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英雄共闘


 静かになった中庭。

 戦闘が終わるとミーニャが駆け寄ってきた。


「アデル様。さきほどの力はいったい……」

三属性混合(トリプル)の特性だよ」


 俺はミーニャにこう告げた。


 魔法適性が全くない俺が三属性の魔法を使えること。

 その逆の考えとして、魔法を使える俺に魔法適性が確認できなかったこと。

 この2つの視点から見つけた三属性混合の特性。

 すなわち、魔法力の打ち消し。

 そして俺の持ち前の戦闘能力の高さを併せ持って、今回は相性のいい敵を倒すことができたと。


 もちろん嘘。

 かなり無理矢理ではあるが、ミーニャにとっても目の前で起こってしまったことがことなので、そんな無理矢理な理論でも信じざるをえないだろう。


「これから、どうなさいますか? 魔王がどうという話でしたが。まさかあのお伽話が現実になってしまったのでしょうか」


 不安そうな顔で俺を見つめるミーニャ。

 俺にとっちゃこの世界自体がお伽話みたいなものだからな。

 今更驚くことでもない。


「お伽話が現実になったのかはともかく。少なくともそういった話をなぞらえた集団が暴れているのは事実だ。居場所のわかっている魔王のところに行くのが一番なんだろうけど、おそらく活動しているのは四天魔だけだ。できればそっちを優先したい」

「そうですか。やはり、魔法教会に頼んで情報をいただくしか……」


 騒ぎが起こっているなら感知はされているはず。

 ここはネットワークの広さが重要だ。


 そんなことを考えているときだった。


「やはり。有罪ギルティ


 上空から降ってきた声に、俺は顔を上げる。


 クルクルと回る日傘。

 風にたなびく金色の髪。

 あの横にピンと伸びた耳は、エルフのものだ。


 間違いない。

 三英雄の一人、リーゼロッテだ。


「あなたが行く必要はなくてよ」


 ゆっくりと地上に降りてくるリーゼロッテ。

 そしてその腕には、世界的美女として名高いリーゼロッテの美しい白い肌すらもくすませてしまうほどの美少女が収まっていた。


「姉さん!?」


 なんでレイシアが。


「アデル! よかった。やっぱり無事だったんだね」


 そんな美少女が俺にギュッと抱きついてきた。

 外でこういうことされたことなかったから恥ずかしい。


 さりげなく抵抗するように、もういいかな的な雰囲気で離れるように力を入れてみるのだが、レイシアは頑なに俺を抱きしめて放さない。

 そういえばそもそもレイシアにこうやって抱きつかれたこともなかったか。


 仕方ないので俺からも抱きしめ返してみる。

 するとピクッとしてレイシアはおもむろに離れた。

 ズルいぞ。


「えっと、どうして、姉さんがリーゼロッテ様と?」

「リーゼと知り合いなのは、グランデ魔鉱山のときに色々あったから知ってるよね。今回は、アデルと話がしたいみたいで。事が円滑に進むように取り計らってくれって頼まれたの」


 英雄が俺に?

 それにさっきの言葉。

 もしかして。


「久しぶりね。アデル・クリフォード」


 初対面なんですが。

 こりゃバレてるな。


 ミーニャはしばらく呆然としていて、ようやく事態が飲み込めたのか深々と頭を下げる。

 そして一歩身を引いた。


「どのようなご用件でしょうか」

「そうかしこまらなくても良いわ。あなたと私は同じ・・なの。タメ口で話しなさい」


 そういうこと。

 なら遠慮は必要ないな。


「じゃあ、リーゼ?」

「殺すわよ」


 なんで!?


「あ、えと、リーゼロッテ……は、何をしにここに?」

「連絡よ。今、フロレンシアが世界を飛び回って情報収集をしているの。残りの……四天魔? だったかしら。そいつらは見つけ次第、私たち三人で処理するから。あなたはロレイスターの方へ行きなさい」


 結構知ってるな。


「いつからここに」

「黒スーツが吹っ飛ばされたあたりからよ」


 ならもっと早くに声をかけろよ。


「その言い方だと俺の力を知ってるみたいだけど」


 今バレたのか。

 それとも事前から知ってたのか。


 レイシアに視線を移してみる。


 目が合うと、レイシアはニコッと笑った。


 じーっと見続けてみる。


 レイシアは恥ずかしそうに目を伏した。


 なお真顔で見つめ続ける。 


 レイシアは首を傾げた。

 そしてようやく意図に気づいたレイシアは、両手を胸の前で小さく振った。


「私じゃないよ。私はむしろ教えてもらった方」


 そうなのか。

 二年前のあれもリーゼロッテの入れ知恵か。


「あの馬鹿デカい猿と戦ったときよ。ここで話していいのなら、そうするけれど」


 そう言ってリーゼロッテは俺の後ろに控えていたミーニャに目をやった。


 まあ、せっかくここまで頑張ったから秘密は通したいけど。

 ハーデスとかいうやつのところに行くにもミーニャと一緒だからな。

 どうすればいいのやら。


「アデル」


 レイシアが俺の手を丁寧に包む。


「アデルにしか頼めないの。お願い、できるかな?」


 レイシアのことだから、弟を危険な場所へは行かせられないとか言うと思ったんだが。

 意外だったな。


 俺の能力を理解してれば出て当然の言葉だけど。


「もちろん。やるよ」


 最初からそのつもりだし。


「でも、俺でいいのか」


 リーゼロッテの方は、完全に俺の能力について把握してるわけじゃないだろう。


「一番強い者が一番強い者と戦う。少なくとも私にはあの魔獣を倒せなかったわけだし。当然のことよ」

「まあ、そうだな」


 やれやれ。

 面倒が起こる前にハーデスとやらを倒したほうがいいか。


「みなさーん!」


 また上空から声が。

 今度は元気はつらつな若い声。


 うさみみの女の子だった。


「ヤッホー。おっ。いたいた」


 ミーニャの前に降り立った英雄フロレンシア。

 ペラペラと一枚の紙が踊っている。


「これ、契約書。わたしらの権限で制約解除してもらったから、確認サインだけしてね」

「え、あ、はい」


 ミーニャが紙とペンを受け取る。


 監視の契約か。

 手際がいいな。

 英雄たちは知らなかっただろうし。

 こっちはレイシアの計画だな。


「それじゃ。よろしく頼むわよ」


 リーゼロッテに肩を叩かれ、レイシアに見守られながら。

 ミーニャのサインを確認したフロレンシアが俺の横にやってくる。


「覚悟はいいかい?」

「いつでもどうぞ」

「ではでは! いざ! 魔王を倒す勇者にならん! ジュワッ!」


 どこかで聞いたことがあるような掛け声と共に、俺を中心にして世界を回すように、周りで景色がグルグルと高速で流れていく。


 これが瞬間移動か。

 ダンジョン攻略を無視ししていきなりボス部屋目前とはな。


 そういえば、この魔王がお伽話をなぞらえたものなら。


 勇者の存在は、いったいどうなってるんだ?



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