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プロローグ2

 

 

 

 

 

 特殊才能。俗に特能と略される。

 大戦後の世界各国が、こぞって議論したテーマであった。


 曰く、大量破壊兵器を生み出す頭脳。

 曰く、世界の真理に迫る亜光速の計算。

 曰く、長距離という概念を軽々超える距離で狙撃を成功させる技量。

 曰く、飛んでくる球を必ず高く打ち上げる技量。

 曰く、人の心を掴み鼓舞し、時にまた逆も可能とする万人への歌声。


 挙げれば切りがないほどに、人類は気付き始めていた。自分達の中で、今、新たな進化が起ころうとしていることを。これらの「突然変異」としか常人には思えない才能を前に、連合国、超大国は一つの結論を下した。


 才ある人間を隔離し、この領域まで育て上げることに力を注ごうと。

 早いうちから囲い、教育し、未来の国家のために育て上げようと。


 火と国土を争う時代が一つの終局を向かえ、硝煙や機関銃がカネや権力と入れ替わりはじめた時代。国同士の信仰する主義主張はともかくとして、全体にこの動きが始まったことは間違いない。


 総司令部により国家基盤の作り直しを行われた日本においても、それは例外ではなかった。

 もっとも時の首相が「バカヤロー」と解散を迫られたタイミングも重なり、周辺国家よりも幾分遅れが出た事は否めない。

 否めないが、日本はこの戦略によってある程度の成功を収めた。


 経済的にも文化的にも復興し、経済力は現在上位三つに名を連ねてはいないものの。国の発展を特殊才能抜きに考えられないくらいには、政府はこの分野を甘くは見ていなかった。


 それは現在も続いており、特殊才能の研究機関と、それに附属する教育機関は全国に二十を数える。

 決して少ないわけではない。むしろ周辺国家と比べて多い方だ。


 経済的な理由や、人材不足的な理由もあっての二十箇所、二十校。

 二宮剛は、そんな教育機関の一つの入り口に蛇のごとく並ぶ列の中に居た。


 特能第三研究所附属学園。

 名前の通り、日本の中では三番目に古い特殊才能の教育機関である。

 校舎は古い大学のキャンパスと、最新鋭のビル群がフュージョンしたような形態。大木のような、と形容するのが正しいかどうか。上部はガラス張りのような膨らんだ形状をしており、支柱が地面やビルに立てられていた。高層タワーを逆にして、地面に付き立てたらこんな感じだろう。そのくせ青空にその妙な形状の建物は溶け込んでおり、デザイナーのセンスが光る。

 その上である。


「バランス悪くないのか……、解せぬ」


 その建物をぼんやりと眺めながら、いつものように「蝶」を観察する剛。

 紺色のブレザー制服は、彼の中学校のもの。元気な子供が着ればフレッシュな印象を与えるだろうそれも、整える気のない格好ゆえに絶望的に似合ってなかった。


 ぼさぼさの髪を適当に撫でながら、彼は建物にまとわりつく蝶を見守る。


 一見してかなり不安定そうな建物に見えるのだが、どうしてか不思議と安定している。おまけに地震が起きた際に出現する「蝶」さえ見えないのだから、彼からしたら理解不能だ。


「まさか、あのデザインも特能か?」

「確かに変な形してるよなー」


 あくまで独り言だったのだが、誰かが応じたらしい。剛は背後を振り返り、声の主を確認した。


 十数匹の蝶が舞う。


 まず目に付くのは、金髪。明るい髪の色に反して肌は浅黒く、ピアスなどはしていなかったがシャツは出してズボンはダボダボ。おまけにチェーンがベルトから出ており、有体に言えばチャラけていた。


 服装を上下一瞥して、一瞬頬を引きつらせたものの、剛は彼と話をすることにした。端的に言って暇だったのだ。相手は剛の視線を気にせず、彼の言葉に笑って返す。


「ま、普通のデザイナーはやりたがらないよな。あんな妙ちきりんなもの」

「だよな。つか、言い回し古いな、何か……。俺、風見かざみ 明良あきら。ヨロシク!」


 サムズアップに笑顔の明良。剛は目を半眼にし、わずかに口を開ける。ちょっと間の抜けた表情に、明良は「どした?」と疑問を返す。


「……受かるかどうかも分かんないのに、名前言う必要あるのかな」

「無愛想だなー! さてはお前、ボッチボーイだったなー?」

「何だいボッチボーイって。意味わかるけど、テンションがわかんない」

「硬い事言うなって。ま、運よく入れたらヨロシクってことで。

 ちなみにユーは何してここ受験?」

「そっくりそのまま返すけど」

「俺? 俺はまぁ……、あれだ、去年文化祭に来た時、女の子が可愛かったから」


 随分不純な動機だな、と剛は更に半眼。言葉にはしてないので、明良は気付かず話を続ける。


「考えてもみてくれよ。特能ってさ、やっぱり才能なわけじゃん? ってことは小さい頃から特出していたヤツとか、あるいは才能を伸ばせるような家庭のヤツが多いわけじゃん。

