出て会う
「いや、…なんだい…っ…出かけるくらい良いだろうが…っ」
社をそっと抜け出した。そこまでは良かったのだが、その後が不味かった。すぐに主に気づかれ銀の毛並みも薄汚れ、息が絶え絶えになってもまだ逃げ続ける羽目となった。
「野暮…なんて…どころじゃないよ…っ、まったく…」
悪態をつき、逃げ回っているとどこに進んで行けばいいかわからなくなる。マタギよりよっぽど鼻が良く人間とやっかいな主の式に追い回され半ば涙目になりながら漸く潜り込んだ先はとある山。自らの産まれた山から出た事のない狐には知る由もない地方も異なる山だった。
基本、山にはその山の主がいる。主がいる山には主への挨拶無しに足を踏み入れることはかなりの失礼にあたる。しかし、今はそのようなことに構う余裕がない。捕まりたくない。その一心で縺れる脚を引き上げていた。なんせこの狐、走ることすらウン10年振りといった筋金入りの運動不足。そのせいで最近腹がつまめるように…
「や…かましぃ…っ」
気がそれたためか足を滑らせてゴロゴロと転がる。膝が着いたら次は立てず荒く息を吐きながら追っ手を見遣れば憎々しい姿がすぐそこにいた。
「あー、もぅ…っ」
狐が往生際悪くグッと込めた力は
「………え?」
振るわれることなく追っ手の形が消えた。大きな黒い塊が落ちてきたかと思った瞬間の銃声と叫び声。
そして狐は自分が一時の休息を得たことを知った。