表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/48

シチュエーション萌えは性感よりも甘美に響く


 薄っすらと橙色に照らされる脱衣所。

 周囲の電気は、いつの間にか消えている。

 背後で続く衣擦れの音に急かされて、俺は服を脱いだ。


 しかし、下着に手をかけた瞬間に迷いがよぎる。

 本当にこれを下ろしていいのか。

 まだ未熟なこの身体を。

 決して立派とはいえない男を。

 姉に見せても良いのだろうか。


 気づけば周囲は無音だった。

 レイシアはもう、脱ぎ終わったらしい。

 あるいは、俺と同じように迷っているということもありえるが。


 脱いでいるだろう。

 あの姉は、真の意味で俺を弟としかみていない。

 まだ10歳の子供に野性など存在しないと。

 レイシアはそう思い込んでいる。


 なら、俺も姉と女を区別しなくてはならない。

 少なくとも、今のところは。

 なんでもよかった。

 ただ自分に言い聞かして、気持ちをごまかしたかった。

 そうやって俺は、どうにかすべてを脱ぎ去ることができた。


 どうせ楽しそうに俺を眺めているであろうレイシアと、俺は向き合う。


 しかしそこにあったは、いつものようにあらゆる羞恥を跳ね返す笑顔ではなかった。

 口角こそ上がってはいるものの、はにかむような、内からくるむず痒さを口の中で必死に抑えているような。

 そんな面持ちだった。


「なんだか、恥ずかしいね」

「う、うん」


 両手で頬を押さえて目をそらす。

 さっきまでの威勢の良さはいったいどこへいった。


「なんだか懐かしいよ。最後に入ったのはいつだったかな」

「んー。6歳ぐらいまでは毎日だったよね。それから……もともとは、お父さんたちがお風呂ぐらい一人でできるようにさせなさいって言うから、仕方なく別々で入ってただけで」


