにせきばらいをすると、話題を露骨に変更させる。
「ん、ん゛ッ……え〜と、お姫様は、本日は機嫌よろしいようで……。昨日の口調はどうしたのでしょうか?」
「ああ、それはですね〜……なんとも恥ずかしい話なのですが……」
頬に手を当てて恥ずかしがるお姫様……あざといな。
「実は、知り合いがあんな話し方でよくフレンドリーに話しているのを見かけまして……ああいう話し方の方が仲良くなれるのでは……と思い、試してみたのですけど……。どうやら、それほど受けが良くないのがわかりましたので、いつもの口調に戻そうかと……」
なるほど。
結局あれはお姫様の口調ではなかったのか。
言われてみれば、随分と話し方が下手くそだな……とは思う。
最初なんかどもってたし。
なんにせよ今の話し方の方がお姫様のイメージに合っているので、この口調で話して欲しいものである。
さて、用も済んだだろうと思い、俺がその場を離れようとすると、ぎゅっと、強い力で服の裾を掴まれた。
「え、えーと、他に何かご用がありましたでしょうか?」
「今から魔法の訓練をなさるんですよね?私、こう見えても結構魔法は得意な方なんです!ですから、私がマモル様のお手伝いをさせていただきます」
「は、はぁ〜……それはどうもありがとうございます」
「はい!……あ、それと私とマモル様の二人きりの時は、敬語はいりません。私もマモルと呼び捨てで呼びますし……なので、私のことも名前で呼んでください」
「……」
いきなりの魔法師事宣言。
さらに名前で呼べと強要するお姫様。
くっ……これが独裁政権というやつか。
ただ、まぁどちらにしても名前を覚えていないので、お姫様のことを名前で呼べないわけだが……。
仕方なく白状することにした。
「すまん……実はお姫様の名前、覚えてないんだ……」
「〜〜ッ」
ーーパァンッ
静かな図書館で、お姫様のビンタは綺麗に響き渡った。
◆
「良いですか!私の名前はマリルフェイム・リーンファントです!ちゃんとよく覚えておいてくださいね!マモル!」
正直にお姫様の名前を覚えていないことを白状した後、綺麗な手形の腫れが俺の頬に浮かんでいる中、改めてお姫様の自己紹介を受けた。
少々覚えていない罰が厳しいのでは?と思った俺だったが、お姫様……いや、マリルフェイム曰く、淑女の名前を覚えるのは紳士として最低限のマナーらしい。
むしろビンタで済ましただけ感謝しろ、みたいな目で見られた。
ーーー全く、この世界の女の子とのファーストタッチがマリルフェイムのビンタとは……。
つくづく俺もついていないようだ。
そんな俺の脳内の嘆きをマリルフェイムは捉えている様子はなく、ニコニコとこちらを見上げるばかりだ。
とりあえず、俺も挨拶しておこう。
「そうか、わかったよ……。これで絶対覚えたから。えーと、マリルフェイム?で良いんだっけ?」
「うーん、マリルフェイムだと少し堅苦しさが残るので……そうですね、二人きりの時はマリル、と呼んでください。良いですね!」
「あ、ああ……。まぁ、お姫様がそれで良いなら……。マリル、で良いんだな?」
「はい!」
何が嬉しいのか、俺がマリルと呼ぶ度に喜色満面の笑みを浮かべるマリル。
そんなマリルの笑みをもう少し見ておきたい……そう、考える自分がいる。
しかし、いつまでもこうしてダラダラしているほど俺は時間に余裕がない。
そうこうしているうちにクラスメイトたちは、俺の想像もつかないようなはるか高みに上っていることだろう。
俺はクラスメイトたちとの差を少しでも縮めるため、早速魔法の勉強に取り掛かった。
◆
「良いですか?マモル様は昨日の時点で既に魔力のコントロールに成功しているご様子。そうなった場合にマモル様には、二つの訓練方法が残されています」
「ほぅ……それは、どういった方法だ?」
