1. フリーター
2030年、夏。東京都国分寺市。二階建ての貧乏臭いアパートに、もうまもなく30を過ぎようとする売れない画家が住んでいた。
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画家は、大学へ進学するためにここに移り住んだ。当時は若干19歳、一浪して入った大学は教育の分野でそこそこ名の通った国立大だった。無論、彼も教師になるつもりでここへ来た。だが、三年生の時に行った教育実習で現場の過酷さに直面し、呆気なく自信を失った。同じ時期に実習へ行った仲間は上手くやっていたので、余計に情けなさを感じた。
以来、彼は教師という職業がもともと向いてないのだと塞ぎ込むようになった。将来の見通しが真っ暗になり、現実から目を逸らしたまま卒業を迎えた。友人たちは心配してくれたが、ごまかし続けたまま時間だけが過ぎていた。
彼は、フリーターになった。しかも、夢のないフリーターだった。
大学の仲間とは次第に疎遠になり、バイトは転々としていたので腹を割って話せる相手などいない。バイトが無い日は自宅にこもり、パソコンに向かって自堕落な生活を綴る。驚くことに彼のブログは一部で人気を獲得し、読者は300人を超えた。気付けば、インターネットが彼にとっての主な社交場となっていた。