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異常事態


 諸手を上げて、今まさに俺たちを襲わんとする熊型の猛獣。

 グリーズリッパーは本来危険地帯に生息する魔獣だ。

 どうしてここにいるのか。

 今はそれを考察している場合じゃない。


 このランクまで来ると生命力も並でなくなる。

 部分的に破壊するだけでは不足だ。


「アーイェ。ちょっと目を瞑ってろ」

「ふぇ? あ、こうですか?」


 俺が命令するとアーイェは大人しく目を閉じた。

 さっきの俺の力を見たのもあるんだろうけど。

 この状況でそれができるってのはキモがデカいな。


 即座にグリーズリッパーの懐に潜り込み、俺は手をめり込ませる。

 手の中に魔力を集中させ、氷属性に魔力変換した。


 人間が扱える魔力の範囲には限度がある。

 とりわけ、魔獣の体内のように魔力に覆われている空間で直接魔法を発動させることはほとんど不可能だ。

 手に集中させた魔力で超硬度の氷柱を生成し、内部からあらゆる方向に突き刺す。


 グリーズリッパーは咆哮を上げることもなく倒れた。


 全急所への同時攻撃だ。

 脳天まで突き抜けた氷は、いくらBクラスの魔獣といえど即死させる威力がある。

 俺は魔力量が少ないが、微小な魔力でも強力な魔法が使えるよう、俺の魔力と魔法との繫がりを強くしてある。


 さあ。

 この後は、どうする。

 個人的にはフィオネたちの様子を見に行きたいけど。

 この異常を指揮系統に伝えることが先決か。


 そう考えていると、上空で閃光が発された。


「救難信号……?」


 やっぱり、他の場所でも似たようなことが。


 それも一箇所じゃない。

 ボン、ボンと。

 各地でSOSが上がっている。


「ほわっ!?」


 俺はアーイェを抱きかかえる。

 並走してんたんじゃ遅すぎるからな。


「あの。もう、目を開けても良いでしょうか」

「いいよ」


 プネルケ村は後だ。

 こんだけ救援がでてりゃ嫌でもわかるだろ。


 フィオネの足音は……わかりにくいな。

 この川は結構近くにあったからすぐだったけど。

 移動してるせいもあるのか。


 とにかく音のする方に。

 その途中に救難信号があれば魔物ぶっとばしていこう。

 近づけば正確な場所もわかるだろうし。

 

「ほぉ……これは……魔力で守られているのでしょうか……」


 アーイェは流れる景色を眺めながらつぶやいた。

 抵抗とか雑音とかはアーイェも含めて抑えてあるからな。

 自分の置かれている状況と感覚が一致しないんだろう。


「そんなとこだ」


 移動にかかる時間は、ほんの数秒だ。

 まず第一の救援。

 四人で固まった男たちが囲まれている。


 細長い胴に鋭い鎌、そして上向きに伸びた牙。

 イノシシ顔のカマキリみたいなやつ2体に挟まれている。


「あ、あれは――」


 物知りアーイェが解説を述べようとしてくれてたみたいだが。

 あいにく悠長に聞いてる暇もない。


 俺は直進のスピードをそのままに、一体目の魔獣の胴体を蹴って斬り飛ばす。

 緑色の血を噴射させてそいつは倒れた。


 少し足が痛い。

 かなりの力が必要だった。

 虫みたいな体をしてるくせに硬質型のようだ。

 次はもっと上手く調節するか。


「あ、アデルさん……?」


 アーイェがなにやら驚いてるみたいだが。

 言いたいことがあるならリアクション取ってないで言ってくれ。

 いちいち聞き返してる気分じゃない。


 二体目に駆け寄り、同様に胴を蹴り斬る。

 今度は温めたバターをスライスするように簡単だった。

 その後ろで木が真っ二つになって倒れる。

 やり過ぎたか。


 敵の物理的性質だけを変えてやろう。

 相手が生身でどうにかなるサイズなら、足の方にはさして力を込める必要はない。


 最後にピクピクと動いていた二匹の頭に氷柱を突き刺し、奥へ向かう。


 そろそろフィオネも近いな。

 だが第二の救難信号も救ってやらないと。


「ほわー」


 アーイェはもう何を言う気もなくしたようだ。

 面倒だからそれでいい。


 次に見えたのは女の子の8人組。

 ちょっと数が多いな。

 もう俺の手はアーイェでいっぱいだし。

 固まりすぎだろお前ら。


 その8人めがけて四方にいる巨大蜘蛛がお尻を向けている。

 いや、あれは蜘蛛なのか?

