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003# 優秀な担任は生徒のことを大体知っている

 

 

 

 

 

「十で神童、十五で才人、二十歳過ぎれば只の人、なんて言う。曰く、子供の頃に特出して優秀だった人間ほど、大人になるにつれて凡人に混じっていく。

 貴様等より多少先に生まれて生きてきた身としては、まあ真理なのだろうと思いはするがね。

 その差は何かと言えば、一つは努力なんだろうさ。さっきも言ったがな。才能がある=その分野が好き、というわけでもないのだから、トップであり続けるためには努力が必要と。ま、人間によっては聞いているだけで覚えられるとか言う頭おかしいのも居ないわけじゃないが、これはごく一部だ。

 ただ、努力したからと言ってトップになれるという訳でもない。その微妙な差が何かと言えば、気質、性質、運、それら細かい部分などをひっくるめた『才能』なのだろうさ」


「……あの、先生、なんで僕呼び出されましたか?」


 個室、小会議室とでも言うべき手狭な部屋の中で、剛は居心地が悪そうに日名子を見ていた。

 担任たる彼女は職員室に入ってきた剛を見るや、すぐさま嗜虐的な笑みを浮かべ、職員室内のこの小部屋に誘導。困惑する彼に対して、唐突に話し始めた。しかも内容が要領を得ないと来ている。居心地悪いことこの上なかった。


 チェスのポーンを何度も机に打ちつけながら、日名子は焦るなと言うばかり。


「いきなり本題に入っても心臓に悪いだろうから、準備をしている訳だ。飛行機でいうところの滑走路を走ってる時かな。急な着地は全体にダメージを伴うから、当然の処置だ。

 また、ああいう態度で教室で接していた以上、少しは馴染まないと大変だと思ってな」

「なじむ?」

「ほら、私の態度は貴様等にとって怖いだろ?

 ……『生徒のこと貴様等とか言っちゃうヒトが何言ってんだ』か。まあ、間違っては居ないが認識も正しくないな。私は、校長だろうと教頭だろうと総理大臣だろうと、この態度で殺されない相手には常にこの田度だ」


 とんでもないという次元じゃない態度のデカさ。宣言されたそれに、剛は口があんぐり。

 既に口を開かずとも大体考えている事を読まれている、というのには反応を示さなくなってるが、それ以上に今の発言の威力は大きかった。


 大丈夫なのかこの人。


 どちらもどちらで失礼な考えであるが、お互い様だからか日名子はコメントをしなかった。


「基本、私は人生に妥協を積極的にするつもりはないからな。世の中、引かない方が楽なことも多い」

「……えっと」

「まだ喋りあぐねているようだが、まぁ良い。じゃあ、とっておきの爆弾を投下してやろうか?」


 生徒証を出せ、という日名子の言葉に、剛は胸ポケットから生徒手帳と、それに挟まれた学生証を出す。


「出しましたけど」

「じゃ、単刀直入に言うが――」




 ――貴様、能力を隠していないか?





 彼女の言葉に、剛は一瞬頬が引きつった。


「……隠す、とは?」

「ん? ああ、正確な言い方じゃないか。正しくは『自分が使用する能力について』『意図的に査定の際に上限を下方修正して伝えていないか』ということだ」


 再び引きつる剛の頬。

 にやにやと、日名子は目を細める。


「本来なら上手く隠し通せるのだろうが、生憎私がいたのが運の尽きだったな」

「……えっと」

「『先生が何を言ってるかわからない』とか『仮にそうでも証明にならない』とか『それの何が問題があるか』といったところか? ふん、まあ正直なのは嫌いじゃないが、もう少し捻れ」


 出足を挫くどころか全てに先回りされ、剛は思わず閉口した。


「特別に、クラスの中でも先んじて教えておいてやろう。私の特能について」


 彼女はそう言いながら、チェスの駒を彼に見せ付けた。


「私のそれは、ミニチュアキャッスル。ランクはBBBで、カテゴリーはシール系に属する」




――Skill:SLミニチュアキャッスル ランク:BBB




「大本の才能は単純で、情報分析、推理といった類のものが主になっている。私を中心とした周囲の一定距離間において、過去、現在に起こったこと、起こっていることを八割以上の精度で分析することが出来る」

「……それ、教師としてかなり最強な能力じゃないですか」


 思わず呟く剛だが、無理はない。


(授業中の余所見も防止、他のことを考えているのも先周り可能、内職だって一発でバレるし、悪口も言えないしいじめとかも一発で特定するし、何なんだこの人のそれはッ)

