最初の悪性を見つけた
父親であるスヴェルグを説得するため、俺が見せたのは三つ。
一つは浮遊すること。
一つは皿を叩きつけても割れないこと。
一つは遠くの物を操作できること。
これを見てスヴェルグが出した結論は“三属性混合”であるということだった。
代々氷属性の血を濃く受け継ぐクリファード家であるが、重力や物質の硬度を操るのは地属性魔法使いが得意とする分野だからだ。
氷属性は水と風の二属性混合、それに地属性が加わったもの。
さしずめ嵐属性とでも名付けるべきだろうか。
魔法適性は属性ごとに反応を検査する必要がある。
本来はデュアルでもその二系統の適性が高めに出るものだが、三種の場合は反転してより特化型になるという話に落ち着いた。
もちろんこんなものこじつけだ。
なにせ前例がない。
前例がないせいで、俺がトリプルであるということは誰も信じなかった。
適性検査を請け負っている魔法教会ですら、父スヴェルグの話を聞いて渋い顔をしていた。
俺にとってはどうでもいいけどね。
どうにか捨てられることはなくなったし。
お父様はいまだに荒れ気味であられますが。
俺には当たってこないのでノープロブレムだ。
ともかく俺は、世界的にも権威のあるオスマルド魔法学校にいけるようになった。
「アデル。学校行くよ」
黒髪ロングの麗しいお姉様が俺を呼ぶ。
今行きます。
すぐに行きますとも。
「忘れ物はない? 歯は磨いた? 清潔にしないと女の子に嫌われちゃうよ。制服は……ちょっと大きめだね。でもアデルなら、すぐに大きくなるよ」
レイシアは世話焼きだ。
典型的な良き姉である。
発育の良いレイシアと違って俺は細身だからな。
ほんとに色々とレイシアに持っていかれたようだ。
「昨日の晩に姉さんが用意してくれたから。きっと問題ないよ」
姉のことは対外的には対内的にも姉さん。
歳は12だが見た目は16ぐらいだ。
ん~なんというグラマーボディ。
大人になったら呼び捨てしたい。
「もう。あんまりお姉ちゃんに頼りっぱなしじゃダメだよ?」
なんて言いながら、レイシアはニヤけている。
ありがたいことにこのボインのチャンネーはブラコンなのだ。
「じゃあ明日から全部自分で準備するよ」
「なっ……!?」
途端に切り替わるレイシアの表情。
それこそ、絶望の淵を覗いたような悲壮感が漂っている。
「そ、そんな急に背伸びしなくても! ほら、だから、次からは一緒に準備をする、とか。制服のボタンは自分でしめる、とか。ね?」
「わかった。じゃあそうするよ」
「うん。偉いぞアデル。お姉ちゃん嬉しいな」
扱いやすい。
学校までの移動手段は馬車。
なんてシンデレラチックなものじゃなくて。
車である。
魔力を動力源にしているらしいが詳しいことは知らない。
運転手のバーバラさんに挨拶。
かなり歳のいったおばあさんだが、昔はプロとしてスピード競技をやっていたらしいかなりのやり手だ。
石造りを基調とした街を抜け、街道を進み、いざ学校へ。
魔法学校は5年で卒業できる。
だいたい入学した30%の生徒が5年で卒業する。
平均で6.5年。
大部分が卒業試験で落ちるらしい。
ほぼ義務教育なのに厳しすぎ!
昇級試験が毎年行われ、落ちたら即留年(学校次第では補講で済ませる場合もあるらしい。オスマルドは当然不可)。
合格すれば学年を上がることができ、5年を卒業すると進学するか社会人として商会や鍛冶師などに就職活動ができるようになる。
どの魔法学校も青少年の発育を支える健全なる学び舎だとか謳ってるらしいが、実際は人格形成などは各々の家庭でやってください学校は技術と知識だけ教えますといったスタンスになっている。
早い話が実力主義だ。
では、魔法が使えない人間は世界からゴミとみなされるのか?