 先端にあるのは肉眼で確認できるサイズの毒針だ。

 それがすでに、根本から離れて射出されていた。


 蜂と蜘蛛との混合タイプかよ。

 魔獣ってのはキメラが多いのか。

 よくわかんねえが、とりあえずあの8人を守るのが最優先だ。


 俺は両足で地面を踏み、地属性魔法を発動して8人に周りに4つの土の壁を作る。

 毒針は半分ほど刺さって停止した。

 かなりの威力だな。

 マグナムとか比にならない。


 魔獣たちは一瞬だけ硬直し、しかし諦めることなく壁の間に移動して生徒たちを襲い続けようとする。

 だがもうあいつらに次はない。

 地属性魔法で地面から4本の腕を生成し、上空へと殴り上げる。

 俺はそれを風魔法で一箇所に集め、見た目が今までで一番気持ち悪かったので、ここは妥協して炎魔法で燃やし尽くすことにした。


 さあ、次だ。


 そろそろフィオネの近くだな。

 あいつなら雑魚相手に遅れをとることはないだろうが。

 CクラスBクラスともなると話は別。

 助けてやりたい。


「フィオネ!」


 見つけた。

 紅い髪色は森のなかでよく目立つ。

 フィオネが囲まれてるのは大人サイズの土人形だった。


 動きもトロいし、なんだ雑魚か。

 しかし20、いや30匹はいるな。

 この数の処理は下手をすると怪我をすることもある。


 片付けちまうか。


「あ、アデル……?」


 フィオネの声を聞きながら、俺は駆け抜ける勢いそのままに土人形を蹴散らす。

 一体を片足で蹴り壊し、着地する足で次の魔獣まで一歩で移動し、それをまた蹴り壊して移動してを繰り返した。


 30連撃。

 それを数秒で片付ける。

 気づけばそこにはバラバラになった多量の土片だけが残っていた。


「大丈夫か、フィオネ」

「ええ。どうしてここが?」

「今はそれどころじゃない。皆でプネルケ村に移動するんだ」

「何が起こってるのかは……知らないわよね?」

「ああ知らない。とにかく一箇所に固まったほうがいい。その奥にいる子も連れていけ。おそらくだが、あの魔獣は外から来てる。プネルケ村側ならまだ少ないはずだ」

「わかったわ。で、その子はどうするの?」

「え? ああ……」


 アーイェは俺の腕の中ですっかり縮こまっていた。

 ちょっと怖がっているようにも見える。

 まあ、無理もないか。

 あんだけ大量の魔獣を見せられちゃな。


「アーイェっていうんだ。こいつも頼む」


 俺はアーイェを降ろした。


「立てるか?」

「あ……はい……」


 ボーッとしてるけど、大丈夫かな。

 そこも含めてフィオネに任せるか。


「俺はできるだけ救難信号が出てるとこを回る。シャルロットたちのことも心配だろうが、俺に任せろ。危険なことはするなよ。自分の身を最優先に守れ」

「う、うん」


 多少強めの口調になっちまったが。

 この緊迫した状況じゃこれぐらいがいい。


「ねえ。こんなときに、悪いんだけど」


 フィオネは見たこともないぐらい間の抜けた表情で俺を見る。


「あんたって、ほんとに強かったのね」


 何を今更。

 当然だろ。


「実技試験トップの力、なめんなよ」


 誰も知らないけどな!


「無理すんなよ!」


 そう言って俺はシャルロットたちのところへ向かう。


 何が起こってるんだかさっぱりだが。


 こちとらミスターチートだぜ。


 全員無事に村まで送り届けてやらあ。


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