メモリー3
外の空気でやっと落ち着きを取り戻したはずの奈美だったが、
「ちょっと勝手に帰るなんてずるいよ」
背後から抱きつかれ耳元で囁かれた言葉に心臓が止まりそうになった。
動きたくても体が硬直して動けない。
今まで男性に対しての免疫のまったくない奈美にとってはこのスキンシップはきつい・・・
「離して下さい」
泣き出しそうな奈美の声に信也は余計に嬉しそうに抱きしめた腕に力を込めた。
「奈美ちゃん純情なんだね」
「どうして私の名前・・・」
震える奈美の声、
「奈美ちゃんのお友達に聞いてきたんだよ」
裕子に・・・?それって・・・
「お願いします。急いで裕子の側に戻ってもらえないですか?」
悲願するように奈美は頼んだ。(これじゃ明日裕子になにを言われるか解らない)
「それって俺にとってなにか得はあるの?」
質問するような信也の言葉に、
「裕子は美人だから彼女にすると毎日楽しいと思いますよ。
裕子、信也さんに気があるみたいだから・・・」
勝手に裕子のことを話してしまった奈美は俯くしかなかった。
「奈美ちゃんの携帯の番号俺に教えてくれたら、そのお願い聞いてあげても良いけど、どうする?」
交換条件を持ちかけたのは、信也の方だった。
仕方なく携帯の番号を信也に教えた奈美。
「俺から掛かってきた電話には絶対に出るんだよ。それじゃないとお友達にこのことばらすから・・・」
意味深な発言を残し信也はカラオケ店の中に戻っていった。
奈美はその背中を見つめ深いため息を吐き、
「やっぱり今日来たのは間違いだったみたい・・・」
そっと呟いた。