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初めての○○

もう一つの方の展開が詰まったので息抜き程度にやっています。




 身体の節々が痛い。おまけに何か腐った臭いが鼻につく。

閉じていた瞼を開くと罅の入った壁が視界に入ってきた。体を起して座ったまま、周囲を見渡す。

 土色の壁が前後にあり、そのまま左右に壁が続いている。上には天井が無く青空が広がっている。ここはどうやら何処かの街の裏路地のようだ。それもゴミ置き場。座っている場所に陶器の破片、枯れた木片といったゴミ屑が沢山散らばっている。端の方に小動物の腐敗した死骸に蠅がたかっている。ネズミだろうか。

それを見ないようにして立ちあがり、もう一度辺りを見回す。さてとどちらに行こうか。

黒髪と服に付いた土を払いながら進む方向を決める。(とりあえず右から行こう)と軽く思考した後、足を右の道に向けた。



 歩いて10分もしないうちに布を被って罅だらけの壁に座った人に出会った。浮浪者だろうか、頭の上に蠅がたかっている。ちょっと危ない気もするが、少しばかり一人で知らない土地にいることに不安を抱いていたので、人がいたということに浮かれて声を掛けた。

「すみません、ちょっと道を尋ねたいのですが…」


 静寂。


 返答なし。身動ぎ一つしない。寝ているのだろうか。次はもう少し大きな声で話し掛けてみた。


「すみませーん!」


 静寂。


 依然返答はなし。ブーンブーンと蠅の飛びまわる音だけが周囲を包む。そもそも言葉が通じているのだろうか。どうも空気と言うか建物の形と言うか、日本とはまるっきり違う。

(歩いてきた道は整備もされてないしね)

動かない浮浪者を横目に見ながら、コツコツと足音を立てて先に進む。

(ホント、ここどこだろ)

 辺りを見回しながら足を進める。土でできた建物の壁。整備されていない地面。

(外国っぽいけど、どうして私がここにいるんだろ)

 無意味にブランブランと手を揺らす。

(おとーさん、心配してるだろなー)

 と揺らす手をそのままにゆっくりと歩みを止める。


(日本の、どこに住んでいたんだっ、け……)


 ザワリと首から背筋に掛けて嫌な汗が流れ、身体を硬直させる。自身の住んでいた場所が思い出せないのだ。―――いや、それどころか。


(なまえ……、なんだっけ)


 目を見開いて硬直した表情のまま、頭の中が熱くなり、脳を回転させ、自身の記憶を掘り探る。


(年齢は?)(家族構成は?)(好きなものは?)(嫌いなやつは?)(ペットは?)


 グルングルンと脳を回転させ、疑問を解消しようとするが、これといって有益な情報が思い出せない。そしてピタリと思考を止める。


(記憶喪失ってやつか)


 その事実をすんなりと受け入れる事が出来た。それもあっさりと。

この切り替え速度が普通なのか、それとも異常なのかは分からないが、パニックにならずに済んで良かった、と思う事にした。

変に考えすぎて動転しても困る。そんなことより今、分かる事から考えよう。


(とりあえず性別は女、だよね?)

 服の上から手を胸に置き、ちょっと自信なさげな顔をする。

(我ながらねぇな…)

 服の上からだとよく分からないが、女の柔らかい胸のようなものが下にある、様な気がする。

自身の身体のくせに他人事のようだ。記憶が戻ったら何か違うのだろうか。

 頭を傾げながらため息を吐いた。


(記憶が無いのが痛い、が、本国に戻れさえすれば、いずれ家族とも会えるだろ)

 そう考え、頭を切り替えた。今やるべき事は人に会い、本国まで無事に帰る事。

女は小さく、よしっ、と声を出し、足を進めて歩み始めた。



 それから20分もしないうちに前方から人のざわめく、賑やかな声が聞こえてきた。

小さく笑顔を作り、歩く速度を速め、その先に向かう。美味しそうな臭いが漂ってくる。

そういえばお腹空いたな、と女はお腹を押さえた。

そして人の賑わう街の大通りに出た。女の視界には様々な人の歩く光景が飛び込んできた。そう、様々な人、のようなものが。

 女はピキッと表情が強張らせ、その場で足を止め、その光景を硬直した眼差しで見つめる。


漫画のような戦士の格好をした大きなトカゲ。服を着た図体のデカイ毛むくじゃらの熊の格好をした人のような生き物。猫の体躯をした親子連れ。猿のように毛の生えた人が馬に鞭を当て、馬車を走らせる。

女の頭の中に色んな考えが飛び交う。


ドッキリ?映画の撮影中?夢が幻か?と、女は呆然とした表情をする。


そのまま見続けているとその人とも動物ともいえない生物の一人が、此方を向いた。無機質な光を目に宿らせながら。

 ゾワッ、と、先ほどとは比べ物にならないほどの寒気が背筋に走り、大きく鼓動が鳴る。

女はすぐさま身を翻し、来た道へと走る。走り去る。あの目は駄目だ。あんな目をした生き物と話し合いなんてできない。あれではまるで――――――。


(餌を見つけた獣の目だ――ッ!)


