プロローグ1
15話予定だったんですがとても終わらなさそうなので、適当なくらいに投稿していきます。
明るいの書きたいな! という感じですので、どうぞよろしくお願いします。
自分の人生において、自身が世界の主役じゃないと気付くのは、色々なタイミングがある。
自分がいなくても世界は回っている。当たり前の事実なのだけれど、子供の時はこれを理解するのに時間がかかるのだ。
だからこそ、そういう意味で二宮 剛は特出していたのかもしれない。
「……少ないな」
生まれはサラリーマンと専業主婦を両親に持つ一般家庭。今時珍しいくらい安定した稼ぎの父親と、今時珍しいくらい古風な母親に育てられた。そのくらいなら、まだちょっと変わっているというくらいだろう。
だが、彼はある種の才能があった。
「……ホームラン」
彼が言った数秒後、テレビ画面のプロ野球選手の投球がバットに激突。と同時に、それまでの運動エネルギーを全て前方と上方に転換して放出。瞬く間に場外へと導かれた剛速球に、会場が湧いた。
剛の言葉に、一緒にビールを飲んでいた父親は「お、今日も剛の勘は当るなー!」と赤ら顔で笑った。
父親は酔っているから、あまり気付いて居ない。
兄の横でゲームをしている妹は、いつものことながら引きつった笑みを浮かべていた。
剛は、投手が球を投げる瞬間に予想を言う。
そしてその予想は、さっきから十連続で正解を繰り返していた。
「お兄ちゃん、預言者?」
妹の言葉に、兄は興味なさそうに応じる。
「予測だよ。っていうか、何となくわかんない?」
「わかんないって。お兄ちゃんおかしいから。逆になんで予測できるわけ?」
「……なんとなく」
妹は知っている。兄は昔からこうだった。
例えば小さい頃、突然仮病で小学校を休むと言い出して両親を困らせたりしたものの、その日の午後は台風のせいで父親の職場が被害を蒙っていたりしたため、彼は結局学校に行った物の父は奇跡的に一切被害を子村なかったりした。
例えばつい最近も、学校帰りに一緒にマ○クに寄ろうと誘った時、今日はたぶんすごいから止めた方が良いと忠告したり。ちなみにその日は父親の昇進祝いということで、全員で回らないお寿司を食べに行った日で、兄のその忠告には感謝していた。
ともあれ、剛はこうして妙に勘が鋭いというか。
もはや一種の才能だと妹は思っている。
だが、剛本人は自分のその才能のようなものに、絶望感も抱いていた。
「……はぁ」
夕食後に洗面台で顔を洗い、歯磨き。
映る姿は、ぼんやりとした少年が一人。半眼で目つきが悪く、ぼさぼさの頭は手入れするつもりを欠片も感じさせない。髪を染めているわけでもなく、気が抜けている、というのが印象だろうか。
そんな自分自身を見ながら、剛は何度もため息を付いていた。
「…………所詮、こんなもんだよなぁ」
剛には、人に隠している秘密がある。
いや、秘密というよりは自身の才能について、詳しく語っていないというだけのことなのだが。
すなわち――第三者が見た世界と、彼本人が見た世界とでは、その在り様が大きく違うということを。
例えば、彼の周囲を漂う「青い蝶」と「桃色の蝶」。
光り輝く輪郭は、とてもこの世のものとは思えないだろう。
五、六ほどのそれらのペアを見て、彼はやはりため息を付く。
一通り歯も磨き、顔も洗い、風呂にも入って上がった彼は、ソファで転寝する父親を見る。
数匹の桃色の蝶が集るのを見て、彼は毛布を父親の身体に掛けた。
掛けた瞬間、桃色の蝶が一匹を残して散る。
「これで風邪は引かないな。……はぁ」
音量の下げられたテレビ画面を見て、彼は更に表情を険しくする。
眉間に皺を寄せて、再び彼は自分の体を見下ろす。
「……はぁ」
何度見ても、彼の身体にまとわりつく蝶は、五匹前後でしかなかった。
「こーゆー才能は、要らなかったよな」
周囲に眠っている父親以外、誰も居ないことを剛は一度確認する。
何事か意識をすると、彼の顔周りに青の蝶が数匹集ってくる。そのうちの一匹をタッチすると、桃色に変化して冷蔵庫へ向かう。
そして冷蔵庫に激突すると、ぱたん、と不自然に扉が開いた。
「麦茶麦茶……」
もう一匹タッチすると、今度はがたん、と冷蔵庫の奥で何かのペットボトルがゆれる。揺れただけだが、彼の目的としては無問題。テーブルに置いてあるマイカップを手に取り、奥で揺れたペットボトルを取って、その中身の、麦茶を注いだ。
「出来てもせいぜい、この程度だしなー」
麦茶を飲むと、集ってきていた蝶がどこかへと飛び去る。
彼の周りに、常に要る蝶は片手間に数えられる程度。
「世界は蝶で、溢れてる」
一度目を閉じて、ゆっくりと開ける剛。
視界には、所狭しと青と桃色の蝶。
「――だけど、僕の蝶はこの程度しかない」
一度自分を見下ろした後、テレビ画面を見る。
深夜近くのバラエティ番組ゆえ、日中よりも多少毒がある企画が多いそれら。映る芸能人たちの姿も、彼には複数の蝶が集っているのが見えていた。
その数は、とてもじゃないが両手で数えられないほど。少ない人間でも二十は超えて居るだろう。多ければ数え切れないが、ひょっとしたら百を超えているかもしれない。
それを見て、剛はやはりため息。
「……羨ましいな、ああいう『主人公』ってのは」
その言葉は、どこか小さな子供が拗ねたような、そんな響を持っていた。
なお、プロローグの時点では全然話が動かないです