 ああ。

 あのときは悲しさのあまり風呂場で泣いたな。

 お風呂の中なら。

 涙はわからないから。


 まあ嘘だけど。

 しばらくダウナーになっていたのは覚えている。


 ちなみに、我が家のお風呂は一般家庭の3倍程度広いだけで、特別な設備が充実しているというわけではない。

 この家なら金のマーライオンとか置いてあってもおかしくはないけど。

 いたって普通の風呂場だ。


「じゃあ入るよ。せっかくの機会だし、お姉ちゃんが洗ってあげるね」


 そう言ってレイシアは、椅子に座って膝をぽんぽん叩いた。

 ずいぶんと羽振りがいいじゃないか。

 なにが目的だ。

 いやもうそんなとこ乗れるような年齢ではないんだが。


「膝に乗ったら、足の関節が変な位置にくるし」

「縦に伸ばすからいけないんだよ。横に開けば、ほら」

「えっ……」


 それがどういう意味かわかっているのか。

 レイシアの膝を挟んで足を開くというのはつまり。

 大切な部分が完全解放されるんだぞ。


「だって、そうしないと。椅子は1つしかないし」

「じゃ、じゃあ、床に体育座りするから」

「そう?」

「うん」


 俺はレイシアの前まで移動する。

 そして、これもこれで問題な体勢であることに改めて気づく。


「そしたら、アデルは。お姉ちゃんの、膝の間においで」

「わかった」


 おちけつ俺。

 四年前までは平気でやってたじゃないか。

 たかが四年分成長したくらいで何だ。

 なにがどうなるっていうんだ。


 俺が床に座る。

 それに合わせてレイシアが距離を詰める。

 座ったまま、お腹と背中がくっつきそうな位置になる。


 あ……あったかい……。


「頭に、お湯、流すね」

「うん」


 四年というブランクはまったく感じなかった。

 レイシアの指が俺の髪の間に滑り込み、頭皮を揉み上げる。

 指が当たる感触が変わらない気がするのは成長の度合いが同じだからか。


 シャンプーを洗い流して、前後交代。

 実は俺が洗う側になるのは初めてだったりする。


 イメージはあった。

 長いことレイシアに洗ってもらっていたのだ。

 似たようなことをすればいいだけ。

 そう思っていたのだが。


 女性の長い髪は、洗うのにえらく労力を必要とするものだった。

 まず脂の度合いなどに関係なく泡が立ちにくい。

 レイシアは特に髪の毛の量が多いこともあり、一度泡立ててもすぐに逃げていく。


 この真っ直ぐに伸びる長い髪の毛がクセモノだ。

 水分を長く保ってくれない。


「うっ……上手くできなくてごめん」

「ううん。気持ちいいよ。アデルは洗うの初めてなのに、上手だね」


 ああ、姉よ。

 なぜあなたはそんなに優しいのか。


 神か。


「頭が終わったら、顔は自分でやって。その……身体も、洗いっこ、しようか」

「そう、だね」


 自分で言っておいてなんでそんな顔を赤らめる。

 この姉何かが吹っ切れてるぞ。


 身体も俺が一方的に洗ってもらってたからな。

 レイシアの身体を洗うのも、これが初めてか。


「じゃ、また交代ね」


 まずは俺がレイシアに身体を洗ってもらう番。

 身体を洗うのは椅子に座っていたほうが都合がよいのでレイシアが後ろに回る。


「ボディタオルで、泡立てて。アデルは、一人で入る時もきちんと泡だてしてる? ゴシゴシすると肌によくないよ」

「してるよ」


 俺は男だからそんな繊細にならなくてもいいんだけどな。

 いままで触れなかったが、俺は外見的に非常に恵まれている。

 そういう自覚があるから、出来る限り劣化のしない生き方はしているつもりだ。


 レイシアはAPP20相当の、神域にまで達した人間なので、俺はさすがにそこまで出来上がった造形ではないにしろ、オスマルド魔法学校の男子全員と比べてもトップファイブぐらいには入る自信がある。

 この顔は、ぶっちゃけるなら第二のチートだ。

 大切にしたいと思う。


 できるだけ泡だけでこするように全身をなぞるレイシアの手。

 細くて白くて、職人が10年かけて作った人形でもここまでキレイな形にはなるまい。

 その手が、腕から、背中、腹、そして足を経て、ノータイムで股にまで侵入してくる。


 久しぶりの感触に「んん」っと声が出てしまった。

 ものすごく恥ずかしい。


 そしてマズい。

 完全に下が反応した。

 辛うじて泡があるから見えてないけど。


 まて。

 ダメだ。

 興奮している姿を一方的に見られるのは、さすがに耐え難い。


「ど、どうせ、泡ついちゃうから。このまま姉さんを洗ってから流すね」

「そう? ヒリヒリしない?」

「この石鹸はそういう風にならないから」


 なるけどね。

 だけどチートを使えば酸の影響もアルカリの影響も無効化できる。

 チートバンザイ。


「じゃ、いくね」


 泡立てはしっかり。

 この絹のように輝く透き通るような肌を、一ミリとして傷つけてはならない。


 っていうか。

 髪を洗ってる時はあんまり意識してなかったけど。


 レイシアはおっぱいが大きい。

 ……って、前も言ったな。


 下乳から先っぽまで完成されすぎている。

 いや、知ってたんだけどね。

 知ってたんだけど。


 この体勢で、その形を維持できるものなのか。

 それともやはり、ファンタジーだから許されるものなのか。

 あるいは、レイシアをヒトとして扱う事自体、不敬に値するのかもしれない。


「アデル?」

「あっ、あわっ、泡立てるの慣れなくて!」

「そっか」

「もう、大丈夫」


 さあ、やるぞ。

 腕と、背中と、お腹までは大丈夫。


 胸とかも、平気だよな。

 ボディタオル使ってるわけだし。

 泡立ててるから刺激もないだろうし。

 多少、ちょっとぐらい、入念にしても。


 そろーっと脇から手をしのばせる。

 首の前から徐々に下へ。


 息を呑む。

 体格差の関係で、ほとんど抱きかかえている状態だ。

 この密接した状況。

 そして無音の風呂場。

 吐息1つどころか鼓動まで聞こえてもおかしくない。


 息が苦しい。

 さっさと終わらせていったん下がるか?