マリルは俺が早速魔法の訓練をする、と言ったので、どこから取り出したのか、大学の講師のようなぴっちりとしたスーツ姿に身を包み、黒板のようなものと、教鞭を取り出した。
銀色の髪とは対照的な真っ黒なスーツはよく映えていて、特に足が長いマリルにはとてもよく似合っていた。
ただ、全体的に体がちんまりとしており、幼さが目立つマリルが着ると、色気……というよりもどちらかというと、小学生が高校の制服を着ているような微笑ましさの方が上だった。
もちろん、本人はきちんと大人らしさというものを出せていると、思い込んでいるようなので、俺は何も言わない。
さて、そんなマリル先生の授業は意外にもわかりやすいものであった。
今もこうして順序立てて説明している。
「一つ目は無属性魔法の習得に専念すること」
「無属性魔法?」
「うん。無属性というのは、この世界にいる誰もが使うことができる魔法で、公式魔法って呼ばれています。これは習得するのにそんなに時間がかからなくて、難度も低いし……。使い勝手も良いから覚えておくと結構お得だと思います」
「ふーん……」
なるほど、無属性魔法か……。
マリルの話を聞いていると、メリットばかりが目立つとても良い魔法に聞こえるが……。
マリルの表情を見るに、何かデメリットがありそうだな。
「それで?デメリット、みたいなものはあるのか?」
「そうですね……。デメリット、というか、一言でいうと決め手に欠けてしまうんです。どの属性と比べても……」
「決め手に欠ける……ね。具体的にはどのくらいなんだ?」
「それはーーー」
なんでも無属性魔法はその人の純魔力を使っているらしく、その属性には特色がないそうだ。
普通、属性にはそれぞれ特色がある。
例えば四大属性を例にとると、こんな感じだ。
火属性が攻撃力特化、風が速力、土が防御力で、水が回復力……といった具合だ。
それなのに対して、無属性魔法というのは、自身の個性を消して使っていることになるのだ。
当然威力がそんなに高くなることはないだろう。
同じ弾丸系の魔法でも、無属性と火属性では二〜三倍ほど威力が違うそうだ。
なるほど、真っ当な神経を持っている人間ならばまずもって無属性魔法を使おうとすら思わないだろう。
しかし、マリルがそんな役立たずな魔法を最初に提案したのには理由がある。
それは……無属性魔法以上に俺の障壁魔法がクズい、ということだ。
「だからもう一つの手段としてマモルの属性である障壁魔法を鍛えるという方法もあります。しかし……」
そう言って顔を曇らせるマリル。
どうやらマリルは真剣に俺のことを考えているらしく、結構俺の属性のことで悩んでいるようだ。
だが、俺にそんな心配は不要だ。
俺は昨日〜猿でもわかる……〜を読んだ時から決めていた。
それはーーー
「そんなに心配しなくても問題はない。俺はどっちも鍛えることを前提にプランを組み立てているからだ」
「えっ……!?」
そう、どちらも一つでは欠陥であるのだ。
ならば、二つ使って戦えばいい。
「別に、属性を二つ使うな、なんて言われていないんだ。俺が両方取ったって、問題はないだろう?」
「そ、それはそうですけど……。でも、それって結構難しいことですよ。一応、言っておきますけど障壁魔法はいくらゴミとは言われようとも、立派な属性魔法です。そんな片手間でできるような代物では……」
「まぁ、確かに並大抵では無理だろうが……。しかし、できないこともないだろう。それに俺って、結局魔王討伐に参加しないといけないんだしさ……。このくらいはできるようにならないと意味ないんじゃないか?」
「……わかりました。私もできるだけ手伝いますから……。結構辛いとは思いますが……頑張ってくださいね?」
「ああ」
こうして俺は、結構ハードな二属性同時習得を目指すことにした。