メモリー17
「‥‥‥酷い二人で私の事騙して影で笑っていたんでしょう」
ドアの前には優子が悲しそうな顔で立っていた。
その両手には真っ赤に染まった刃物が握られている。
「違うそうじゃない」
奈美は慌てて叫んだが、信也の身体はゆっくり前のめりに倒れ込んだ。
その背中から血が溢れている。
「私が悪いんじゃない。
悪いのは私を騙した二人なんだから」
玄関先でブツブツ独り言を言い続ける優子。
奈美は信也に駆け寄ると背中を押さえた。
押さえても血は流れ続け止まることをしらない。
急ぎ携帯で救急車を呼んだ。
「今救急車を呼んだから安心して」
奈美が必死に話しかけても信也は目を開こうとはしなかった。
その代わり伸ばされた両手。
何かを探しているかのように‥‥‥
奈美は信也の両手を掴むと、
「私はここにいるから‥‥‥」
必死に話し掛けた。
さっきまで冗談を言っていた信也の今の姿に胸が締め付けられ苦しくなってくる。
涙が溢れ、嗚咽が漏れるが必死に信也の名前を呼び続けた。
その間もずっと流れ続ける大量の血は床を濡らしていった。
呼びかけに答えるかのように最後の力を振り絞り目を薄ら開いた信也。
「‥‥‥ごめん、奈美を驚かせたりして・・・罰が当たったんだな。
でも俺は最後に幸せを奈美にもらったから悲しんだりしないで・・・
奈美は自分の幸せを見つけてほしい・・・
奈美ならきっとだ・い・じょ・うぶ」
その言葉を最後に息を引き取った信也は、奈美の腕の中で安らかな顔をしていた。
「馬鹿なんだから、ちゃんと私に幸せを与えてくれたくせに気づかないなんて」
仏壇の信也の写真に話し掛けた奈美のお腹の中には小さな命が宿っていた。
最後まで奈美の事を考えていた信也の行動力の素晴らしさには目を見張るものがあった。
あの日、強引に書かされたはずの婚姻届けは提出済みで既に奈美は信也の奥さんになっていた。
信也の遺産を相続した奈美は生活には困ることはない。
持て余した時間で、信也の残した宿題を引き継ぐことにした。
何か夢中になれるものが欲しかった。
一人で居るといろいろ考えすぎて精神的につわりが酷くなった。
不思議なことに小説を書いているとそれまで酷かったつわりもその間は平気。
きっとお腹の子も応援してくれているんだ。
優しく微笑むとお腹の中で元気に動く赤ちゃんをそっと撫ぜた。
元々文系だった奈美には書くことは向いている。
これからもきっと信也と一緒に書き続けていく。
隣で信也が見守っていてくれるそんな気がしていた。
柔らかい風が奈美の頬をくすぐりゆっくり流れていった。
御終い
最初っから読むと文章のつながりが悪いところが多くてすいませんでした。
今まで長い間お付き合い頂きありがとうございました。
本当に感謝しています。