 でも今下がったらわざわざ二度目というのもバツが悪い。


 レイシアの、胸の先に、触れる。

 後もう少し。

 でも、もう、息が。


「ふぅ……」

「ひゃうっ!?」


 や、やっちまった。

 アホか俺は。


「ごめん」

「だ、大丈夫。ビックリしただけ、だから」


 レイシアは胸に手を当て、深く、深く息を吸い込む。


 大丈夫そうに見えないんだが。

 その背中は続きをやれということか。

 よかろう。

 私もここで引くつもりは毛頭ない。


 ボディタオルを構え直して、次は足だ。

 そう考えるだけで俺の手が迷子になった。

 女性の足に触れるのは、それだけで罪悪感があるのだ。


 腕や背中はまだ触れる機会は多い。

 満員電車などでやむなくあたってしまうこともある。

 だから、改めて意識しなければ特別なにを感じることもない。

 それは女性側としても近いものがあるだろう。


 だが、下半身にはまず触らない。

 肩を掴んでもセクハラになりにくいその行為が、下半身に向いただけで即逮捕である。


 女の子同士であればそれなりに触り合う機会のある人もいるかもしれないが。

 尻尾の生えたキャラがそこに触れるとやたらと敏感に反応するように。

 他人に触れれる機会の少ないその場所は、とても感じやすいのだ。

 だから相手もそこに触れられることを極端に厭う。


 そこに俺は今、触れようとしている。

 しかも目の前にあるのは、国宝級の美少女だ。

 これはもはや敬虔なクリスチャンが聖母マリアに陰部を押し当てるようなもの。

 神はこの行いをお許しになるだろうか。

 いや止めるなど無理だ許してくれ。


 いくら痩せようとも肉感がなくなることのないふともも。

 スラっと伸びた脚の先には、指の長い足が真っ直ぐに揃っている。


「じゃあ、少しだけ。足を開いてもらってもいいかな」

「うん」


 外側から、内へ。

 手を忍ばせる。


 先に、足から済ませよう。

 レイシアの内ももを洗い、手前から、奥へ。


 脚が、長い。


「きゃっ。く、くすぐったいって」


 俺の髪がレイシアの脇腹に擦れたみたいだ。

 それを避けるようにして、レイシアは上半身を傾ける。


「姉さん、そんな風に身体をよじったら、石鹸が……!」


 お風呂場はすでに泡まみれ。

 お尻の両方に重心を置いているからこそバランスをとっていられるというのに。


 レイシアも気が動転していたのだろう。

 椅子の上で不安定な体勢になったレイシアは、壁に手を付き損ね、滑りやすい床で体を支えようとして見事に足を滑らせた。


 ただウォータースライダーのように前を向いたまま滑ってくれればよかった。

 しかしそのとき俺はレイシアの横に体を寄せていた上、身をよじったレイシアは、俺の正面を向いている。


 俺の下腹部を、柔らかな圧迫感が、ぬるぬるとすり抜けた。


 カランコロン、と椅子が転がる音が響く。


 庇おうとして、レイシアの頭を腕に抱いたまま。

 我が小さな分身は、たしかにその大きな山の間に埋もれていた。


「わっ……ご……ごめんねアデル!」


 視界の端でお湯が弾けた。


 白んだ頭の中で、それがレイシアがお湯に飛び込んだものだと理解するのにしばらく時間を要した。

 頭が冷静になり、状況を理解すれば理解するほどに心拍数は跳ね上がっていく。


 一瞬とはいえすさまじい快感だった。

 あの事故の最中。

 仮に我が分身が果てていたとして、いったい誰が俺を責められようか。

 いや責められない(反語)。


 浴槽に泡が溶けていく。

 中途半端に洗い残ったその泡を、レイシアはお湯に潜って取り去った。

 そして水面から顔を出したレイシアは、照れくさそうに頭をかいた。


「あはは。どうせお湯、すぐキレイになるから。アデルもそのまま来ちゃいなよ」

「ん、まあ、そうしようか」


 帰ってきてそのままざっぶんというのも、この風呂なら許される。

