甘いブドウ
あるとき、小さいシカがいました。
シカには、ずっと前から食べたいと思っていたブドウがありました。
ブドウは色がとてもよくて、見るからに甘そうなものでした。
ですが、そのブドウは鋭い枝に覆われていて、とても近づくことはできませんでした。
いつもは遠くから眺めているだけのシカでしたが、あるとき意を決してブドウに話しかけました。
「ブドウさん、ブドウさん。あなたのことをずっと前から見ていました。あなたを食べさせてくれませんか」
すると、ブドウはこう答えました。
「どうして、あなたに食べられないといけないの?あなたは身体が小さくて、何もできないじゃない」
「でも、あなたを食べて、その種を遠い場所に落とすことができます。」
「そんなこと、他のシカにもできることよ。鳥にだってできる。とにかく、あなたは絶対に嫌」
そういって、ブドウは黙りこんでしまいました。当然、枝に覆われたままでした。
シカは悲しくなって、その場から去りました。
(たぶん、あのブドウは本当に甘いのだろう、でも食べてしまうとそれっきりだし、
もしかしたらそれほど甘くないのかもしれない。だから、今までと同じ通り遠くから見ているのが一番いいんだ。ブドウは、見ているときが一番甘いんだ)
シカは、そう考えることにしました。