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真っ白なディッシュの上にて

始まりは森の中だった。


この幻界の歴史上ではただの獣が獣人になることは有り得なくはないことだが、それでもかなり珍しい一例ではある。

この世界には獣と獣人と亜人という3つに分けられており、人間という種族は絶滅、というよりはその血が薄まってもうほとんどいなくなったらしい。

全てを確かめることは出来ないので定かではない、だがしかしもう何千年と報告例が見つからないのであればいないのだろう。


そういった憶測から人間という言葉はとある出来事を除いて、この世界の住人は聞かなくなってしまったとか。


ここは闇の領域であるダークアンダー、国家はなく無法地帯と呼ぶにふさわしい荒廃ぶりで作物は実ることなどない、他の領域から略奪を繰り返し評判は良くないことは言うまでもないだろう。

同じ国家を持たない光の領域であるライト・ジャスティスとは大きな違いだが、それは彼らに統率というものを教えるものがいなかっただけだ、だからこそこうやって紫の空が立ち込めて空気は淀み枯れ木が立ち尽くす不毛の地と化したのだ。

そこで暮らす者達はだいたいは少人数でグループを組んで行動する、同じ領域の者だとしても利害が一致しなければ争いも起こり得る、その中の一つのグループに飼われていた狼がいた、その狼は獣ではあったが驚くべきことに人々と暮らしていくうちに言葉を覚えた、聡明とは違うが多少利口な狼。

敵がやって来ればどこの誰がどれだけ来たかを口頭で告げる、人の形に近くなり鼻が退化した同胞達の代わりに微かな匂いを感じ取り獲物や略奪する相手を見つける、彼はこのグループにとって欠かすことのできない一員となった。


しかし、平和というものはいつも流れ行くものであって、固定されはしない悲しきものだ。


彼はいつものように森を歩いていた、しかしいつもと違う匂いを感じる、それはこの領域に住むものでもなければ他の国家でもない異質な匂いだった。

森の木の下で悲しげな呻き声が聞こえた、しかしそれは悲しくはあるが醜くはないどこか美しい甘い声でグループに女がいないわけではないがそれとはまた異なった声。

近付いてみると彼の第一印象とはよそに見たこともないおぞましい光景が広がっていた、声の主は恐らく白山羊の亜人だ、着ている衣服を破かれ美しい白い肌が、というよりも豊満な胸が曝け出され数人に囲まれて乱暴に扱われている、汚い手でそれは揉みしだかれて一層に不快そうな声を出した。。

悲鳴を上げ逃げることも出来ずに泣いているそれから目を背けたいのに、けれど放ってもおけずその声の主の美しさに惹かれてしまった、百合のような白い髪に整った顔立ち、揃った歯並びに細く少し肉のないけれど貧相なのにどこか美しい四肢。。

不謹慎だとは思う、彼はただの獣だけれどまるでグループにいる仲間のように理性があり、人を労わる心もあり、しいていえばきっと人を恋しく愛しく思う心さえあったのだろうと。

ああ、彼女を助けたいと思ったらいつの間にか走り出していた、彼女を犯そうとする愚かな者達を懲らしめてやろうと、いやそれでは生温い、喉を噛み切って腹を裂き臓物を取り出してしまおうと。

だが彼らは不意にやってきた彼を恐れて一目散に逃げ出した、ただ彼女より強いだけであって自分には敵わないような軟弱な存在だったらしい、何てことだ、彼女はそんな下等な存在に犯されようとしていたのか。

彼女は彼を恐ろしげに見るわけでもなく、おいでおいでと手招きをして頭を優しく撫でてくれた、ありがとう、貴方がいなければ私はきっと乱暴をされてそのままどこかの市にでも売り飛ばされてしまったかもしれないとお礼を述べた。


「大丈夫か、ここは闇の領域ダーク・アンダー、女が一人で出歩けるような場所じゃない。」

「ええ、ごめんなさい…けれど私、一緒にいた仲間達とはぐれてしまって。」


彼女は途方にくれたような顔をした、彼は咄嗟に自分達の仲間のことを思い出し独りで困り果てた彼女を連れて行こうと思ったのだ、ただ彼はそして思いもしなかった、彼女の美しさとその正体。


それから数年後のこと、この醜い血で血を洗うような争いが始まった。

うっかりプロローグ的なものを用意していたのを忘れていました。

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