2. 日常
男の名前は、佐藤創世といった。
情けない経験をするたびに、この名前を捨ててしまいたくなる。親はどうしてこんなに大げさな名前を付けてくれたのか。
彼の生活は怠惰を体現したようなものだった。生活費を最低限に抑え、日夜ネットに明け暮れる。金がなくなりそうになると、登録した派遣会社から日払いの案件を見つけて、その場しのぎに働く。日雇いの仕事は楽ではないが、煩わしい人間関係が無いだけマシだった。
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学生時代はファミリーレストランで働いていた。しかし年齢を重ねて周りが学生ばかりになり、すぐに居心地が悪くなった。年上なのに立場が低く愛想の悪い自分を好いてくれる者はいなかった。休憩室で談笑する学生バイトが自分を「フリーターさん」と呼んでいるのを聞いたことがある。学生たちは自分を異質な人間ととらえ、「ああなってはいけない」という教訓さえ見出していた。
創世は「公務員試験に備えるため」と告げて、バイトをやめた。
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今日の現場は、小さな物流工場での仕分け作業だった。朝7時半に到着し、指示者の到着を待つ。今日、この現場への派遣会社からの出勤は創世を含めて3人だった。皆、創世と同じ顔色をしている。希望も絶望も感じ取れない、色のない表情だった。
しばらくすると工場の管理者が来て、指示を始めた。退屈だが楽ではない仕事の始まりだ。仕事が始まると、創世たちはロボットになる。気をまぎらわすために違うことを考えていたりすると、ミスを犯す。かといって向上心を持って一生懸命取り組むにはあまりにもむなしい作業だ。ロボットになることが、最も効率的な感情のコントロール方法だった。
一日の作業が終わり、派遣会社に一報を入れる。
「おつかれさまです。A251002の佐藤です。ナローロジスティクス越谷工場を20時退勤です。...はい。...はい。失礼します。」
仕事後の小さな解放感とともに、危機感を感じていた。おれはいつまでこんな働き方を続けるんだ...?鬱屈とした感情は、ブログにでも書こう。そう決めて、工場を後にした。