 身から溢れた汚れは魔法が浄化してくれるからだ。


 湯船に入り、両手を広げる姉に吸い込まれる。

 自然な流れで、二人は前を向いて重なった。

 これが俺たち二人にとっての入浴スタイルだったからだ。


「もう、こんなに肩が出ちゃうんだね」

「背も結構伸びたから」

「冷える?」

「少し」


 二の腕半分ぐらい浸かっていればいいが。

 レイシアの膝の上に乗っていると濡れた身体が晒されて寒くなる。


「さっきみたいに、膝の間においで」

「う、うん」


 なんだろう、この感じ。

 悪くないはずなのに。

 いままでもそうしてきたはずなのに。


 心の奥底で何かがくすぶっていた。


 俺はいつまでなされるがままなんだ?


 風呂に入るまでも、風呂に入ってからも。

 合わせていると言えば聞こえはいいが、結局のところ、俺はしたいことから目をそむけているだけだ。


 この体だから。

 そういう環境だから。

 そう思ってしまうのも、すべて、南馬遠夜がそうあるべきだと思っていたからじゃないか?


 俺はこんなときまで、アデル・クリフォードでいる必要はないだろ。


「姉さん」


 振り向いて、レイシアの股下に膝を立てる。


 レイシアは目を丸くして俺を見ていた。


 水に濡れた唇が、いつもより熟れた紅を宿している。

 湯船に浮かぶ2つの乳房は、風呂場の明かりに照らされて丸い輝きを放ち、その頂に見える薄桃色の凸型が、細身ながらも女性らしい丸みを持った両の腕に抱かれて隠された。


「どう、したの?」


 不安げにレイシアは訊く。


「少し、体が熱い」

「そう? なら、上がろっか」


 レイシアは慌てた様子で立ち上がろうとする。

 その湯船にかけようとした手を、俺が止める。


「姉さん」

「あ、アデル……?」


 戸惑いと、若干の恐怖が混ざった表情。


 そんな顔もできるんだな。

 それはもう、何が起こるかわかっている目だ。


「体の下のほうが、おかしいんだ。どうしたらいいかな?」

「え? あっ……」


 俺はレイシアにとってはただの子供。

 まだ男も女も知らないピュアな弟だ。

 こいつをどうすればいいのか、アデルはまだ教わっていない。


 だけどレイシア。

 その様子じゃ君はわかってるんだろ。


 さあ。

 答えをくれ。


「そ、それは……」


 右へ左へ。

 目を泳がせるレイシア。


「お……」

「お?」

「お姉ちゃんの部屋に正しい姉弟の関係を記した書物があるので! 私がいない時にそれを読んでください!」

「ええっ!?」


 そんな答えは予想外だ!


 ってちょ、体が動かねえ!


「お姉ちゃんは上がります!」


 ザバッと飛び出して風呂場を後にするレイシア。

 あんにゃろうこんなところで魔法使いやがった。

 氷の塊が俺の体を拘束している。


 めっちゃ硬いんだけどなにこれ。

 しかもまるでお湯に溶ける様子がない。


 このままだと風呂の魔石が秒で枯渇する。

 早くレイシアの魔力とこの現象を切り離さないと。

 考えなし過ぎるだろ。

 俺じゃなかったら凍死してるところだ。


「あ、ごめん、大丈夫?」


 戻ってくんのかい。


「ああ、うん」


 なんかいい感じに体が冷えて。

 下の方も力をなくしてしまった。


「やっぱり、二人でお風呂は、控えよっか」


 そのレイシアの言葉に、俺は戦慄する。


 やってしまった。

 取り返しの付かないことを。

 少しでも冷静になればこうなることは予想できていたのに。


 だからこそ、俺は大人しくしていたんだろ。


 馬鹿だ。

 俺は。


「馬鹿だ――――」


 倒れるように湯船に沈んで。


 その日俺はレイシアに介抱されながら、心のなかで長い長い雨を降らした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