実のところそうでもない。
もちろん、この世界は魔法力の強さがそのままステータスであり、差別意識というものはどうしたって存在する。
だが魔法学校と名されてはいるものの、カリキュラムは魔法科、技術科、研究科の三つに分かれていて、このうちどのコースを選んでも立派な資格をとることができる。
で、俺はどれを選ぶか。
むろん魔法科である。
俺がただ体や魔法が強いだけの人間だったら、技術科や研究科を選んでいた。
だが俺のチートはそんなちゃちなもんじゃあない。
特に力さえあれば偉いのが魔法科でもある。
無双してクラスの女の子たちとキャッキャウフフするのが当面の目標だ。
「それじゃ。帰りもここでね」
学校についた。
いくつも塔がそびえ立っているそこはまさしくホぐわーやめ(ry。
レイシアはウインクを飛ばして教室に向かった。
まったく美人な姉は最高だぜ。
「さて」
教室は一学年のアイスクリフか。
どうやらクラスの名前は、ファイアイースとか、タクトノットとか、属性に偉人の名前を足してもじったものが使用されているらしい。
氷属性で有名なクリフォード家の俺がアイスクリフに配属されているが、別に適性と配属は関係がないようだ。
そもそも、俺は氷属性の適性ないしな。
ひとクラスの生徒は100人ほど。
先生も大変だろうな。
廊下をすれ違うと生徒たちは、もう仲良し組になっているところもあった。
まずい。
交友はスピードが命だ。
遅れを取るわけにはいかない。
教室に入ると、木造の椅子と机が大量に置かれていた。
ちらほらと生徒たちの姿が見える。
女の子女の子……。
うん。
そういえばレイシアを相手してたせいで忘れてた。
8歳だった俺!
子供しかいないよ!
でも家の事情とかで入学する歳はバラバラだからな。
10歳かそこらの女の子なら……いる……いた!
ススススス――――。
俺はさり気なく近寄った。
一人だけ体格の違う女の子。
レイシアほどじゃないが発育がよろしい。
髪を真っ直ぐに伸ばした赤毛の少女だ。
炎属性使いかな?
「ここ、いいかな?」
俺は少女に尋ねる。
すると返ってきたのは、無言だった。
つまりなにも返ってこなかった!
「あの」
「勝手にすれば」
非常にツンケンした少女だった。
なんでこんなにムスッとしてるんだろう。
入学式だってのに友達作る気ないのかな。
しかし、一度座ってしまったからには離れるのもな……。
気まずい。
どう話を展開しよう。
「フィオネ」
ん?
「フィオネ・ブラスネイル」
なにやら赤毛の少女が口にしている。
自己紹介というやつだろうか。
顔の向きが明らかに俺と90度違えているが。
まれにみるぶっきらぼうさだ。
「俺はアデル。アデル・クリフォード」
「クリフォード?」
俺が名前を述べると、フィオネはようやくこっちを見た。
勢いに乗って握手を求めてみる。
「そう。あんたが」
しかし無視されてしまった。
いきなり馴れ馴れしすぎたかな。
にしたってなんだ。
知ってるのか俺のこと。
まあクリフォードは名家らしいからな。
「よろしくな」
「ええ。よろしく」
無愛想だが知り合いはできた。
問題はこの子が他の誰かと繋がってないかどうかだな。
もし女の子の知り合いでもいたら、ペアをつくるとき間違いなく男の俺は1人だけ取り残される。
もっと知り合いを作っておくか。
でも、なんかあれだな。
ガキばっかりだとこっちから行くのが億劫になる。
んーどうしよう。
「みなさん。おはようございます」
俺が迷っているうちに教員が来てしまった。
どうでもいいか。
ペアを作るときになったらそのときまた考えよう。
生徒が全員集まると、入学式場へ連れて行かれる。
途中フィオネと会話を交えたが、文字数にして十数文字程度しか言葉が帰ってこなかった。
焦るな。
焦るな俺。
入学式を終えると第一回目のホームルームが始まる。
魔法科といえど勉強は必要なのでテキストを数冊。
それと分厚い参考書を二冊を配られ、本格的に学校が始動した。
まず最初にやるのは自己紹介である。
社会人になってもどこでもやるものだからな。
ここはハズさずきっちり人気を抑えておきたい。
「アデル・クリフォードくん」
さっそく俺か。
どうやら名前順みたいだな。
ま、俺がお手本を示してやるか。
「アデル――――」
「おい! あれが噂に聞くクリフォードだぜ!」
俺が話を始めようとした瞬間、それを遮る輩がいた。
金髪オールバックの偉そうなガキだった。
んだよ有名なのはもうわかってるから。
子供ってのは落ち着きがないから好きになれん。
「マジで来たぜおまえら! “能無し”だ!」
は?
「うわ。話には聞いてたけど……」
「魔法使えないのに戦士科ってどういうことかしら」
え、なにこれ。
魔法適性検査の結果って秘匿されてるんじゃないの?
「僕を知っているか? あのクロモルト家の長男、エッジ・クロモルトさ!」
いや、知らん。
「僕のパパは魔法教会で2番目に偉くてね。それで仕事中に小耳に挟んだらしいんだけど。今年のクリフォード家は、史上最も魔法適性が低いおちこぼれのダメ魔法士なんだって! 君、入る教室間違えてるんじゃないの?」
俺の目の前にやってきたエッジが指さしながら高笑いする。
少年って言っても俺と背丈は変わらないんだけど。
ああ、そういうやつか。
いつの世の中にも上にいる人間を僻むやつってのがいるもんだな。
いいだろう。
誇るがいい。
お前を名誉あるチート被害者第一号にしてやる。