真の敵は
魔物たちの血で汚れきった室内で、俺はメーが死に際に放った言葉を思い出していた。
――あなたはもう死んだのよ。この部屋は元の世界と切り離されている。ここで何もできずに飢えて死んでいくの。
アーイェが拐われたことで俺の頭は真っ白だったが、まずはメーの言葉の真意を確かめることにした。
この部屋に来るために使った階段に続く扉は、意外にもスンナリと開いた。
だが、その先には闇の空間に終わりのない階段が続いているだけだった。
メーの言うとおり、俺はこの閉鎖された次元に閉じ込められたらしい。
これが魔法によるものだとしたらとんでもないものだ。
フロレンシアはアーイェを魔法教会に連れて行くと言った。
俺を置いて。
そして、その直後に俺はメーに襲われた。
これをどう捉えればいい?
俺はどうやら、ハメられたらしい。
だがその理由も目的もわからない。
魔法教会が俺を殺そうとした?
なぜだ。
まさか、三属性混合の存在を危惧しての抹殺なのか?
だとしたらなぜ英雄たちを殺さない。
こんな大掛かりな魔法が使えたなら、英雄たちを殺せるはず。
幸いにも、次元を隔絶するというたまたま俺のチートと似たような性質の魔法だったから、俺は対処することができるが。
この質の魔法は英雄たちには回避出来ないだろう。
リーゼロッテの魔法もフロレンシアの超能力も、これに対応できるものなら過去の苦戦などなかったはず。
バルバドに至っては況やだ。
今、実質的に世界を支配しているのは三英雄だ。
彼らが居るからこそ戦争は止まっている。
俺が相手をしているのは、誰なんだ。
とにかく、魔法教会に行くしかないか。
俺はチートにより元世界と切り離されたこの部屋をつなぎ直し、外へ出た。
図書館の外は何も変化はなかった。
平和な街。
異変が起こっているのは、一部だけ。
とにかく魔法教会へは急ぐ。
だが、できるだけそれは相手側に悟られたくない。
レイシアが現在住処を置いているのも魔法教会だ。
人質にされると、厄介なことになりかねない。
まず優先すべきは隠密でのアーイェ奪還だな。
幸いにもフロレンシアが魔法教会という言葉を残してくれた。
……なぜ、そんなヒントをくれたんだろう。
まあいい。
とにかく急がないと。
アーイェの命も無事とはいえない。
今いるコルティス公国から魔法教会本部まではかなりの距離があるらしい。
しかも、本部がどこにあるのか、どういうルートで行けば良いのかも全くわからなかった。
だが、俺があらゆるチートを総動員すれば数十分でたどり着ける。
各地で魔法教会とは無関係そうな人間に地理を訪ねながら、俺は魔法教会本部にたどり着いた。
本部を見るのが初めてだった俺はその異様な光景に言葉を失った。
森の中に、巨大な箱がいくつも浮遊している。
それは真っ黒な正方形だったり、ビルのようだったり、船のようだったりした。
これのどこを探せばいいのか。
どうやって入ればいいのかもわからない。
入り口らしいものはなく、窓ははめ込み式で開けることができなかった。
その付近でしばらく待っていたが、人の出入りがまったくなかった。
これはどう考えても、テレポートでしか入れないということだ。
俺のチートは壁を透過することはできない。
特殊な魔法に関しては全くの無知だし、正式な手順を踏んで入ることができたとしても俺が侵入したことがバレてしまう。
これは参ったな。
自分一人だけではどうにもならないかもしれない。
こういうとき、自分の頭が弱いことを恨むよ。
誰かにアドバイスでも求めるかな。
んー。
あっ、そうだ。
あいつなら、魔法教会のことを詳しく知ってるかもしれない。




