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最強魔王様の日本グルメ  作者: 至高の飯はTKG
23/36

第二十三話 吸血鬼族の野望

お待たせいたしました!

とはいっても、やや短くて申し訳ないです……。

次回はもっと早く更新しますので、よろしくお願いいたします。

 魔界の遥か北方。

 昏い雪に埋もれ、魔界の中でも特に光の乏しいこの地に吸血鬼族の城はある。

 魔界で最も有力な種族とされる吸血鬼族が、百年近い歳月をかけて築き上げたこの巨岩の城は、吹き荒れる吹雪の中にあってなお重厚な存在感を放っていた。

 自然の岩山を思わせる外壁が高く聳え、そこからさらに数本の塔が伸び、鉛の空を滑らかに貫く。

 その鋭利で威圧的なフォルムは、吸血鬼という種族の持つ排他性を表しているかのようだ。


「して、会議の準備は?」


 城でも最も高い塔の、そのまた最上階に位置する大広間。

 じゅうたんが敷き詰められた広い空間に、吸血鬼族の重鎮たちが居並んでいる。

 その最も奥に据えられた玉座さながらの豪奢な椅子。

 そこに腰かけた族長が、眼前に控えた年若い吸血鬼に尋ねる。


「すべて整っております。抜かりはございません」

「そうか。だが、念には念を入れよ。万が一にも、我らが血族の恥となるようなことがあってはならぬ。特に『土産物』は、最高の物を準備しておけ」

「分かっております。既に、ホワイトドラゴンを一頭手配いたしました」

「おお、それは素晴らしい!」


 感心したように、瞳を広げる族長。

 ホワイトドラゴンは魔界の北方にのみ生息する龍腫で、その肉はあまりの美味しさと貴重性から『白い宝石』とまで呼ばれている。

 この地に長く住まう吸血鬼族の重鎮でも、めったにお目にかかれる代物ではなかった。

 静かだった大広間に、にわかにどよめきが広がる。


「良くぞ、手に入ったな!」

「はい、これには私どもも苦労いたしました。ホワイトドラゴンを見つけるだけで三か月、逃げ回る竜を狩るのに一か月かかりましたからな」

「褒美は後で存分に取らせよう。これだけの品を出せば、我が一族の株もさぞや上がることであろう」

「もちろんでございます。高慢な堕天使族や龍神族の連中も、我らの力に恐れをなすことでしょうな!」


 高笑いをする吸血鬼たち。

 やがてそれがひと段落したところで、端に立っていた男が思い出したように言う。


「そういえば、魔王は何をメインにするつもりなのだろうか? よもや、前回と同じドラゴン料理ではあるまいな?」

「まさか。二回続けて、同じ食材をメインにはしないだろう」

「だが、万が一ということもある。もし素材が被ったら、せっかくの土産物も霞んでしまうぞ」

「そのことなのだがな。既に手は回してある。まもなく――」


 族長がそう言ったところで、窓から一羽の蝙蝠が入ってきた。

 その足には矢文よろしく、手紙が巻き付けてある。

 すぐさま族長は蝙蝠へと手を伸ばすと、その足から手紙を取り、巻かれていたリボンをほどく。


「エヴァネルからの文だ。ふむ……ほう、これは面白い!」

「族長、文にはなんと?」

「どうやら、魔王はロクな食材を調達できておらぬらしい。やはり、所詮は剣の腕だけの若造よ。とうとうボロが出おったわ」


 膝を叩き、高笑いをする族長。

 それにつられるかのように、重鎮たちも次々に笑い声を漏らす。

 圧倒的な力に抑えられて普段は忠誠を誓っているが、その実、魔王のことを快く思っている者は少なかった。

 魔族の中でも血を尊ぶ傾向の強い吸血鬼族からしてみれば、魔王は「親の素性も知れぬぽっと出」でしかないのだ。


「これは素晴らしい好機ですぞ、族長様。ここで我らがホワイトドラゴンを見せつければ、他の種族の者たちも我らの力を見直すことでしょう!」

「かかかッ! 戦に敗れてはや五百年、ようやく我らにも運が向いてきたことよ。真に魔界の盟主にふさわしいのが何者か、教えてくれよう!」

「はッ!!」


 族長の命を受け、慌ただしく準備を始める一同。

 その中にあって、一人だけ渋い顔をしている者が居た。

 族長の息子にして、エヴァネルの父であるフォースト卿である。

 彼は怪しく目を光らせる族長の顔を見上げると、冷静な口調で言う。


「族長。あまり、魔王を侮らぬ方が良いかと」

「ふん、臆病者めが。あのような成り上がり者に恐れをなすのか?」

「そういうわけでは。しかし、魔王の力は本物です。我らでは勝てぬことぐらい、族長とてよくわかっておるでしょう? あまり刺激せぬ方が良いかと」

「何も正面切って戦をしようなどというわけではない。じわじわと、周辺の支持を我らの側に向けていくのが今回の作戦だ。そのために、『ちょっとした細工』も用意した」

「まさか、ホワイトドラゴンにあれを仕込むおつもりですか!?」


 顔を引きつらせるフォースト卿。

 もし、彼が思っている物を土産に仕込むというのであれば、それは間違いなく魔王への反逆だ。

 しかし、族長は笑いながら言う。


「案ずるな。細工は流々、ばれはせぬ」

「しかし」

「だいたいだな、元はといえば――」


 そういうと、族長は再び手紙を開いた。

 周囲の視線を気にしながら、彼はその文面をこっそりとフォーストに見せる。

 手紙にはたった一行だけ「魔王は異界食材を集めています。それ以外はないです」と記されていた。

 まったくと言っていいほど、やる気が感じられない。


「この間から、いつもこの調子だ。やる気が感じられぬ」

「……うーむ」

「大方、魔王に上手く飼いならされてしまったのであろうよ。吸血鬼族の姫ともあろうものが情けない」

「あのエヴァネルが、まさかこうなるとは……」


 フォーストは大きく肩をすくめる。

 まさか娘のエヴァネルがこのようなことになるとは、流石の彼も予想外であった。

 どちらかといえば、吸血鬼族の覇権を邪魔する目の上のたん瘤として、魔王を憎んですらいたのだ。

 それが「けーき」とやらを馳走になったと連絡をよこして以降、すっかり大人しくなってしまったのである。


「理由は良い。こうなった以上は、あやつを使って魔王を取り込むことは難しいであろう。策を弄してでも、支持を集めて魔王を引きずりおろすしか我らの道はないのだ。分かったな?」

「はい」

「よし、では準備を進めよう。明日の朝には出立するぞ! ははは、我らの手に栄光が戻る日も近い!」

 

 再び高笑いをする族長。

 その横顔を、フォーストは複雑な表情で見つめていたのだった――。


なろうコン最終選考を通過いたしました!

宝島社様からの刊行となります!

これも読者の皆さんのおかげです、ありがとうございます!

今後とも、応援よろしくお願いします!!


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