ある勇者の思い
私は勇者だった。もっと詳しくいうと勇者の1人だった。うん。自分で言うと恥ずかしいね。
そんな私が思うのもアレだけど、この世界に、この世界の女神に最も愛されていたのは彼だと思うわ。
――そんなことを、彼女は言った。
彼女の特性は祈跡。願ったものを、祈ったことを引き寄せる力をもつ勇者。
まさに勇者たる能力だった。
まあ、私はそのときまで私が一番世界に愛されてると思ってた。だけど、ちがったのよ。
――彼女の力は天文学的な確率の中でも引き当ててきた。しかし、だからこそ、彼女は自分のできることを有限だ、個人には限界があると思った。
あの子はまさに天恵を持って生まれた。いや、もしかしたら彼からしたら重すぎる愛だったのかもね。
だけどそれを持って生まれてきた。
――彼の能力はまさに世界を救う能力だった。一番近くにいて、特性が、特性の性質が似ていたからこそ気づいた。
私の力は、届くものにしか届かないのよ。確率が0より大きければ必ず届くけど、0には届かない。個人の手の広さ、領分には限界があるから必ず届かない場所って出来てしまうのよね。
――だからこそ、彼女はいつも知らないところで大切な人が死んで、大切なものを無くしてあとから気づく。目の前のもの全てを守れるからこその辛さだった。
私はね、本当に大切なものは手元に置かないと怖かったわ。だって、祈跡が届かない、意識の外のものにとって、私の能力はないものと一緒なんですから。
――そんな彼女が出会った少年。彼には不思議な力があった。
彼にあったのはある街を旅していた頃よ。彼は酒屋で働いていたわ。それなのになにか武術を習っているような足運びで気配に関しても隙がなかった。それでいて、世間話は達者でたくさんの町の人に話しかけられながら配達をしていたわ。そのちぐはぐさが気になって町の人から話しをきいたの。
――「あの子っていつも酒場で働いてるんですか?」
「あぁ、そうだよ。」
「他には何かしてるところを見たことないですか?」
「そういえばこの前、役職の人に連れてかれてたな。」
「なにをしたんですか?」
「はっはっ、何かをしたわけじゃないよ。見張りの仕方とか教えて貰ってたくらいさ。」
「なぜ、おしえてもらってたのですか?」
「いやー彼ねおもしろいんだ。教えたことなんかすぐに覚えちゃって。だからこっちが勝手に教えたりね。そうゆう所にもちゃんと付き合ってくれるのが彼なんだ。」
「へぇ、そうなんですか。なにか特性でもあるんですかね。」
「特性?たしか自分でもよくわからないやつだったと思うよ。」
「ふーん。」
その頃から彼の能力は高かった。
自分のように武に特化しているわけでもなく、知も高かった。まあ、バランスが良かったのかな。だけど、彼でも唯一できないことがあった。
――彼は特性を最大限に引き出す為の能力を一つも持っていなかった。それはこの世界に生きるものの中でも1%にすら満たない確率の人間だった。
だけどね、いまだからいえるわ。彼はそれで完成していたのだ、ってね。
そんな彼の英雄章。