 あの目から、あの得体に知れない生き物たちから、遠ざかる様に脇目も振らずその場を逃げ去る。




 ぜぇぜぇ、と息を途切れさせながら壁に背を付け、へたり込む。

頭から汗が流れ落ちる。全力で足を動かしたからか、足がガクガクと震えている。両腕も震えてきた。

手足を芋虫のようにして丸める。その震えが伝染したかのように体中が震え始める。


 ガチガチと歯のかみ合う音が鳴る。疲れのせいだけはない。先程見た光景が、生き物が、あの目が、怖かったのだ。

「ううっ…っ、うっ……!」

 押し殺そうとしている女の嗚咽が辺りを包む。



 体を丸めている女の耳にトン、と小さく乾いた音が入ってきた。女はゆっくりと涙で濡れた顔を上げ、音の聞こえてきた方向を見る。


 ボロボロの布を被った毛むくじゃらの男が佇んでその場に立っていた。

震えていた体がいつの間にか止まっていた。目を見開き、その男を見る。先程座り込んでいた浮浪者だ。

布の切れ目から顔を覗かせている。蠅のたかる黒ずんだ赤い髪と髭を茫々に生やした男が此方を眺めていた。というよりも睨んでいる。妙にギラギラとした目で。すごく嫌な予感。


 何か行動される前に女は転がるように立ち上がり、疲労した手足を無理矢理動かして駆け逃げる。

後ろから浮浪者が何か喚いて追っかけてくる。首筋の毛が逆立ち、ピリピリとする。

土埃が舞いそうな速度で路地を駆け抜けるが、後ろからは未だに男が何か叫びながら追ってくる。怖い。恐怖心が足に伝わり、内から震えているような気がする。

思わず僅かばかり速度を落としてしまう。その瞬間。

 ビリッ、とした鋭い痛みが右のふくらはぎから太ももに掛けて走った。


 その痛みに気を取られて足をもつれさせ、顔から地面にぶち当たる。そのままの勢いで一回転した後、背中を地面に擦りつけられるようにして土煙を出しながら止まった。止まってしまった。

転げ回った衝撃のあまり吐き気する。グワングワンと意識が定まらない。後ろからあの男がやってくる。早く立ち上がらないと。必死に立ち上がり、よろめきながら走ろうとする。が―――――。


「うぐ……っ!」


 逃げようとする背中に男は体当たりをするように跳びかかった。男と一緒に地面を転げ回る。ドンッ!、と強く壁に当たる。背中に衝撃が走り、土煙とゴミ屑を辺り中に舞わせ、止まった。

掴んでくる男を振り解いて逃げようとするが、男は女の腹の上に乗って挟むようにして足を広げ、立ち上がれないように動きを押さえ込む。

手足をバタつかせて必死にもがくが、男は相手の服をむしる様に破る。

 ギクリと背中に悪寒が走った。こいつ、私を―――――ッ!

 上に乗る男を両腕を使って叩き下ろそうとするが、ビクともしない。そうしている内に肌が晒される。男が不潔で毛むくじゃらな顔を近づける。臭い。まるで生ごみが腐ったような醜悪な臭いだ。

近づいてくる男の顔に手を付けて押し上げる、が、少しずつ押し戻されていく。腕が疲れてきた。顔をグイっと背け、横に逸らす。段々と顔が近づいてきた。

 逸らした視線の先に何か蠅のたかるものが見える。それはつい先刻に見たネズミの死骸。他にも周りにゴミクズが散らばっている。そう、今いる場所は先程までいたゴミ置き場だ。

こんな場所でやられるのか、とグチャグチャになった頭の中でかすめ、目尻から涙が零れる。


 男が直に肌に触れてきた。


 その瞬間、(―――――――――――)頭の中が真っ白になり、スッと表情が消える。

そして無意識のうちに、視界の端にあった小動物の死骸を右手で鷲掴みし、そのまま男の首目掛けて叩きつけていた。



 ざくっ、と、手の中で何か鈍い感触の後、男は小さく呻き声を上げ、肌を触れていた手の動きが一瞬ビクリと揺れた後止まった。死骸から飛び出た鋭い骨が男の首に突き刺さっている。

 その隙に女はグッとネズミの死骸と強く握り、右手を男の首に押し込んでぐりっと抉りながら横に押し退ける。


 嫌な感触と頬に男の血が噴き付く。それと同時に男の悲痛な叫び声が辺りを包んだ。


 腐った臭いの中に血の独特の鉄の匂いが混じる。男は首を抑え、声を上げながら転げ回る。

男の拘束から逃れた女はゆらりと立ち上がる。首から血を流して地面を惨めに転げ回る男を、頬に血の付いた能面のような表情で見つめながら。

女はだらりと腕を下ろし、足元に落ちていた石ころを握り込んだ。それから転げ回る男に足を向ける。

近づいてくる女に男は気がついて立ち上がろうとする。が、その男の顔面のど真ん中に、石を握り込んだ左手を振り下ろし、叩き込んだ。

ぐしゃっ、と、血肉を潰した暖かい感触が手の甲に伝わる。男が声もなく殴られた箇所に手を置いてその場に伏した。

 手の甲に鈍い痛みが走る。が、それを無視して倒れ込んだ男の後頭部に振り下ろす。ゴッ、と、先ほどよりも嫌な感触が手に走る。男が何か叫んでいる、が、それも無視。握り込んだ左手を振り上げ、下ろす。ゴツッ。もう一度。ゴツン。もう一度。ミシッ。もう一回。メキッ。もう一落とし。ゴキッ。もういっちょ。ゴキャ。




