メモリー10
奈美は唇を噛み締めていた。
あんなに簡単に唇を奪われたのが悔しかった。
それでも確実に時間は、刻々と過ぎていく。
信也の部屋を飛び出したまでは、良かったが鞄を部屋に置いてきてしまったことに気づいた。
鞄の中に携帯も財布も入っている。
回りを見渡しても、知らない場所。
溜息が漏れる。
一人公園のベンチに座りこんでどうしてこんなことになったのか考えた。
慣れないお酒を飲みすぎたせい?
二日酔いで痛む頭がそれを訴えていた。
喉の渇きを覚え、蛇口の水を手の平にのせ飲んだ。
冷たい水が体の中に入ると少しだけ気分も落ち着いてきて冷静な気持ちになれた。
「どうしよう?」
周りを見渡し、公園の斜め向かいに交番があるのに気づいた。
そこに駆け込み、おまわりさんに訳を話して現在地を教えてもらい交通費を借りた。
信也のことは、伏せておいた。
「すいません。後で絶対にお返しに伺います」
奈美は頭を深々と下げた。
おまわりさんが良い人で助かったと思いながら、教えてもらった駅までの道のりを必死に歩いた。
おまわりさんに二日酔いの薬をもらい飲んだおかげで少しは気分も楽になった。
急がないと講義に間に合わない。
頭の中はそのことで埋め尽くされた。
今は携帯のことは頭の中には全くなかった。
信也の手元で着信が鳴ったなんて知らずに・・・