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障壁魔法師の受難  作者: シロナガスクジラ
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9.ダンジョンと魔物



騎士団長を殴り飛ばした御前試合から約半年が過ぎた。

殴り飛ばした当時は、周りの騎士たちから凄まじい殺気と、魔導師たちの畏怖の視線に晒された。もちろん、クラスメイトからはさらに怖がられた……。

しかし、その一種の恐慌状態とでも言える状態から救い出したのは、意外なことに国王様のお言葉だった。

国王様は、今にも飛びかかりそうだった騎士たちを手で制すると、俺に向かって拍手を送った。


「うむ!素晴らしいではないか!マモル・トウジョウとやらよ……」

「は、はぁ……」


いきなりの賞賛に、俺は訳も分からず生返事をしてしまう。

国王様は側に護衛を二人つけた状態でこちらまで歩み寄ると、俺の背中を豪快に叩く。


「ガハハハッ!そう謙遜せんでも良いわ!もう少し誇らしくしろっ」

「ちょっーーーこ、国王様!そやつは勇者様のご学友の中でも最も危険な人物と称されている男ですぞ!?不用意に近付きでもしたらーーーッ」


隣の護衛たちがワーワー騒ぎ立てているが、どうも国王様は気にした様子はない。

ガハハハ、と豪快に笑って俺の背中を叩きまくるーーーっていうか、痛えよ!

こんなキャラだったっけ?国王様……。

いつも台座に腰を下ろして憂鬱気に窓の外を見ている、センチメンタルな国王だったような……?

俺が目を白黒させているうちに、国王様は上機嫌に王座へと戻っていく。

国王様が後ろを向いた瞬間、護衛たち二人がキッと俺を睨みつけてきたがーーー


「何スカ?」


と、俺が睨み返すと、首が捻じ切れるのでは?と思うぐらい勢いよくグリンッ、と首を回すと、そそくさと国王様の後をついていった。

こんな感じで、国王様が俺に好意的な反応を示したために、俺は前ほどの差別を受けることはなくなった。

ボロボロの剣や服は変えられ、まぁまぁマシな服装と武器を装備できるようになった。

魔導師の授業も受講できるようにもなり、図書館もこそこそと使用する必要はなくなった。

必然的にマリルの個人授業もなくなるわけだが……。


「ま、マモル様は私の授業を優先しますよね?」

「……」


マリルの涙目には耐えきれず、なし崩し的に個人授業は続けていた。

というのも、魔導師の授業を聞いたときに、どう考えてもマリルの個人授業の方がわかりやすかったのだ。

だから、俺としてはマリルの言葉は俺としてもありがたい提案だった。

こうして、俺は約半年間、随分と暮らしやすくなった王城で順風満帆な生活を送りーーー


ーーーそして……。


「ヒュー……グアアアアアッ!!!」

「はぁはぁ……大きい声出すなよ……バカ竜が……」


絶体絶命とでも言うべき境地に至っていた。





「明日、ダンジョンに向かうぞ!」


御前試合以降から、何かと俺に怯えている騎士団長は、チラ、と俺に視線を向けながらも、一生懸命にクラスメイトたちに顔を向ける。


「ダンジョン、ですか……?」


このクラスの中心的人物である、比島賢治が尋ねる。

比島の反応に、騎士団長は待ってましたとばかりにダンジョンの説明をし始める。


「良いか?ダンジョンとはな……」


ダンジョンとは、強力な魔素(魔力のもと)溜まりであり、そこで強力な魔物を生み出すものらしい。

魔物とは、魔素を多く吸った生物のことである。

まぁ、ダンジョンに行かなくても魔物なんかには会うことができるんだけどな……。

しかし、魔物というのは、魔素という物を多量に吸引したお陰で通常の生物よりも何倍も強い。

具体的に言うならば、そこらの小型のリスの魔物でさえヒグマを上回る力を誇るといったところか。

そんな危険な生き物と遭遇するというのは、普通ならば不幸以外の何物でもないのだが……。

俺たち勇者からしたらまた状況が変わる。

それは、魔物を倒すことで生まれる強力な魔素の吸引ーーー俗に言うレベルアップという現象だ。


「魔物を倒したことのある人間とそうではない人間では、魔力量に雲泥の差が生じる!もちろん!熟練度にも相応の強化が見込まれる!」


そう言って、少し魔物という存在にビビっているクラスメイトたちに喝を入れる。

魔力量や熟練度の上昇は、何も魔物を倒さなければ得られないわけではない。

地道な修練を積んでも、何年かすれば多分できるようにはなるだろう。

しかし、王国が求めているのは、魔王と戦うための即戦力。

そんな十年も二十年もかけてチンタラチンタラとしているわけにはいかないのだ。

だからこそ、騎士団たちはクラスメイトたちへダンジョン入りを強く推薦している。


ーーーお前らも、力が欲しいだろう?、と。


力が得られる、と聞いて、クラスメイトの何人かが揺らぎそうになるものの、大抵は押し黙ってしまっている。

そりゃそうだ。

今まで一般的な学生として暮らしてきたのだ。

異世界に来て大分経つとしても、今まで日本で生きて体に染み付いた慣習というやつが、ダンジョン入りを強く否定する。

危ないことはしたくない、と。

騎士団のダンジョンに行かせたい、という気持ちとクラスメイトたちの行きたくない、という怯えがこの場を膠着状態にさせる。

そんな緊迫した状態の中、犀川が俺に話しかけてきた。


「東條くんはどうしたら良いと思う……?」

「……」


少し不安気に揺れた茶色い瞳で俺を見つめる。

いや、そんなのクラスの中心的人物である比島に聞けよ。

俺じゃあ、意見しても何にもならねェよ……。

というか、よくこんな雰囲気で話しかけられたな。

クラスの男子陣からの嫉妬の視線を受けながらも、俺は適当に答える。


「さぁな……。俺は頭悪いから何すれば良いかなんてわかんないけど……」

「けど……?」

「まぁ、アレじゃね?こんな魔物とかに臆する程度じゃ、魔王を相手にするなんて夢のまた夢なんじゃね……?」

「おぉ〜……!」


俺の適当な回答に、目を輝かせる犀川。

え?なに?

俺なんかすごいこと言った?

当たり前のことしか言ってないと思うんだけど……?

しかし、俺のそんな思いとは関係なく、クラスの雰囲気は幾分か明るくなる。


「そ、そうだよな……魔物程度でこれじゃあ……」「……そ、それな?」「うん、がんばる!」「よっしゃ!やってやろうぜ!」


クラス中でダンジョン入りが賛成され、比島も決意したような顔つきになる。


「……わかりました。今の僕たちがどのくらい強くなったかを知れる良い機会になるでしょうし……。行きましょう!ダンジョンへ!」

「よく、決断された!」


比島と騎士団長はガッシリと握手し、互いに頷き合うと、ダンジョン入りに向けての具体的なチーム編成へと乗り出した。





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