グシャ。ゴシャ。グシャ。グチャ。グチャ。グシャ。グチャ。ゴキャ。グチャ。グチャ。グチャ。ベキャ。バキャ。ベチャ。

 何度も、何度も、何度も何度も。振り上げ、振り下ろす。ただただ拳を振り下ろす。念には念を押して何度も何度も。



 30回振り下ろした時に男の呻く声が聞こえなくなった。

 50回を超えた辺りから男が完全に動きを止めた。

 それから何回やったから分からないが、女は力の続く限り殴り続けた。拳が裂けようとも。




 血の臭いが濃く、鼻を突く。

女は振り下ろしたまま手を止める。手を握り拳のまま静かに上げ、眺める。血塗れだ。血がべっとりと付いている。

振り下ろし続けていた先を見下ろす。男の陥没した頭が地面に土の入り混じった血溜まりを作っている。

女はそのまま後ろに倒れ込むように尻を地面につけた。


 血の零れ出る陥没した頭を虚ろな目で眺める。足が重い。両腕が疲れ切り、とてもだるい。先程まで熱かった身体が嘘のように冷たい。

 訳の分からない所に来て、そこには訳の分からない生き物が蔓延っている。おまけに記憶喪失と来た。と女は疲れ切ったように頭を俯かせた。


 俯いている視線の先に、石を握り込んだまま冷たくなり、血のこびり付いた左手が入る。

指を開いて石を放そうとするが放れない。指に力が入らないのだ。右手を使い、開こうとする。が、右手は何か握り込んでいる。

 右手を開いて見下ろすと、手の中にはネズミの死骸が入っていた。今までずっと握り込んでいたのか。それがおかしいのか、女は僅かに口の端を歪ませ、笑みの形を作った。


 死骸を放り投げ、右手で左指を一本ずつ丁寧に広げていく。

左指全てを広げると、ようやく手の平の上に血塗れ石が、姿を見せた。それをぼんやりとした目で見つめる。

何分か見つめ続けた後、手を傾け、石を落そうとする。その直前。



【石。投げるのに適している。血が付いている為、少し臭う。効果はなし。】といった文字が視界に湧き出るようにして出てきた。


「うわっ!」と、手をビクリと動かし、石を振り飛ばした。


 石を遠ざけてみたが、その妙な文字が視界からなくならない。

首を動かして視点をずらしても、瞼を閉じても、どこを見ても、その文字は消えずに残ったままだ。

そしてフッとその文字が空気に溶けるように消えていった。

 心臓がバクバクと音を立て、体が熱くなり始める。視界が急に開けた気がした。


(何だ今のは…?)


 バクバクと鼓動する胸を押さえ、若干血色の良くなった左手を眺める。

俯いてた顔を上げ、先程投げた石を見る。

(確かあの石を持っていたらなったんだよね)

 女は四つん這いでその石に近づき、恐る恐る手に取る。そして少しの時間が立った後。


【石。投げるのに適している。血が付いている為、少し臭う。少し罅が入っている。効果はなし。】


(出た…ッ)

 視界に文字がパッと出てきた。視点を動かしてみても文字は浮いたまま。

(日本語…。それにさっきとちょっと違う…?)

 何故、どうして、どうやって?と高揚する女の頭の中に色んな疑問は飛び交う。

説明、解説、概説。まるでパソコンのようにマウスを置くと説明書きが出るように。これでは、これではまるで―――――。



(ゲームみたい、だッ!?)



 そこまで考えた瞬間、ガツンと頭の中が揺れ、視界に光が飛び込んできた。目も開けれないような眩しい光。だが瞼を閉じても光は遮る事が出来ない。

チカチカと目の奥底まで響く様な光量。視界が光で白一面になる。

 やがてその強い光線が幾つも集まったかのような眩しい光は、ゆっくりと収まっていく。

そして先程の石の時のような文字。だが先程の文字よりも幾らか大きい。その文字を未だチカチカとする目で読んで少しの間をおいた後、力なく声を上げて笑った。

 光を帯びた文字が点滅し、視界の真ん中にこう書かれていた。





【剣と魔法の夢の原風景、"ピュクシスの世界"へようこそ!】と。






 如何だったでしょうか?

昔考えて、作ってみたいと思っていたゲームの設定を無理やり小説にして見ました。そのせいかVRMMO風になった気がしますが。

この先、VRMMOの小説と違った展開を書ければいいなと思います。


投稿は不定期と書きましたが、当分はこちらの小説に力を入れる次第であります。

感想・誤字の指摘や脱字・アドバイス等お待ちしております。

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