「まあ、あまり根を詰めても生徒の効率も下がるからな。基本は行わないようにしている。

 それに、過去探査についても日数経過で精度は落ちていくからな」

「ナチュラルに僕の思考と会話しないでくださいさいよ。でも、それって事実上――」

「まあ、読心術じみたことも可能だな。今のように」


 迂闊なことが出来ない、と剛は思わず一歩下がった。

 元々迂闊なことをするつもりもなかったが、それ以上に彼女の嗜虐的な笑みに、その態度を裏付けるだけの能力を提示されたのだ。怖がらない方がどうかしている。


 そして同時に、彼女の回りに見えた蝶。

 嗚呼、どうして彼女がこんな性格になったのかということを、剛は察する。

 そりゃ、こんなクレヤボヤンス的な能力があるのだ。何をしなくても周囲の思考は筒抜けならば、見たくもない思考や、人間関係なども手に取るように理解してしまったことだろう。自分以外全てを見下しても、おかしくないかもしれない。


「……何だそのナマイキな視線は」

「なんでもないです」

「貴様らの年代からそんな、小さい子供を見守るような生暖かい視線を送られる言われはないぞ。

 まあ、それはともかくだ。話を本題に戻そうか」


 入試の初日、つまりは二月十日についてだが、と彼女は言う。


「そこで発生した事故については、今更言うまでもないな。地方誌の一面にも取り上げられていたし、何せ貴様と安登は当事者だからな」

「はぁ……」

「で? そこで電柱に激突したトラックなんだが、どうも私の能力によれば、妙なことがあってだな。

 例えば、ハンドルの内側が変にひしゃげていて、まるでバットで殴られたように折れて、方向性が無理やり決定されていたようになっていたこととか、ブレーキペダルが内部に食い込むまで踏み込まれていたりとかな。まあこちらは、緊急時に目覚めて踏んだという可能性もなくはないが。

 でもだ。流石にこれに続いて、アクセルが最初から外れていたとか、突如ラップ音が鳴って運転手の目が覚めたとか、タイヤ全部の大体同じ箇所がパンクしてたとか、そんなことまで含めて偶然の一言で片付けられるほど、私は無神論者ではないのでな。必ず意図があると思った。

 で、別に唯神論者でもないのでな。強いて言うなら神秘主義者だが、懐疑的なのが前提にあるので、疑って掛るわけだ。とすると、あの場においてそれが可能な第三者は君しか居なかった、ということだ」

「……はぁ」


 胡乱な相槌を打つ剛に、彼女はふふんと笑う。


「貴様自身、気付かなかったのか? バタフライエフェクトがなんでエフェクト系にカテゴライズされているのかを。貴様が試験官に伝えた情報だけだったら、どう考えてもSLだろうに。

 答えとしては簡単だが、先駆者が居るんだよ。バタフライエフェクトにも」

「……居たんですか? こんな、人生に絶望させるような能力保持者」

「……そこまで自分の才能に絶望してるとは思わなかったが、まあ、居る。最近では一人は今、株式市場で遊んでいるし、一人はこの間処刑された」

「何やったんですかその人!?」

「ま何にしても、君の能力がどう発展していくのかということについては、おおよそ予想は付いてるということだ」


 別にこのことで咎めようという話じゃない、と日名子。


「自分の持てる将来への可能性に、絶望するのは勝手だがな。でも、それで自分の進路の幅を狭くするのは、勿体ないと思うぞ?」

「……仮に、そんなこと言ったら、どうだったって言うんですか?」

「んー? まず研究職とかには引っ張りダコだろうな。バタフライエフェクト自体、Sランクに次いで発現者は少ないからな。まあそれだけ捻くれた若者が減っているという意味では結構は話なんだろうが……。

 で、ちなみに何故隠した」

「……僕、公務員志望なんで」

「夢もキボーもないな。まあ、現実的と言えば現実的か」


 なまじ能力の方向性が貴様とは近いからわかるよ、と日名子。

 

 ちょっとのことで簡単に企業が破綻する可能性が分かる剛と、企業内での様々な思惑が手に取るように把握できるだろう日名子。どちらもどちらで、民間業種の普通は察知できないような脆弱さを過敏に感知してしまうことだろう。


「出来る限り平穏にしたいというか……」

「内心点上げたいとは思わないのか?」

「大学行く余裕もないんで」

「ん? 嗚呼、なるほど。家族に弟か妹か居て、そっちの方が根本的な頭の出来は良いと。だからそっちにお金を使ってやりたいから、自分は諦めると。全くどうしてそう、自分から自分の可能性を摘みに行くかねぇ」


