軍事予報
【第24回フリーワンライ】
お題:傘が降る
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
鋼鉄製のドアがスライドし、軍服の男が室内に入ってきた。
胸に光る煌びやかな種々の略綬から、将軍であることが窺える。
将軍は言った。
「ついに完成したそうだな?」
「はい、閣下」
研究員らしい男が応じた。彼は一歩下がって将軍に場所を譲る。
「これが『軍事予報機』です」
研究員が手で指し示したものは、一見するとなんの変哲もない端末だった。ありふれたデスクトップ型のパーソナルコンピューター。しかし、そのパソコンの背後からは膨大な量のケーブルが枝分かれして伸びており、それらは全て壁面に穿たれた穴に繋がっていた。
本体は別のところにあるのだろう。
「市販品を用いた試作型ですが、機能は充分果たせます」
将軍は満足げに頷いた。
「よろしい。では説明してくれたまえ」
「は。すでにご承知の通りとは思いますが、この『軍事予報機』はデータを入力することによって、今後起こり得る近未来の軍事情勢を出力することが可能です。例えば……このように」
研究員が端末を操作し、何かの数値をインプットした。
『軍事予報機』は直ぐさま結果を表示した。
“中東○×国、政情不安定につき、国連の介入が見込まれる。首都市街地に向けて北西部からの侵攻、銃弾の雨、ところにより対地支援爆撃がある模様”
モニターに映ったそれを見て、将軍は唸った。
出がけに情報部からもたらされた報告と合致する。
が――
「確かにこのようなことは聞いた。だが、事前に打ち込んだ情報を見せただけではないのか?」
あらかじめ入力したものを表示しただけ、との疑念は拭えなかった。
「お疑いになるのはごもっともですが、そこは信用していただく他ありませんな」
「では試しにここの情報を入力してみよ」
「ここのですか?」
「そうだ。そもそも『軍事予報機』を発注した理由はわかっているだろう」
「予想され得る我が国のクーデター並びに隣国の侵略を事前に察知する……でしたか」
独裁国家の最高指揮官である将軍にとっては、どこで何が起こるのか、それを知る必要があった。火種のうちに消せれば、火事が起こることはない。必要なところに、必要な戦力を投入し、クーデターの芽を摘むのだ。
研究員は指示通りに数値を入れた。
今度も『軍事予報機』は即応した。
“我が偉大なる□△国最高研究所周辺、内圧上昇、これより傘が降る模様”
「傘? 傘だと? どういう意味だ」
「さて、データの入力間違いですかな……しばしお待ちを」
そこへ、血相を変えた兵士が飛び込んできた。
「将軍! クーデターです! 陸軍が離反、降下隊が――落下傘部隊の急襲です!」
『軍事予報』・了
急ぎで書いたから仕方ないんだけど、ちょっと分量足らんね。
ずっと別のお題で考えてて、ちっとも思い浮かばなかったから急遽変更した。
発想は悪くないと思うんだが、もうちょっと練り込みたかったところ。