 そういうのと友達になったり、お近づきになったりするのって、絶対プラスになんじゃん!」

「そう言われれば、確かにそうかな」


 今度は逆に、意外なものを見るような目をする剛。

 明良の言った通り、特能が魔法じみていても、大本はあくまで才能でしかない。つまり才能が特出しているスーパーマン、スポーツでいうエースやスタープレイヤーの場合が一つ。もう一つは、わずかなりともあった才能を「経済力」など別な要素を用いて、入学前まで伸ばしている場合だ。


 友達になる。仲良くなる。

 あわよくば恋愛関係、という明良の言葉は、打算的に考えれば将来的には良いコネ作りであるとも言い替える。


 剛ほど捻くれてないこともあってか、明良のそれは言葉足らずであるが。

 不純なことに違いはないものの、思ったよりは考えていたことに、彼は素直に関心した。


「じゃあ、そっちは?」

「んー、二つ、三つかな。まず家からかなり近い、自転車で来れる距離」

「地元?」

「隣町。駅大きい」


 うらやましー、と明良の反応に、少しだけ剛は笑った。


「俺、県二つ跨ぐから受かっても寮なんだよなぁ……」

「左様で。で次に学費だね。能力のランク付けとか、成績で特待生とかもあるけど、それ以前の問題としてここって公立じゃん。私立よりは安い」

「まあな」

「加えて倍率も、全国の研究所附属の学校でも倍率は低め、と。それでも300パー超えてるけどさ。

 でも記念受験的に受けたって、罰は当るまいって感じ」

「はぁ~ん」

「ま、公立以外受けるつもりないんだけど」

「なんで?」

「妹いるから」


 剛は肩を竦める。その場のノリで家庭の事情も話してしまうのは、どうしたことか。朝九時半を回っても全く進まない行列に痺れを切らし、本格的に話しこもうとしてるのか。


「僕よりぶっちゃけると、妹の方が成績良いしね。良い大学とか出すためには、兄妹二人でだと家計的に優しくないじゃん。ま受からなきゃそもそもアレなんだけど」

「へぇ……。良い兄さんだな」

「そうでもないよ。しかし行列、全く動かないね」

「んー? どうしてだろ」


 言いながら、スマホを取り出してなにやら弄る彼。剛も自分のポケットから取り出すものの、ガラケーどころか通話機能のみがあるタイプのシンプルな携帯電話だった。

 画面から顔を上げた明良に「生きた化石か!?」とちょっと失礼なことを言われるものの、肩を竦めてそれを流す。


「何見てたんだい」

「公式サイト。学校のヤツ。何かお知らせとか来てるかって思ってさ。

 これこれ。まだ情報入ってない感じ――」


 明良が剛に画面を見せた瞬間、入り口に設置されたスピーカーが鳴り響く。誘導員のアルバイトたちもびくり、と身体を震わせた。


『――ええ、只今東中神で発生した事故が原因で、電車に遅れが出ており、試験官の到着が遅れて居ます。受験者の皆様、今しばらくお待ち下さい。繰り返します――』


「……そういえば、実技試験だっけ」

「そ! 面接もなし。ペーパーテストも才能によってはなし。

 あるのは只、才能一つ。少年少女よ、結果で示せ!」

「それ、文化祭のキャッチコピー?」

「そそ。ユーも来てたのか?」

「……えっと、二宮 剛だよ。二宮でおっけい」

「お! じゃあ、二宮氏も来てたのか? 文化祭」

「来てないけど、なんとなくね」


 彼の視界の端で踊る桃色の蝶の背に、その答えがちゃっかり載っている。誘導尋問的に剛があてずっぽうを言った瞬間、色が青から変化して、文字が浮かび上がったのだった。

 もっとも剛以外には見えないものなので、大した問題ではない。少なくとも本人はそう考えているのか、ため息こそつくがそれ以上、話を広げはしなかった。


「時に二宮氏、ユーはどんな才能?」

「まずそっちから言えばいいんじゃない?」

「さっき俺から言ったじゃん」

「……んまあ、何だろう。予測? みたいなものかな」


 視界に映る多くの蝶を一瞥して、彼は多少考えてから言った。


「てこの原理ってわかる?」

「支点、力点、作用点、だったっけ?」

「そう。力をかける箇所、その力を支えて仲介する箇所、結果として作用する箇所。そういったものが、僕は他の人よりも『自覚的に』多くとらえることが出来るんだ。明日の天気がどうかなーとか、精度は内容によってまちまちなんだけど」

「……二宮氏、台詞長くて何いってるかわかんない」

「え? あ、うんそうだね。

 試しに実験だ。ジャンケンしてみようか」

「お? 何なに、じゃんけんじゃ負けなしって感じかー?」


 試すような、からかう様な、軽いテンションの明良に。


「そのまさかだよ」


 十本勝負をして、一回も負けなしの剛。

 間を置かずに連続でやって、一回も勝てなかった事実に明良は目をひん剥いた。


「……わっつ?」

「まあ、こんな感じ。色々理由とかも、説明できなくはないんだけど、予想する力が高い、みたいな感じ」

「よ、預言者?」

「君、それ僕の妹と同じこと言ってるから。……逆にそっちは?」

「お、俺? 俺は、えーっと、アレだ。

 サッカー」

「?」

「キーパーで、うちの中学で負けなし」


 剛のそれとは違い、非常に分かりやすい才能だった。


 







プロローグは次回で終了予定

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