 八割の制度というだけあって、彼に居るのが弟か妹かまでは特定しなかった日名子。そのことに妙な安心感を覚える剛を、彼女は半眼で睨んだ。


「能力の深度などについては、詳しくは聞かない。まあおそらくだが、君の能力のランクは本来、B上位からA相当のものなのだろう。で、それを前提に話を進めるが――」

「?」


 日名子は、さっきまでとは全く違う、にこにこ笑顔で彼の肩を叩いた。





「おめでとう、君の生徒会への配属が決定した」

「は?」




 言っておくが拒否権はなしだ、という言葉に、剛は再び顎あんぐり。

 入学式の時に聞いたとは思うが、と彼女は続ける。


「本校の生徒会は、六月以降の立候補に加え教職員からの推薦によって成り立つ。そしてこの四月の頭の時期で、生徒会に内定している生徒は一人しかいない。

 良かったな、先頭だぞ」

「えっと、あの――」

「言っておくが、行事の度に駆りだされることになるから目立つぞ。喜べ、学生時代に頑張ったこととして、いくらでも公務員試験の時のエピソードには困らんぞ」

「あの、ちょっと、何言ってるかわかんないです」


 困惑する剛だが、無理もない。


 ここ第三学園に限らず、研究所附属学園の生徒会は一般高校の生徒会と赴きや意味合いが異なる。入学式の際に配られたパンフレットによれば、生徒会の主な仕事は、学内の問題の「鎮圧」である。事務職としての生徒会の側面も普通にあるが、それ以上に物理的に、生徒達が起す問題を「粉砕」していくのが主な業務だった。


 そこに自分が駆りだされる意味が、剛はよくわかっていない。

 ぶっちゃけ、彼は自分の能力がレベルを上げて物理で殴る系統のそれでないことを理解していた。


「……ちなみに、推薦者は誰ですか」

「無論、私だ」


 やっぱり、と言わんばかりにため息を剛はついた。


「不満か?」

「二択で聞かれたら不満ですよ」

「まあ確かに、君の能力なら履歴書とかを書く以上に、特能使って受かりやすいものを書くくらいは造作もないだろうがね。だが、だったらなお更私は経験すべきだと思う」


 少なくとも、と彼女は続ける。


「今の生徒会副会長の能力の系統を、正しく引き継げるのは君だけだ。

 彼が居なければ生徒会長になっていたのは、間違いなく彼女、ソフィア・ウォーカーだったからな。彼女の能力は、管理的な側面からして君のバタフライエフェクトと相性は良い」

「……ソフィアって、あの、金髪の?」


 剛の脳裏に、何度も吐血する白い少年に付き添う少女の姿が思い浮かぶ。


「あの二人は、普段はセットで運用しないと会長の灰夜の方がロクに機能しないという欠点もあるからな。だがそこは問題じゃないのだよ」

「はぁ」

「重要なのは、だ。人間の可能性というのは、自分の世界に閉じこもったままでは増える事もない、ということだ」


 彼女の言葉に、剛の眉がぴくりと動く。


「能力、というよりは経験談だ。詳しくは黒歴史なのでノーコメントだが」


 何があった、という剛の視線を受けても、咳払い一つで彼女は流した。


「まあともかくだ。実際に戦闘をしろとまでは言わないさ。サポートや事務処理などでも活躍の場はある、ということだ。

 受けるか?」

「拒否権はないって言いませんでした?」

「本当ならそう言いたいが、残念ながらここは民主主義の国家なんだよ。良い事だとは思うがな」


 どうする? という日名子の視線を受けて、剛はしばらく自分の上の方を見る。

 集ってく青い蝶。その二つは、大きさや動きにさして違いがあるわけでもない。つまり彼からして、どちらを選んでも大差のない未来を示していた。


 だったらば、と剛は楽な方を選択する。


「……とりあえず、やらない方向で」

「……ふん、ヘタレめ。

 まあ、一応保留としておこう。貴様の気が変わらないとも限らないからな」


 日名子は忌々しそうにそれだけ言って、チェスの駒を胸ポケットにしまった。

 話はそれだけですか? と確認する剛に「私からはな」と日名子は言った。


「じゃあ、終わりってことですよね。僕、質問もないですし。

 それでは、失礼しま――ふおッ」


 そして、扉を開けた瞬間。

 彼の目の前に、大量の桃色の蝶が、押し寄せる。


 いや、蝶ではない。ありとあらゆる蝶を纏ったシルエットが押し寄せてきた、というべきか――そしてその対象は、剛もよく知る、というか中学時代で何度か顔を合わせていた人間だった。


「ああ。私から()、とりあえず話はない」


 日名子の言葉に、剛の目の前で彼女は――何故かメイド服を着用した、藍場 澪は深々と頭を下げた。



「本日付けで貴方様の身の回りのお世話をさせていただくことになりました。

 どうぞ、よろしくお願い致します」



 突如として現れた彼女のそんな言葉に、剛は本日何度目かの、開いた口が塞がらないという反応を示した。

 

 

 

 

 

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